第4話・皇宮呪師の機能停止 ~呪師長の笑みが意味するものは~
第1章 皇宮呪師の復帰
第4話・皇宮呪師の機能停止 ~呪師長の笑みが意味するものは~
インスの元に、アインからだと言って手紙が届いたのは三日後。
集中治療室から元の一般個室病棟に移ってすぐ。
「…………………………」
「……? ……インス?」
告げられた途端に硬直したインスを訝ってウスニーが声をかけるが、瞬きすらせずに差し出された封書を見つめている。
「……おい? 聞いているのか?」
ますます訝し気に眉を顰めたウスニーは……
「って!? バカ者! 息をしろ!!」
呼吸さえ止めて見つめていることに気づいて、慌てて背中を叩いた。
「……っは……っ! げほっ……」
衝撃で我に返ったインスが咳き込みながら、震える手でその手紙を受け取る。
実は、アインから手紙を受け取るのが初めてで、驚きすぎて思考が停止してしまっていた。
その結果、瞬きどころか呼吸さえ止めて硬直してしまったのだから、その衝撃たるやと言うもの。
「……アイン君……」
目の淵に涙を溜めて噎せながら、インスはそっと、自分の名前が書かれた宛名面を撫で、次いで裏に返して差出人の署名が間違いなくアインになっていることを確かめる。
まだ子供のたどたどしさが残る、けれど丁寧で柔らかい筆跡に知らず口元に笑みが浮かんだ。
「………………」
インスの表情を目にしたウスニーが若干顔を引きつらせたことには気づかない。
そのくらい、今のインスはアインからのものだという手紙に神経が集中していた。
やさしげ、だとか、慈愛に満ちた、とは全く違う、執着と独占欲を感じさせる……それでいて、とんでもなく美しい微笑み。
もともと細身だったインスは、儚げな印象が強かった。
そこに来て、今はまだ体重が戻り切っていないので完全にこの世のものとは思えない様相。
アインほどの魔性の美しさはなくても、十分異形の美しさを感じさせる。
丁寧に封を切ったインスは、中から便箋を取り出し、そこに書かれているお手本のような……それでいて心の籠ったメッセージを一文字一文字丁寧に読んでいく。
おおよそ、書かれていたのはインスの体調を気遣う内容と、自分も頑張っている、と言うこと。
そして、退院後に予定されている授業への……緊張を隠さない不安。
「……ウスニーさん……」
「……なんだ……?」
三度、手紙を読み直したインスが、視線を固定したままでウスニーを呼ぶ。
目を向けもせずに呼ばれたウスニーは苛立たしそうな気配を漏らすが、口に出したのはそれだけ。
「……アイン君の授業は、退院から二日後に……」
言われてウスニーは片眉を跳ね上げる。
インスの治療もできる範囲は終わっていて、今は体力の回復を促している途中。
神殿の秘薬の影響下も抜けているので、副作用もなく、本来の体調に戻っている。
あと二日もすれば退院といったところか。
そして、アインの方も大体同じ頃には退院となる予定。
さらに二日後に設定するのは、一応、中一日様子を見るためだろう。
「……アムス校長と、神殿側に調整をお願いできますか?」
皇宮呪師学校の校長であるディオネラ=アムスへの連絡と、神官呪師学校側への連絡を頼んだインスに……
「……いいだろう」
溜め息混じりで頷いたウスニーは、インスがまた手紙を読み直し始めるのを呆れた表情で見守った。
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皇宮呪師学校からと、皇宮医務殿から届けられた書簡を前に、皇宮呪師長のキプラ=ペンティスは沈思黙考していた。
皇孫皇女であり、大陸の守護神である女神から加護を受けた巫女姫でもあるジャンヌが、魔族に狙われた事件から既に二か月半……過ぎたか……
この事件に巻き込まれたアインが長期間に及んだ入院生活に終止符を打ち、まだ癒えぬ怪我を抱えたまま、退院後初となる授業に挑んで三週間。
その授業から後、ずっと入院生活をしていたインスの退院と、アインの授業に関するその報告は、驚くことばかりが書いてあった。
まず、ジャンヌの護衛騎士団長であるファン卿ディアスが、ジャンヌが封印を解いた神剣の中の一振り、風の神剣と契約した。
神剣は、神話の時代に女神より巫女とその騎士らが与えられたと伝わるこの国の至宝。
皇族でさえ、その姿形を直接目にした者は少ない。
何より、神剣というのは、神族が使う魔法が物資化して存在する『魔法そのもの』。
普段は何の変哲もない、ごく普通の剣に擬態しているが……正確には違うが同じようなもの……その剣でつけられた傷には濃密な魔力が残るらしい。
らしい、というのは、正確なことまでは分かっていないから。
けれど現に、アインの左腕には、先の事件でファンが風の神剣から放った光る刃に掠められた怪我が……二か月半以上経過した今も残っている。
自然治癒力さえも働かない……止血という概念すら意味をなさないその怪我に、アインはずっと苦しめられてきた。
その、傷口に残る魔力を消化することでなくし、治療阻害を解こうという授業が今度行われる。
まだ入院中のインスとアインが退院した後、中一日を空けて次の日に行う予定だという。
使わせる予定なのは初級の風魔法。
精霊魔法なので、神殿側で授業を行ってもいいはずだが、皇宮側で行うことになったのは……
風の神剣が残した魔力が、どれほどの影響をもたらすか分からないから。
それでなくても、アインは就学年齢である十三歳に満たない特例の存在。
両目に強い魔力を宿し、魔力を魔力のまま使えてしまう見者。
保有する魔力量だけで言うなら……当代一の実力者と言われているインスを越えているかもしれない。
だからもし、アインが魔法を暴走させてしまった時、火消しができる可能性はインスだけだ。
「……風の魔法、ね……」
唇を開いたキプラが薄く、笑みを浮かべる。
どことなく面白がるような……
あるいは嘲るような……
何か棘を感じる笑みと、思慮深そうな声との乖離が激しい。
「……これはこれで……愉しみですね……」
一体、何が起こるのか、何も起きないのか……どちらであっても愉しみだ……
小さく喉を鳴らして嗤ったキプラは、承認の書類を認め、皇城側へと提出した。
第1章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、一般病棟に移ったインスのもとに、アインから初めての手紙が届きました。
手紙を前にして呼吸すら忘れてしまうほどのインスの驚きと、手紙を読みながら浮かべた微笑みからは、アインに対するただならぬ執着と深い想いが伝わってきます。
そしてついに、アインの怪我の治療に向けた「神剣の魔力を消費させる」ための授業の日程が決まります。
一方、後半では皇宮呪師長キプラが報告書を前に思案する姿が描かれました。
特例であるアインの莫大な魔力と危険性を理解した上で、その授業に対してなぜか愉しそうな笑みを浮かべるキプラ。
この不気味な呪師長が何を考えているのか、そして授業は無事に行われるのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第8弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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