王家からの使者
王家からの使者として正式にやって来たのはグレイ様だった。
アステリアは少々驚いたが父も同じように思ったらしく、わずかに目を見開いている。シアにいたってはグレイ様が来たと知ったとたん周りが恥じらうような変化を見せた。
シアとグレイ様が会っていたことなど何も知らない父は奇異に思ったようだ。
しかし使者が来ている部屋にシアは入れていない。会いたがるかと思ったがシアは同席を断った。自身の変化に疎いシアはまだグレイ様に会ってどうしていいかわからないのだろう。会いたい、という単純な願望よりも恥じらいの方が勝ったようだ。
グレイ様によってアステリアが正式に皇太子妃に決まったことが伝えられる。
公式な訪問が終わって使者たちが帰った部屋で三人はお茶をしていた。
「しかしよかった。安心したよ」
父の言葉にシアが即座に同意する。
「ええ、お姉様のお望みのとおりになって本当によかったです」
「シアもよくやってくれたな」
父のねぎらいの言葉にシアははにかみながら頷く。舞踏会の日のことは一部しか話していない。アステリアも代役がばれたことは父には黙っていた。
そのまま家族の団欒が続くかと思ったとき父の言葉によってそれは突然途切れた。
「皇太子様の花嫁が決まったら、次は兄上のグレイ様だな」
「え…?」
シアの表情が固まった。アステリアは父の無神経さに頭痛がしそうだった。
娘二人の変化に気がつかず、父は次の政争の種について話し続ける。
「皇太子妃を我が家から迎えたのだから、第一王子のお相手は権力の均衡を保つため、他家から取るかもしれない。力関係がどう変わるか…」
驚きに固まったままのシアを見て、グレイ様が何者なのか父が説明をする。できれば今すぐその口を閉じてほしい。しかし、アステリアの思いは届かず、シアはグレイ様の正体を知った。
母親の身分が第二王子より低かったため、皇太子にはならなかった国王の第一子。
それが騎士の他にグレイ様が持つ称号だった。
最後まで話を聞いた後、シアは黙って部屋を出ていく。ドアを閉める寸前の思いつめたような表情。まだ自分の感情すら持て余しているシアには今の話は酷だったろう。
ため息をつきたい気持ちで父親を見る。父もさすがに今のシアがおかしかったことには気がついたようだ。アステリアに視線で問いかける。
「さあ? 具合でも悪かったんじゃありませんか」
今の段階でアステリアがシアとグレイ様について話しても混乱を招くだけで、ためになることは何ひとつない。そう思って、アステリアは沈黙を決め込んだ。




