第3話 「小さな町」
山を下りてしばらく歩くと、二人は小さな町に辿り着いた。着いた頃には空はすでに暗くなり始めており、通りに並ぶ店から暖かな明かりが漏れていた。
「やっと、着いた!」
小さな町ながらたくさんの店が連なり、人々の賑やかな声が響いている。カイルが辺りを見回している横で、リトはどこか居心地が悪そうに人混みを避けて歩いていた。
肉が焼けた香ばしい匂いがいたる所から漂ってくる。匂いに釣られ、カイルの腹が鳴った。
「あの店でご飯にしようよ!」
カイルは目の前にある飲食店を指差した。同意を求めて振り向くと、リトは頷き、二人で店の中に入った。
店内は大勢の客で賑わっていた。早速席に着き、『この町、名物!』とメニュー表に書かれた料理を注文した。お腹を鳴らしながら待っていると、大きな骨付き肉の香草焼きが運ばれてきた。こんがりと焼けた表面から肉汁が溢れ出し、湯気が立ち上っている。
「うわぁ、美味しそう!いただきます!」
カイルは目を輝かせ、早速肉にかぶりついた。
「美味しい!」
リトも一口食べ、満足そうに頷いた。二人はしばらく夢中で料理を味わった。
「ごちそうさまでした!美味しかったー」
カイルはあっという間に完食した。お皿の上には骨しか残っていない。お腹がいっぱいになり、椅子の背もたれに体を預けた。そのままリトが食べ終わるのを待つことにした。
「ごちそうさま」
しばらくすると、リトも食べ終えた。口元を紙ナプキンで拭い、カトラリーも並べて一息ついた。
「美味しかったね」
「あぁ」
「今日は、この町に泊まろうか?もう遅いし」
「そうだな」
店を出ると、空はすでに真っ黒になっていた。
宿を探して歩いていると、道端では酔っぱらいたちが騒いでいた。リトは顔をしかめながら早足で通り過ぎ、見つけた宿に入った。
主人に二部屋空いているか尋ねた。
「申し訳ありません。残っているのがあと一部屋のみなんです」
宿の主は申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
「他の宿は…」
「この時間でしたら、他の宿でもほとんど満室だと思われます…」
「……」
「一緒の部屋でいいじゃん」
やり取りを聞いていたカイルは横から口を挟んだ。
「…そうだな」
リトも同意し、同室に泊まることになった。
部屋に着くと、荷物を下ろし、それぞれ旅の道具を整理しながら過ごした。
「お前はなんで、水の街に行きたいんだ?」
カイルは整理していた手を止めた。
「人を探してるんだ」
「誰だ?」
「オレの双子の兄弟。シオンっていうんだけど……。三年前に都会へ養子に行ったんだ。その後、養家を飛び出したらしくて、一年間、行方不明なんだ…」
「…一年」
リトは片付けていた手を止め、顔を上げた。
「…お前ら、兄弟揃って自由なんだな」
「そう?」
「…見つかるといいな」
「うん、ありがとう」
荷物を整理し終え、カイルはベッドに腰を下ろした。長く歩いたせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。
ふぅと一息つくと、リトがこちらを見た。
「……肩は大丈夫か?」
「肩?うん、掠っただけだから大丈夫!」
肩をぐるぐる回してみせた。
「リトは手当てもできるし冒険もできるしすごいよね」
「そうか?そう言うお前は冒険を始めてどのくらいになるんだ?」
「まだ三日。急に冒険することになったから準備もあまりできてないんだ。この町に来るのも初めて」
「三日か……」
リトは部屋の隅に置かれたカイルのリュックに目を向けた。
「そうなのか」
中身を整理していたところを見た限り、旅慣れていないことだけはよく分かった。
――方向音痴だから外に出さなかったんだろうな。
しばらくするとカイルは大きなあくびをした。
「もう寝るか」
「うん。今日はいっぱい歩いたし……」
カイルがベッドに潜り込むのを確認して、リトは明かりを消した。
「おやすみー」
「おやすみ」
翌朝、二人は宿を出て、朝市にやって来た。新鮮な野菜や果物が所狭しと並べられ、冒険者向けの道具や薬を置いている店もあった。あちこちの店先から、客を呼び込む威勢のいい声が上がっている。
カイルは店先の商品に目移りしながら歩いていた。一方のリトは、昨日と同じように人混みを避けながら歩いている。
「何買えばいいんだろう」
「保存食」
「パンでいい?」
「三日で腐るぞ」
「じゃあこれ!」
「高い」
「……リト、一緒に来てくれてよかった」
「…そんなのでよく冒険しようと思ったな」
リトの助言に従い、必要な物を買い揃えた二人は町を出立した。
「あれ、リトも一緒に来てくれるの?」
「……お前を一人で行かせたら、いつ着くか分からないからな」
「ありがとう!」




