育っていた恋心
「シア」
アステリア様が部屋の前で呼んでいる。扉を開くとアステリア様がどこか呆れたような顔をして立っていた。一晩たってもまだ泣いていた自分に呆れているのかもしれない。
部屋に入ったアステリア様はシアの隣に腰掛けて言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。
「シア、お父様の言っていたことはただの可能性よ」
それはシアもわかっていた。でも…。
「違うんです」
シアの言葉にアステリア様も言葉を止める。
「わたし、気づいたんです。 グレイ様が好きだって…」
出会ったばかりの王子様に恋をした。
まるで物語のように…。
「おかしいですよね。グレイ様のこと、ほとんど何も知らないのに…」
知っているのは会ってから数日のわずかなことだけ。なのに、短い時間に交わした言葉が、瞳が、忘れられない。
王子だなんて知らなかった。シアが見ていたのは、好きになったのは、グレイ様自身だ。
それでもグレイ様が王子だという現実は変わらない。
遠い…、遠い人だと知った。
「わたしだって知ってます。 貴族や王族の結婚が自分の気持ちだけでは決められないことも、グレイ様が騎士でも王族の務めを無視できないってことも、グレイ様がこの国を守りたいと思っていることも」
おとぎ話のお姫さまは王子様のことが好きだったけれど、現実はそれだけでハッピーエンドにはならない。
「わたしは、物語のお姫様にはなりたくありません。グレイ様が守ろうとしてる物の大きさはわたしにだってわかります。 わかるから、好きだけを押し付けたくない…。
そんなのはいやなんです」




