お屋敷と縦ロール
まだ、トモの視点が続きます。
その人の名は「アルベルト」と書いてあった。宿屋のおやじさんによると、今は「フレーゲル」という名字を持ち、港から来る品なども手広く扱っているんだそうだ。この世界の人は基本的に名字は持っていないんだけど、貴族や有力者、街に貢献した人などには名字がもらえることがあるのだとか。舶来品も置いているという店のほうに行ってみたが、白を基調とした立派な建物だった。建っている場所も服屋や装飾品の店が並ぶおしゃれで賑やかな通りといった様子で、垢ぬけた雰囲気がある。
「いかにも高級店って感じがして入りづらいな」
「デパートだと思えばどうってことないんだろうけど。でもこっちの世界ではね……」
出入りする客もハットをかぶった紳士や仕立ての良い服を着た令嬢など、金持ちが多そうだ。
「真帆、行ってみるか?」
「えー、なんか場違いな気がする。トモくんと行ってきたら?」
「未だに母親に服を買ってきてもらってる身にはこういう店はハードル高いです……」
真帆ちゃんがコウタローの上で呆れた顔をする。一人だけ置いていかれるのはイヤ!っていうんで乗せてきたんだけど、街中はときどき馬車が通ったりロバがいたりするのでそんなに目立ってない…はず。
「まあ、オーナーがここにいるとは限らないしな。屋敷のほうに行ってみるか?」
透さんの言葉に、ぼくと真帆ちゃんがうなずいた。
お屋敷のある場所は店のあった場所から少し離れた閑静な通りだった。こちらは住宅街といった感じだろうか。ただ、先ほどの通りに近いだけあって立派な門構えの家が多い。こちらの世界の人は表札など出さないものだから、フレーゲルさん家がどこなのかよく分からない。
仕方がないので、たまたま門の前を掃除していたどこかのメイドさんに道を聞く。
「フレーゲル商会のオーナーのおうちですか?それならあの家の向こうですよ」
メイドさんに教えられて着いた家は、さすがに大きな屋敷だった。でも、結構シックで温かみのあるつくりで、さっき見たお店の圧倒されるような感じはない。元は行商人だったというから、店は客層に合わせて大げさにつくってあるけど、家はシンプルなほうが落ち着くのかもしれない。
たいして付き合いもない相手にお願い事をするのは冷たくあしらわれるんじゃないかと心配だったけど、思ったより話せそうな人なのかもしれないという気がしてきた。
お屋敷の外には誰も見当たらなかったので、門のあたりにコウタローをつながせてもらってから、扉についている金属製のノッカーで数回ノックしてみる。奥から出てきたのは、小柄なメイドさんだった。ぼくよりも頭一つ分ぐらい小さくて、童顔なのかもしれないけどまだ子供のように見える。着ているメイド服はミニスカートのように短く、それがより幼く見えてまるで小学生アイドルのようだ。
「あの、どちらさまですか?」
かわいらしい声でたずねてきたので、手紙を見せて村からの紹介で来たことを伝えた。
「えっと、ごしゅじんさまは……今いそがしくて」
「ご不在なんですか?」
「いえ、そうじゃないんですけど…」
小さなメイドさんは困ったような顔をして後ろをちらちら見た。仲間なのだろうか、また似たような見た目のショートカットのメイドさんが奥から出てくる。二人はひそひそと話しあって、また困ったような顔をしてこちらを見た。
「今取り込み中のようなので、またにしていただけませんか?」
「またというと……いつ頃ならいいんですか?」
「えっと………」
仕事が忙しいのかもしれないが、こちらも結構せっぱつまっている。曖昧な返事に納得がいかなくてしばらく押し問答のようになってしまう。メイドさんたちも困った顔をするばかりで、うまく話が進まない。少しいらいらし始めた頃、メイドさんたちの後ろからまた誰か別の人が声をかけてきた。
「あなたたち、一体どうしたの?」
奥から出てきたのは……ピンクのフリフリドレスを着た見事な縦ロールのお嬢様だった。
(うわ、縦ロールなんて、本物見るの初めて見だよ……)
心の中で思わず叫んでしまったが、相手に気取られぬよう頑張って平然とした表情を作る。
「ぼくたちは、村から来たものです。この館のご主人に会いに来ました」
「………ふうん、ご主人、ね」
縦ロールちゃんの年齢はぼくたちよりだいぶ下。せいぜい13,4歳ぐらいじゃないかとおもうんだけど、胸を張った立ち姿はどこか偉そうだ。さすが縦ロール……。
「紹介の手紙も持っています」
そう言って手紙を出して見せたが、縦ロールちゃんはそれを受け取らず、
「ついてらっしゃい」
といって屋敷の奥へぼくたちを案内した。




