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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第100話 届かぬ素材、残された選択



 フェルマは頭を押さえながら、まだ状況が飲み込めていない様子で周囲を見回した。


「あ、あれっ?……なんで全員揃ってるの……? ぼく……そんなに寝てた……?」


 にやにやしながらリュカは、わざとらしく肩をすくめる。


「お前が罠にかかって、ずーっと眠っていたんだよ……幸せそうな顔で寝てやがって、そんなにいい夢だったのか?」


「えっ!? 罠に掛かって転移したんじゃ……だいたい罠に掛かったのはリュカじゃ……」


 リュカは即座に話を遮った。


「はぁ!? なに言ってんのさ! お前が罠にかかって足止めくらってたんだろうが!」


「いやいやいやいや! あれは、リュカが罠踏んで……」


「踏んでないし! お前だし!」


「踏んでないよ!? ぼくじゃないよ!?」


 フェルマとリュカの言い争いは、まるで子どもの喧嘩のようにどんどんヒートアップしていく。


 クラウは額を押さえ、カゲトラはいつもの事だと苦笑し、ストレイは「どうでもいいから早く終われ」という顔をしていた。


 そして……バルドが、いつもしているように、二人のとりとめのない言い争いを断ち切った。


「……そろそろよいか。あまり時間がないのだ」


 その一言で、フェルマとリュカはぴたりと動きを止めた。


 バルドは数珠を握りしめ、静かに、しかし確かな重みをもって言葉を続ける。


「巫女様を救うための準備が先決。戯れは後にせよ」


 その声音は、僧侶としての威厳と、仲間を導く者の静かな力を帯びていた。フェルマは背筋を伸ばし、リュカは鼻を鳴らしながらも黙り込む。


 バルドの重い声で場が締まり、フェルマとリュカの言い争いはようやく止まった。


 静寂の中、フェルマがふと眉をひそめる。


「……なんで、ここで急に巫女様の名が出るの?」


 その疑問に、ストレイが眼鏡を押し上げながら答えた。


「お前が眠っている間に、俺たちはもう一度転移したんだ。そこでリュカたちと合流できた」


 フェルマが瞬きをする。


「えっ……じゃあ……」


 ストレイは短く息を吸い、淡々と、しかし重みのある声で告げた。


「ただ、そこで分かったんだ。この国の巫女様が闇に呑まれ、暴走している。いままさに、そんな状態だ」


 フェルマの顔色が一気に変わった。


「そ、それ……! 国の滅亡にかかわる一大事じゃないか!!」


 その叫びに、無冠の灯の男たちは一斉に重々しく頷いた。


 クラウは真剣な表情で腕を組み、カゲトラは静かに目を閉じ、バルドは数珠を握りしめ、リュカは肩をすくめながらも真顔になり、ストレイは淡々と頭のなかで状況を整理していた。


 そう、全員が理解していた。これは冗談でも、軽い事件でもない。国そのものが揺らぐ危機。そして、それを止められるのは現状では自分たちだけ。


 風の結界の中に、静かで強い覚悟が満ち、再び本題へ向かう空気に戻った。


 バルドに制され、フェルマは呼吸を整え終わり、クラウが真面目な声で問いかける。


「フェルマ。あのエリクサーの予備はあるのか?」


 フェルマは一瞬だけ目を泳がせ、そして……思い出してしまった。


「あ……あの時……冴月様を救うために……紫乃様に……渡した……」


 その瞬間、フェルマの顔が真っ赤になった。


 脳裏に蘇る……紫乃が冴月へ口移しでエリクサーを飲ませた、あの神事めいた光景。


「う、うわああああ!?」


 フェルマの目がぐるりと裏返りかける。


 その瞬間、風の結界の中に「喝ァッ!!」とカゲトラの鋭い声が響き渡り、武士の気迫が、フェルマの剥きかけていた白目を、物理的な痛みを伴って強制的に引き戻す。


「あっ、痛っ……な、なにするのさカゲトラ」


「時間がないでござるよ。今は己の羞恥に沈む時ではない」


 フェルマは涙目になりながらも、なんとか意識を保った。クラウが腕を組み、落ち着いた声で続ける。


「……では、エリクサーを調合するための素材は揃っているのか?」


 フェルマは腰のアイテムポーチを探り、瓶や粉末を次々と取り出して確認する。


 その手つきは、今までのへたれぶりからは想像できないほど正確で、調薬錬金術師としての本領が垣間みえた。


「……うん……素材は……ひとつ以外は……揃ってる……」


 男たちが息を呑むのを、フェルマは顔を上げ、深刻な表情で告げた。


「だけど……エリクサーを調合する上で一番必要なものが……ない」


 風の結界の中に、重い沈黙が落ちた。それを破るように、フェルマはそっと瓶を握りしめる。


「……足りないって言ったのはね。エリクサーの出来を決める最重要アイテムのことなんだ」


 男たちが息を呑む。フェルマは指を折りながら、静かに素材の名を挙げていく。


「星の吐息……月の雫……古の森の大精霊の核……」


 そのどれもが、ただの素材ではない。ひとつ手に入れるだけで、彼ら基準でも高難易度のクエストに挑戦する必要があった。


 フェルマは続けた。


「この前、冴月様に使ったエリクサーは……月の雫で作ったものだったんだ」


 その言葉に、男たちの表情が一斉に変わる。


 あの時のクエスト……月光の祭壇での儀式。そして夜を徹しての戦闘と月の精霊たちとの大いなる試練。


 どうにか無事に終わらせ、やっとのことで入手したレアアイテムが月の雫だった。


 そして、黒の回廊で紫乃が瀕死の冴月へ口移しで飲ませた、あの神事めいた瞬間。それらが一気に脳裏へ蘇り、クラウは思わずこめかみを押さえた。


「……あれは……大変だったな……」


 カゲトラは静かに頷く。


「拙者、あれほどの精霊の怒りを買ったのは初めてでござる……」


 バルドは目を閉じ、深く息を吐いた。


「……あの夜は、まさしく修行であった……」


 リュカは肩をすくめる。


「いやぁ……あれはもう二度とやりたくないねぇ……でも、フェルマの昇級試験に必要なエリクサーを作成するためだったから頑張れたけどさ」


 フェルマは申し訳なさそうにかすかに笑った。


「みんな……あの時は本当にありがとう。月の雫を手に入れるだけで、あんなに協力してもらったんだよね……」


 その言葉に、男たちはそれぞれの思いを胸に、静かに頷いた。


 そして、この世界でレアアイテムを入手するには、それ以上の困難が待っているかもしれない。しかし、誰もが決意を秘めた瞳でフェルマが持つ、まだ何も入っていない瓶をみつめていた。


 フェルマの言葉に、風の結界の中が静まり返った。そこに、ストレイが眼鏡を押し上げ、冷静な声で問いかける。


「……しかし、そんな貴重な素材を今すぐに手に入れることができるのか? この国で、しかも巫女様が危機的状況にあるこのタイミングで……」


 その現実的な指摘に、男たちは一斉に黙り込んだ。


 星の吐息。

 月の雫。

 古の森の大精霊の核。


 どれも、今すぐ取りに行けるような代物ではない。重い沈黙が落ちたその時、リュカがぽりぽりと頬をかきながら言った。


「……なぁフェルマ。素材って、それ以外に……代用できるものは、ないのか?」


 その言葉に、フェルマの目がぱちんと見開かれた。


「あっ……!」


 ぽん、と手を打つ。


「あるよ! 乙女の涙でも代用できる!」


 長い沈黙。男たちの表情が、ゆっくりと固まっていく。


 クラウが眉をひくつかせた。


「……乙女の涙……?」


 カゲトラが腕を組む。


「……それは……星の吐息より難易度が高いのでは……?」


 バルドは静かに目を閉じた。


「……乙女の涙……その条件、あまりにも厳しすぎる……」


 ストレイは眼鏡を押し上げ、淡々と現実を述べた。


「……我が国では、尊き御方が自然に流す涙を手に入れることは、最大級の難易度だった。意図して得るなど、まず不可能だ」


 そこで、ふとストレイの表情がわずかに揺れた。女性がほとんどを占めるこの国なら、理屈の上では入手しやすいはず。


 そして、うたたの姿が脳裏をよぎったのか、ストレイはほんのり顔を赤くしながら続けた。


「……そう……ここに集っている方々は、誰もが戦闘を得意とする強き御方ばかりだ。そんな方々から……意図せず涙を得るなど……現実的とは言い難い……」


 その言葉に、男たちはそろって言葉を失った。


 リュカも両手を広げて叫んだ。


「いやいやいやいや! 乙女が意図せずに自然に流す涙を入手って、ベリーハードだろ!?  星の吐息より無理じゃん!!」


 フェルマはしゅんと肩を落とした。


「で、でも……理論上は……乙女の涙でもエリクサーは作れるんだよ……?」


 男たちは一斉にため息をついた。


 星の吐息より難しい。月の雫より入手困難。大精霊の核より危険。


 作為なく、乙女が自然に流す涙。この国の巫女様の一大事に、頼めば誰でもが文字通り泣いて提供してくれるだろう。しかし、それでは素材として意味を持たない。


 意図せず、どうやって乙女の涙を手に入れるのか。この世界へ来るまで、女性と話すどころか、姿を見ることすら稀だった彼らにとって、それは途方もない難題で、凶悪な魔物を倒すよりも高難易度のクエストに思えた。



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