3 すっきりしない穴掘り
MOLE本部に到着後、リウノはコタツとともにすぐに採掘用ポットに乗り換えた。
ドリルとかアームとかネットやホースなんかがあれこれ格納され、極端な圧力にも耐えられる装甲をした三角錐ポットであり、見た目でいったらほんとうにモグラのそれに近いかもしれない。
以前「ヘルメットをかぶってサングラスをかけてひげを伸ばせば完璧だよね」とコタツが楽しそうに笑ったが、いまだにべつだん面白くもない。補足するものが多すぎるし。
同僚たちは前述のとおりだれもおらず、教授に顔をみせる必要もとくにない。そもそも教授の実体が本部内にいるともかぎらない。
そういう規則になっているため、リウノもコタツも〈安全第一〉ヘルメットをかぶった。
万が一のためだよ、と教授にいわれたことがあるが、地中深くで起きる万が一がなにを指すのかいまだにわからない。ヘルメットで防げるのかどうかも。
ID認証でエンジンをふかし、ナビに座標を音声入力して、当該地に向かう。
採掘用ポットはあまりスピードがでないので、ポコポコと静かに進んでいく。
コタツがポットの外壁全面を透明ガラス仕様に変えた。
雨あがりのよく晴れた日で、青空のもと荒野はくっきり遠くまで見渡せ、風が感じられるわけではないのだが清々しい気分にはなった。コタツがリウノの知らない歌を口ずさんでいる。
ファーイーストシティは大半が荒野である。
ごつごつした固い土壌とギスギスした植物、どろどろした沼がひろがり、ところどころ原生林が茂っているようなところもあり、未開ではないのだがまるで未開の地だ。
前史以前からいろいろあったようだが、いくつかの国があったりなかったりしたらしい。
ざっくりした歴史は学んでいるが、リウノはそれらがほんとうかどうか知らないので、ほぼ知らないのとおなじだと思っている。
ずっと昔あった国、はある意味で夢と変わらない。
リウノは睡眠用ポットで宙に浮かび、まぶたを閉じるときの感覚を思いだし、束の間うたた寝をした。
コタツはリウノの脳波や心拍や呼吸の変化に気づいているけれど、気づかないふりをして鼻歌をつづけた。
「ついたよ! 起きて起きて!」
コタツの威勢のいい声で、リウノは眠りから醒めた。
採掘用ポットもでこぼこの大地を進んでいるわりにはゆれもなく静かなほうだが、睡眠用ポットほどの快適さはないため、ちょっとだるかった。
ポットの外装は通常の仕様にもどっていた。リウノを起こすまえにコタツがもどしたのだろう。
リウノは飲料水をひとくち飲んでから、スクリーンで周辺を観察する。
東のはずれはかつて、広大なみずうみだった。
そして、そこに点在する比較的大きな浮島に、いくつかの国があったりなかったりしたらしい。
しかし、リウノが見渡すかぎり、いまは一面がただの荒野だった。
濃い色の土に岩、草むらに枯れかけた木立……さがせばいるのだろうが、さがさなければみつからないぐらい動物も鳥も昆虫もいない雰囲気だった。
北の山脈にかかる白い雲が大きくふくらんできている。
「あれ、予報はずれの雨かな? 早く終わらせないと厄介だね!」
コタツが楽しそうにいう。
でも、べつだん厄介というほどではないのはリウノだけでなくコタツも知っている。そんなせりふを吐いてみたいだけなのだろう。
雨が降っていようがなかろうが、採掘作業はすべてポットが自動で行い、手動で補正作業をすることさえほぼないのだ。作業過程をポット外にでて、現場を目視しなければならないような状況もまずない。
「――準備はいいかい、リウノ?」
ずっとだんまりだった教授が通信してきた。
「はい。お願いします」
リウノは席について、横のコタツをみると、コタツはシートでまるくなって顔を洗った。
目前にスクリーンが表示され、スペクトラム状の点滅で作業工程が映しだされる。
しかし、目的物まで遮蔽物も障害もなく、直下に掘り進めるだけのようだ。
掘削工程や目的物採取のスケジュールはすべて教授が監修しているので、これといったむずかしさも心配もない。
リウノは目前に現れた仮想スイッチを押す。
すると、採掘用ポットはアームやドリル、エアポンプなどを動かし、ゆるやかに地面を掘りはじめる。
スクリーンに地下にもぐるポットを平面にみたカクカクしたドットアニメーションが表示される。これはレトロ趣味の教授が前史にあったディグだかダグだかいうなにかを模したものらしいが、リウノは興味がない。
「ずいぶん深いね、もどってくるまでに老猫になってたりして」
コタツが、どう、おもしろいでしょう、みたいな顔で感想を述べた。
「コタツが老けるなら、ぼくは自分の子どもになってたりしてね」
リウノがすました顔でお返しをすると、コタツは「へぇ……やればできるじゃん」と感心した。
そして、採掘用ポットは地の底に忘れものをしたモグラのようにぐんぐんと掘り進み、日が変わる頃、目的物の採取に成功したのだった。
地上にもどると深夜だったが、「わぁ、きれいだね。仕事のあとの星空は最高だ!」とコタツがにんまりするほどリウノはすっきりしていなかった。
採掘用ポットはアームに目的物をにぎりしめたまま、教授の用意した移動用高速ポットに連結され、連携解析機関であるОWL(Origin of 5W Legacy)に牽引されていった。
仮眠をとったあとの早朝、MOLE本部でシャワーを浴びて着替えると、網膜レンズに教授が顔つきで表示された。
「やぁ、おつかれ。気分はどう?」
「なんともないです」「おなかへったよ」
リウノの返事にコタツがかぶせた。
「MOLE本部の食堂といえば、おさかなハンバーグだよね!」
おさかなハンバーグという名称だが、魚のかたちのふつうのハンバーグでデミグラスソースの海を泳いでいる。
「まァ、仕事あがりなんで、好きにしてもらって結構なんだけど――」
教授がにっこりする。
「ОWLから連絡があって、例のホロビノクニノヒメの解析がはじまりそうなんで、私はいまから向かうところ。どうも結果はオンラインでの通知不可だそうなんでね」
「へぇ、またまたひみつなの、けちんぼだね」
コタツが鼻の穴をひろげる。
「ね、気になるだろう? だからリウノたちも当事者として覗きにきてもらってもかまわないよ」
「気には……あまりならないけれど」
リウノは前髪をなおす。
「なんで秘匿なんですか?」
「それがわかっていたら、私も行かないかもしれない」
「まさか、検索情報にあったみたいに、そのお姫さまに世界が滅ぼされてしまうんだったりしてね!」
コタツがひげアンテナをくるくる動かす。
リウノが無反応でいると、教授がつぶやいた。
「ふふ、案外そんなところだったりして。リウノはどう思う?」




