知らぬ間に
自室に戻ってシアは呆然としていた。父の言ったグレイ様の妃、という言葉に自分でも理解できないほどの衝撃を受けた。
「そうですよね。王子様だもの」
誰かと結婚するのは当たり前で、それはきっと貴族の令嬢で、本人の意思とは関係なしに決まることだってある。
結婚して次代を作るのは王族としての責務だと、以前アステリア様から聞いた。だとしたら、グレイ様だってそうするのが当然なのだ。
「次、かぁ…」
父の話しぶりではそう遠くないうちに決まりそうな感じだった。すでに話が動きだしているのかもしれない。
「グレイ様は優しいから誰が来たってきっと上手くいくよね」
王子だと知ったことで何が変わるわけじゃない。
シアが知っていようといまいと、グレイ様は王子なのだ。
「わたし、ちゃんとおめでとうございますって言えるかな…」
もしグレイ様が来て、縁談が決まったから祝ってくれなんていわれたら…。
「………」
知らず知らずのうちに眼から涙がこぼれていた。次から次に頬をつたっていく涙にシアは初めて泣いていることに気がついた。
「あれ、なんでかな? いいことだよね?」
めでたいはずの話に胸が締め付けられている。今まで感じたことのない痛みは容赦なくシアの胸をえぐっていく。どうしようもない感情の奔流はシアに気づかせた。
「いや…」
会えなくなる。あの優しさに触れることも、姿を見つめることもできなくなる。
「や…。 いや、やだよ…」
ひとり部屋でいやと泣くしかシアにはできなかった。
そして知った。自分の悲しみの理由を。グレイ様に対する恋心を。




