第5話・誰より、何より、腹立たしいのは ~許したようで許していない~
第1章 皇宮呪師の復帰
第5話・誰より、何より、腹立たしいのは ~許したようで許していない~
(……本当に、あのお方は……!)
内心の苛立ちを押し殺して、インスはアインを抱いて演習棟の廊下を歩く。
退院から二日後。
予定通り、アインの怪我に残る魔力を消費させるための授業が行われることになった。
皇宮呪師殿・演習棟で待ち合わせて、演習場へと向かう予定になっていたのだが、そこにあろうことか皇孫皇女のジャンヌが押しかけて来てしまった。
アインは、先の事件で魔族に心を抜き取られ、その魔力を利用された挙句、抜け殻になっていた身体を操られてジャンヌを刺してしまっている。
しかも、その際のすべての感覚まで共有されていて……結果、自分がしたことだと認識していた。
そんなアインに下された最上層部からの罰は『これまで通り』。
一見、許しのように見えるが、とんでもない。
自分が、罪を犯したという意識を持った子供に対して、「これまでと同じように振る舞い続けろ。何もなかったかのように学び、修行に励み、国に貢献する呪師となれ。」そう命じているのだから。
しかも、そのことをジャンヌが全く理解していない。
だから、気楽にアインに声をかけ、近づき、笑顔で追い詰めた。
本人にその気がなくても、起きたのはそういうことだ。
そこにさらに、どういう訳かアインに対して厳罰を要求した護衛騎士団長のファン卿ディアスが、皇女に近づく危険分子としてアインに剣を突き付けていたのだから、インスの我慢が効くはずもない。
今も背中に視線を感じるし、抱き上げたアインは明らかに気にしているが、これ以上の問答は無用だし、無駄だ。
「……アイン君。気になるのは分かりますが、これから授業です……今日の授業はいつもより危険がある可能性が高いのですから、あちらに気を取られていてはダメですよ……」
そっと溜め息で感情を逃がし、いつも通りの声音を意識して語り掛ける。
「……ぁ……。はい……」
言われて、ハッと注意を戻したアインが素直に頷いたのに微笑みかける。
インスは予定されている屋外演習場へと向かうため、裏手にある専用馬車乗り場にアインを連れて行った。
そこで授業に同席する皇宮呪師学校の校長ディオネラと、万一の体調不良や……場合によっては傷口が開いてしまうことも考えて、皇宮医務殿の長官、医呪神官のウスニーと合流する。
呪師四人に対して、それぞれ一人ずつの護衛官が付いてきているのだが、今日は護衛官たちも全員、神剣に関することを知っている者たち。
今回は、何も知らない護衛官を同席させて、アインが魔法を暴走させたと誤解されても困るための人選。
主神殿からアインに付き添って来たのが神殿護衛官のクロード。
クロードは同時にジャンヌの専属護衛騎士団の一員で、地の神剣の誓約者として事件の際、現場に居合わせた当事者でもある。
インスの今日の担当は皇宮護衛官のステール。
うっかりジャンヌが神剣に関しての話をした時に居合わせてしまったせいで機密に触れ、以降、関連する任務ではほぼ固定で参加させられている。
ウスニーに付いているのは神殿護衛官の官長。
ディオネラに付いているのは皇宮護衛官の官長で、この二人に関しては各護衛官の割り振りのために必要ということで情報を共有されていた。
そこからは馬車に乗って、演習棟から一番遠くにある郊外の演習場に向かう。
皇宮の敷地は実に街が丸ごと一つは入るほどの広さがある。
だから、実際には『郊外』ではなくても、そうと言えてしまえるような場所まで存在していた。
もちろん、演習では広範囲に影響を与えるような魔法も使われることがあるので、皇都に危険が及ばないように注意はされている。
具体的には、こちら側には建物などもなく、遠くに皇宮と皇都と、両方の境を兼ねる城壁が聳え立っているだけ。
ちなみに、そちら側から万が一にも魔物や敵国に侵入されたとしても、皇城までの距離や皇城の城壁があるので即座に陥落することはない。
城壁の警備兵からの知らせがあれば、即座に対応できるようになっているし、皇宮呪師も配備されているので、急襲されたとしてもすぐさま突破されることはなかった。
「……と、言う訳で、皆様にはお引き取り願いました」
馬車での移動途中、演習場入口での騒ぎを報告するインスの口ぶりが冷ややかで、そのくせ表情は貼りつけたように穏やかなものだから、同乗しているウスニーとディオネラは冷や汗を浮かべる。
そのインスの膝の上で抱かれているアインは、ウスニーから診察を受け、特に怪我はないと診断されていた。
もちろん、インスもファンがアインに付きつけていた剣先が「触れてはいないだろう……」とは思ってはいた。
けれど、万が一、億が一にも、薄皮一枚分だって傷ついていたら……それも治らない可能性があると心配して、ウスニーに診察を頼み込んだのだ。
「心配し過ぎだろう……」
と、若干呆れたウスニーだったが、詰めるような勢いでインスが頼み込んでくるものだから、移動中にならと請け負った結果だった。
アインの顔を上向かせ、喉元を中心に首の辺りを慎重に確かめて、その細くてなめらから肌に一切の傷も、妙な魔力の残留もないことを保証したウスニーの説明を聞いて、漸くほっと一安心したインスの口から出たのは穏やかな正論での皮肉。
ジャンヌや、ファンに対する痛烈な批判であり、聞く者が聞けば不敬で罰されても不思議はない。
「……インス様……」
あまりにも厳しい内容に……声音や表情は穏やかなのに内容だけがひたすら厳しかった……アインも心配そうにインスの服を引く。
「……僕は、大丈夫ですから……」
「……アイン君……」
青ざめた顔で笑って見せるアインに、インスも思わず口籠る。
「……インス様に、危ないこと、して欲しく……ないです……」
心配そうに瞳を覗き込んでくるアインに、一瞬息を飲んだインスは、すぐにふっと、肩の力を抜いて微笑む。
「……アイン君が、そういうのなら……」
とりあえずは許しましょう。と心の中でだけ続けたインスに、アインは安心したように微笑み返す。
けれど、そのインスの気配に、ウスニーとディオネラは悪寒を感じて身震いした。
第1章第5話をお読みいただきありがとうございます。
ついにアインの怪我の治療に向けた授業の当日を迎えました。
しかし、演習場へ向かう直前に遭遇したのは、無自覚にアインを精神的に追い詰めるジャンヌと、アインに剣を突き付けるファン。
穏やかな口調ながらも正論で痛烈な批判を口にするインスの様子には、同乗していたウスニーやディオネラも冷や汗を浮かべます。
アインの願いに「とりあえずは許しましょう」と微笑むインスですが、周囲に悪寒を感じさせるほどの底知れない気迫は、彼がどれほどアインを大切に想っているかの裏返しでもあります。
いよいよ一行は郊外の演習場に到着!
果たして無事に授業は行われるのか?
次回もお楽しみに!
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【第8弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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