表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/113

第101話 一滴の涙、その価値と距離



 男たちが頭を抱える中、フェルマはそっと胸元のポーチを握りしめた。


「……と、とりあえずね」


 小さく息を吸い、みんなを見回す。


「素材は、足りない分以外は全部そろってるんだ。最後の素材さえ混ぜれば、すぐに完成まで持っていけるよ」


 クラウが頷く。


「……ああ。お前の調合スキルなら、そこから一気に仕上げられるな」


 調合に必要な専用の道具が無くても素材と瓶させあれば生成可能なのを、少し前にフェルマが、目の前でエリクサーを創り上げたのを見ていた彼らは知っていた。


 薬草を触った瞬間に性質を見抜き、抽出から精製までをフェルマらしい調合の速さと正確さで、一息にまとめてしまう。


 フェルマは照れくさそうに笑った。


「えへへ……。ぼくのスキルなら、途中まで組んである分、最後の一滴を加えるだけで仕上げられるよ」


 リュカが肩をすくめる。


「便利すぎるんだよ、ほんと……」


 ストレイも静かに頷いた。


「素材さえ揃えば、時間の問題はないな」


 だからこそ、残る最後の素材が問題だった。


 乙女の涙。確かに難しいが、絶望というほどではない。ただ、彼らにとっては……如何にして入手するのかが、あまりにもハードルが高く感じられた。


 フェルマは小瓶を並べながら、そっと指を折った。


「……えっとね。今ある素材なら、二本分は生成できるよ。あとは最後の素材を混ぜれば完成」


 リュカが即座にツッコむ。


「二本!? いやいや、それまたハードル高いんだけど!? 乙女の涙、二人分ってことじゃん!」


 フェルマは苦笑しながら肩をすくめた。


「量はね……乙女の涙が一滴入った瞬間に、液体が虹色に輝くんだ。そうなればエリクサーの完成なんだよ」


 クラウが腕を組む。


「……つまり、一滴でいいのか」


「うん。一滴で十分」


 リュカは頭を抱えた。


「で、それをどうやって集めるんだよ……」


 何度目かの沈黙。風の結界の中に、重い空気が落ちる。その沈黙を破ったのは、やっぱり手よりも口が先に動くリュカだった。


「……なぁ、ストレイが死にかけてるって言ったら、あのふわふわのお姫様、泣いてくれるんじゃないかな?」


 その瞬間、ストレイの視線がリュカに突き刺さった。


「…………」


 リュカは肩をすくめて後ずさる。


「こ、こわっ!」


 ストレイは眼鏡を押し上げ、ほんの少しだけ頬を赤くしながら言った。


「……あの方は、見た目に反して、感性がかなり鋭い気がする。誰がどうみても、リュカの三文芝居で騙されるような方ではない」


 リュカは口を尖らせた。


「三文芝居って言うなよ……」


 フェルマは苦笑し、クラウはため息をつき、カゲトラは「拙者もそう思うでござる」と頷き、バルドは静かに目を閉じた。


 乙女の涙は一滴でいい。しかし、その一滴をどう得るかは、やはり簡単ではなさそうだった。


 沈黙が続く中、ストレイがふとクラウの方へ視線を向けた。


「……クラウなら、冴月様をどうにかして涙を流させられるんじゃないか?」


 その言葉に、クラウは心底不思議そうな顔でストレイをまじまじと見返した。


「……ん? 誰に言ってるんだ? まさか俺に言ってるんじゃないよな?」


 自分を指さすクラウ。ストレイはこくりと頷いた。


「もちろん、お前にだ」


 次の瞬間…… クラウは真っ赤になって叫んだ。


「む、無理に決まってるだろう!!」


 耳まで赤くしながら、興奮して手をぶんぶん振るクラウ。


「そ、そもそも冴月様は至高の御方なんだぞ!? お、俺がどうこうできるわけないだろうが!! む、無理無理無理!!」


 リュカは「だよねぇ」と肩をすくめ、カゲトラは「拙者も無理でござる」と静かに頷き、バルドは目を閉じて「……当然だ」と呟いた。


 ストレイは次に別の名前を出しかけた。


「では……夜々様なら……」


 しかし、その瞬間。フェルマがぴくりと反応し、あの面倒くさいスイッチが入りかけたのを感じて、ストレイは慌てて口を閉じた。


「……いや、やめておこう」


 フェルマは「ん?」と首をかしげたが、ストレイは何事もなかったように眼鏡を押し上げる。


「……あの方は感性が鋭い。どう見ても、リュカの三文芝居で騙されるような方ではない」


 リュカはむっとして言い返す。


「何度も三文芝居って言うなよ……!」


 しかし、もちろん誰も否定しなかった。


 乙女の涙は一滴でいい。とはいえ、その一滴をどう得るかは、やはり簡単ではなさそうだった。


 沈黙が続く中、クラウがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……リュカ、カゲトラ、バルド。お前らもこの国の女性たちと接触したんだよな?」


 その瞬間、三人の肩がびくんと跳ねた。


 リュカが気まずそうに頭をかきながら言う。


「ま、まぁ……そうだな。カゲトラの頭を取り合って、二人のそれは、美人さんと可憐な猫娘の女性が……膝枕争奪戦をしてたな」


 その言葉に、クラウ、ストレイ、フェルマの三人が同時に目を剥いた。


「「「膝枕だって!!?」」」


 カゲトラは普段の冷静さがどこかにいったのか、顔を真っ赤にすると、リュカに向かって手をぶんぶん振った。


「め、滅相もないことを申すでない!! 拙者はただ、秘奥義を使ってまいっていただけでござる!! それも勝手に争われただけで……あ、あれは拙者の意思ではないでござる!!」


 リュカは肩をすくめて笑う。


「いやいや、あれはどう見ても取り合いだったよ、カゲトラ」


「と、取り合いなどでござらぬ!! あれは……その……不可抗力でござる!!」


 バルドは静かに目を閉じ、数珠を握りしめながら呟いた。


「……膝枕争奪戦……この国の女性は、やはり強い……」


 フェルマはぽかんと口を開け、ストレイは眼鏡を押し上げながら小さくため息をついた。


「……膝枕……我々には一生縁のない行為だと思っていたが……」


 クラウは呆れ半分、羨望半分の顔でカゲトラを見た。


「……お前、すごいな」


「すごくないでござる!! やめてくだされ!!」


 風の結界の中に、久しぶりに柔らかい笑いが広がった。


 カゲトラは、膝枕の件で散々いじられたせいか、むっとした顔で反撃に出た。


「そ、そういうバルド殿こそ……里の女子衆に抱きつかれたり、よじ登られたり、フワリ殿にも何度も抱きつかれて、まんざらでもない感じだったでござるよ!」


 バルドの目が見開かれた。


「カ、カゲトラ殿!! な、なにを言っているのだ……っ!」


 耳まで真っ赤にし、数珠を握りしめて震えるバルド。その反応があまりにも純情で、リュカはくすくす笑った。


「いやぁ、バルドってこれがまたモテるんだよねぇ。フワリちゃん、ずっとくっついてたし」


「リュカ殿まで……! あ、あれは……その……修行の一環で……」


 バルドの苦しい言い訳に、リュカはさらに笑みを深めた。


「修行で抱きつかれる僧侶なんて聞いたことないけどねぇ?」


 バルドが真っ赤になって言葉を失ったその時、カゲトラが、今度はリュカへ矛先を向けた。


「そなたもでござるよ、リュカ殿。ニャル殿に あたしのリュカを獲らないで!  と泣かれていたでござる」


「なっ……!?」


 リュカが盛大にむせた。


「ちょ、ちょっと待てカゲトラ! あれは……その……誤解で……」


「誤解ではなかったでござる。拙者、しっかり聞いていたでござるからな」


「聞くなよ!!」


 リュカが真っ赤になって慌てふためく。そのやり取りを、クラウ、ストレイ、フェルマの三人はぽかんと見つめていた。


「……お、お前ら……」


 クラウが呆れたように言う。


「結構この国で……頑張ってたんだな……」


 ストレイは眼鏡を押し上げながら小さく頷き、フェルマは「すごい……」と純粋に感心していた。


 風の結界の中に、緊迫の中でもふっと心がほどけるような笑いが広がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ