恋人たち
「俺にとって大切なのは、それだけだ」
言い切ったグレイに余程驚いたのか、アステリアは口を開けて絶句している。
その頬がじわじわと赤くなっていく。
無表情が崩れて頼りなさ気な表情が現れる。
頬を押さえて泣きそうな顔をしているのは、まさか―――。
「シア……?」
「……っ」
そして気づく、さっきから眼の前にいる彼女は口を開いていなかったことに。
「まさか……」
想像を裏付けるようにシアの後ろにひとりの少女が立ち上がる。
シアによく似た顔でしてやったりという笑みを浮かべているのは……。
「アステリア様…」
「やられた、って顔ですね」
いたずらを成功させた子供のように笑うアステリアと顔を挙げられないでいるシア。
ひとしきり笑った後、アステリアは部屋を出て行った。
グレイは突然のことに混乱していた。アステリアはシアを安心させたかったのだろう。
だからって…。
ちらりとシアを見るとまだ赤い顔をしている。
グレイと目が合うと驚くほどうろたえて目を逸らす。
ああ、駄目だ。
手を伸ばす。手が触れる直前にシアがこちらを見上げた。その瞳にまた情動が抑えられなくなる。
愛しい―――。
「シア…」
抱きしめた腕の中でシアが硬直する。
戸惑う瞳でグレイを見やるシアをさらに強く抱きしめる。
愛している―――。
「グレイ様……」
苦しそうにシアが俺の名前を呼ぶ。
「聞いていただろう?」
ひゅっと、息を吸うが聞こえた。
「俺はシアが好きだ」
シアは潤んだ瞳で俺を見上げている。
「俺にとって一番大切なことはそれだ」
「そばに、いても、いいんですか?」
震えるくちびるを、指で押さえる。
「シアがいないと駄目だ。 君じゃないと傍にいる意味がない」
「…っ!」
「だから、シアも願ってくれないか…。 俺と共にいることを」
「―――!」
シアからあふれる想いは、ほとんど言葉にはなってない。
ただ熱となってふたりの間に溶けていった。
隣の部屋でその様子を伺っていたアステリアともうひとりは二人の様子を見て笑っていた。
「やれやれ、お膳立てしてよかった」
「シアがこれ以上泣かないで済んだしね」
「貴女は相変わらず妹が好きだね。少し、シアがうらやましいよ」
「私もグレイ様がうらやましいわ。シアにあんな顔させられるのは世界でひとりだけだもの」
「ふふ、違いないね」
種明かしはまだ―――。それがふたりの約束。
「楽しみだね」
「ええ、楽しみにしてるわ」
二人が、みんなが、どんな顔をするか。
ふふっ、と顔を見合わせて笑う。
ふたりの秘密は秘密のまま。今は、まだ―――。




