嘘?本当?
だいぶ間があきました。反省。
引き続き、トオコの視点でお送りします。
俺たちはフレーゲル邸を出てから街で夕食用のパンとソーセージを買い込んだ後、宿に戻った。今は俺たちが泊まっている部屋でソーセージサンドを食べながら先ほどの話について作戦会議中だ。
現在フレーゲルの家の主はモッペルという人物で、悪いやつだ。自分とメイドのマリアはそこから逃げたい。手を貸してくれたら真帆の脚を治すための情報をやる。
-------お嬢様の話をまとめるとこういうことだ。
俺としては、メイドのマリアを村に送るという点は何も問題ないと思っている。この世界の雇用契約がどういう形なのかは分からないが、マリアがモッペル氏に借金でもしているのであればともかく、単に仕事を辞めてどこかに行きたいというだけならたいしてトラブルもなさそうな話だろうからな。
家もツテもない人間が突然村に行ったとしても通常はすぐに生活に困ることになるだろうが、俺たちにはバートさん一家という知り合いがいる。彼らならば、事情を話せばきっとマリアが村に受け入れられるよう協力してくれるだろう。
そんな話をしたところ、トモくんも真帆も問題なく同意してくれた。俺たち自身も無一文の状態からあの村にたどり着き、人に助けられながら暮らしていたわけだから、マリアもきっとなんとかうまく過ごせるだろう。
問題は、お嬢様のほうだ。
「あのお嬢様……アデルだかアデラだかいう名前だったと思うが、彼女をどうするかだな」
「どうするかって……彼女も助けるんじゃないの?」
白い歯を見せて大振りのソーセージを食いちぎりながら、真帆が首をかしげる。
「正直なところ、彼女の話はちょっと突拍子もなさ過ぎて全部本当だとは思えないんだよな」
「あの子のほうが嘘をついてるってこと?」
「いや、それもよく分からないんだけど。でも、あんな箱入り娘って感じの子がフレーゲル氏も知らない術師を知ってるってのはおかしいんじゃないか」
俺も自分のソーセージサンドを口に運ぶ。歯を立てるとプリッと大き目のソーセージが口の中で弾けた。味付けが塩だけなのか少し淡白だけど、脂が口の中で溶けてなかなかうまい。
「もし彼女の言うことが嘘で、単なる子供の家出ごっこだったら。俺たちは貴重な時間を失うことになるし、場合によってはフレーゲル氏のご機嫌を損ねてツテまでなくすことになる」
「それはそうかもしれないけど……」
「真帆はどうしたい?」俺が尋ねると、真帆は少し考えるようなそぶりを見せてから、心を決めたようにひとつうなずいて「助けたい」と言った。
「彼女の話、全部は本当じゃないかもしれないけど。でも本当に虐げられてるのなら、見殺しにしたくない。わたし、ロッタとかバートさんとか、この世界の人にはたくさんお世話になってばかりで。一人で怪我したりして、お兄ちゃんと柏くんにも、迷惑かけてばかりで。自分では何もできなくて人の世話になってばかりだし、まだ足も治ってなくて動くことすら困難なのに、あれこれ言える立場じゃないんだけどさ。でも、あの子が助けを求めてるなら、見捨てたくないんだよね。わたしたちしか助けられる人、いない気がするから」
「真帆……」
「わがままいってごめん」
そう言ってうつむいた頭を、俺は優しく撫でた。
俺は自分の無力を知っているから、前の世界でも今の世界でもできるだけ厄介ごとを避けながら生きようとしてきた。困難にぶつかれば、それだけ自分の無力を感じさせられることになるから。無理かもしれない無駄かもしれないと思っても、いつも自分の進みたい方向にまっすぐ進もうとする真帆は俺とはぜんぜん違うけど、それに巻き込まれるのは決して嫌じゃない。
「あのー……今更こんなこというのも何なんだけど、あの話、ぼくは、本当だと思うんだよね」
それまで黙ってパンを咀嚼していたトモくんが遠慮がちに口を開いた。
「前に握手をした時、なんとなくフレーゲル氏に能力を使ったんだよ。名前が聞いてたのと違ったし、職業もおかしかった。その時はあれって思ったんだけど、何かのミスかもしれないし、とりあえず真帆ちゃんの脚のことがあったから名前ぐらい気にしないでいいかと思ってて……」
ああ、あの微妙な能力か。そういや、人の名前が分かるんだったな。
「名前、モッペルだった?」
「確か、そんな感じの名前だったと思うんだよ。なんかの間違いだと思ったんで、よく覚えてないけど」
「職業のほうは?」
俺が尋ねるとトモくんは「ほんとに、間違ってたら悪いんだけど」と、もじもじしながら答えた。
「たしか、奴隷商人……とか」
「……はぁ?!」
思わず大声を出した真帆にびくりと肩をすくめるトモくん。
「そいつぁまた、アレだなあ……」
俺はうざったくのびた髪をかきむしりながら、雑穀の匂いのするパンを飲み込んだ。




