王子との縁組
数日後―――。
父が蒼白な顔で屋敷に帰ってきた。
「どういうことだ」
部屋に呼ばれたシアもアステリアもわけがわからずに顔を見合わせる。
「今日、第一王子のグレイ様の縁談のことで嫌味を言われた。両王子を手中にし、これからも安泰だ、とな」
シアが照れながらも焦るという器用なことをし、アステリアは冷静な表情を保ち父親の話の続きを待った。
「その後グレイ様にことの真偽を確かめてきた」
グレイ様が何と言ったのか二人とも疑わなかった。
「シアを娶るつもりだと、グレイ様からはっきり聞いた」
その言葉を聞いてシアが頬を染める。すぐに表情に出るので父にもわかったようだ。
「本当…、なんだな」
問い詰める父親に消え入るような声ではい、と答える。
シアの答えを聞いてますます渋い顔をした。
「アステリア、お前も知っていたそうじゃないか」
非難するような声でアステリアを詰める。しかしシアと違ってアステリアは一切の動揺を見せずに淡々を答える。
「もちろん知っていましたよ。 大切な妹のことですもの」
「な…っ!」
否定か謝罪をすると思っていたのか、父は口をぱくぱくとさせて言葉を止めた。
「どういうことかわかっているのか!」
大声にシアがびくっ、と身を竦ませた。
「これは国政にも影響することなんだぞ。 王子の一存で決めていいことではない!」
「それはおかしいと思います」
アステリアは冷静な声で反論する。
「グレイ様は騎士です。 騎士が自らの結婚相手を他の者に決めさせるなんて、おかしなことでしょう」
「それは建前だ! 騎士であろうが、グレイ様が陛下の第一子であることに変わりはない!」
「いずれ臣籍降下する王子に相手を押し付けても意味がないと思いますが」
「それは…、今関係ない」
「今回の皇太子妃決定に納得しない、一部の貴族のために王子が譲歩する必要はないでしょう」
「…王子は王位継承権の完全放棄まで考えているそうだな」
「それが、なにか?」
「第二王子は身体が弱いことは知っているだろう。 もし何かあったらどうするつもりだ」
「身体が弱いといっても年中寝付いているわけでもないでしょう。 大げさですよ。
それに私が王宮に入って子を産めば解決する問題です」
「そういう問題じゃない! このままでは他の貴族に権勢を確かなものするために、娘を使って王子を誑かしたなどと言われるかもしれんのだぞ!」
「そう見えたところで何も問題はないでしょう」
本気でそれを言うのは敵対する陣営の者だけだ。だが、父は承知しない。
「これはわしの名誉に関わる問題なんだ!」
口からつばを飛ばしながら父が熱弁を振るう。その矛先が黙って二人のやりとりを見ていたシアに向いた。
「シアはどう思っているんだ」
「え…」
「お父様! シアを責めるようなことは言わないでください!」
「何を言う! 当事者として話を聞いておかなければならんだろう!」
「わたしは…」
「シア、いいのよ。 グレイ様も言っていたでしょう? あなたが傍にいることが大切なんだって」
また身を引くようなことを言い出す前に止める。
好きな人のそばにいること以上に大切なことなんてない。アステリアはそう思っている。
「お前は黙っていろ! シアが王子に話をすれば―――」
「いい加減にしてください!」
父親の言葉を聞いてアステリアが立ち上がった、父親を見下ろす目には怒りが満ち、その迫力に父親も黙らざるを得なかった。
「さっきから聞いていれば、心配するのは見栄ばかり! 娘が幸せになるのを邪魔する気ですか!」
「しかしな…」
アステリアの一括に語気が弱まる。そんな父をおいてアステリアはシアの手を引く。
「これ以上のことは話しても無駄よ」
留まろうとするシアにそう言って半ば強引に部屋から連れ出した。
心配するアステリアの予想を裏切って、シアは落ち着いた瞳をしていた。
「大丈夫です、お姉様。 わたし、グレイ様のこと信じてますから」
シアを引き止めた強い力を信じてる、そう言って笑う。
こんな顔をするようになったのはグレイ様の影響だろう。二人の絆をうれしく思った。




