第3話・食事のついでの情報交換 ~言い方変えれば見張られながら~
第1章 皇宮呪師の復帰
第3話・食事のついでの情報交換 ~言い方変えれば見張られながら~
インスがまた目を覚ましたという報告を受けたウスニーは、事前に命じておいた食事を半ば無理やり食べさせながら、先ほど気になった点を問いかける。
「……夢を、見たのです……」
「は? 夢?」
まだ胃腸の調子が悪いインスは、少し眉を顰めながらもゆっくりと薄いスープを口に運ぶ。
味付けは薄くされているが、形が無くなるほど具材が煮込まれていて、栄養価は高く、また、様々な薬草なども使われているため、薬効もある。
十日ほど前に飲まされた神殿の秘薬とかいう劇物の効果がまだかろうじて残っているのか、副作用の吐き気と不快感と倦怠感はあっても食べれてしまうのだから残すことは許されない。
「……闇の中に私はいて、多分、生身ではなく、精神体の状態だったのか……そんな様子で……そこで、アイン君が酷い扱いを受けていたのです……」
「……………」
インスの説明を聞いて、ウスニーは内心で「ちょっと待て!」と絶叫していた。
実際には一言も口には出していないが、他に誰も居なかったら怒鳴り散らしていた。
残念ながら、集中治療室には常に数人の医師と看護と補助をそれぞれ担当する医呪神官がいるので、下手なことは口にできない。
「夢と言うには鮮明で……そこでアイン君が、現実と夢の境が分からなくなって……消えてしまいそうになっていましたから……」
「つまり、お前も夢と現実の区別がつかなくなっていたということか?」
最後だけは、口に出すのも嫌と言わんばかりに渋面になって、囁くように伝えて来たインスに、ウスニーが総括して目覚めた直後の混乱ぶりを評する。
「……まあ、そう……ですね……」
「手が止まってるぞ?」
ますます嫌そうな顔をしたインスに指摘してやれば、ぶつぶつと文句を言いつつも食事を再開する。
ここ数か月間で何度も入退院を繰り返しているインスは、すっかり体重も落ちてしまっていて、神殿の秘薬による強制摂取が可能な状態でなければ危うかったほど。
今も十分な体重が戻ったわけではないが、何とか生きれるくらいにはなったか……
呪師は魔法を使うのに魔力を使う。
魔力は生命力から作られ、生命力に還元されると考えられていて、身の内に一定以上の魔力が蓄積されるようになると老化がほぼ止まって長命化する。
第一線で活躍している呪師の多くが三十代から四十代頃の外見をしていながら、その実百歳を超えていることも多いのはそれが理由だ。
逆に、インスのようにまだ若い呪師は見た目通りの年齢。
いわゆる成長途中という状態で、この頃にどれだけ魔力量が増えるかによってその後が変わると言えた。
(いくら生まれる前から魔力量が多いと診断されていたとはいえ、成長期にこれほどの負荷を負っていたら生命力との循環に問題が出ないか? こいつが短命で終わったらとんでもない損失だぞ?)
皇宮呪師を統括する呪師長の真意が見えない。
まさか、若い芽を潰すための無茶ぶりとは思いたくないが、明らかにインスへの負担が大きすぎる。
「話は分かった。ここから先は昨夜から今朝にかけて主神殿で行われた事だ。まず、神官呪師学校で長年校長を務めていたヴィロバ=エルマーニは退任した」
「……それ、私に話していいんですか……?」
「お前はアインの皇宮呪師側の実技指導担当だろうが。知っていないとまずいだろう」
おもむろに口を開いたウスニーの言葉に、一瞬だけ手を止めたインスはすぐに動きを再開させながらチラリと睨む。
あっさりと言ったウスニーは続けるぞ、と気にもしない。
そもそも、ウスニーも真実をすべて語っているわけでもないので、話せる範囲で話している、という感覚。
その上で、事前情報などからインスがある程度真実を読み解くことも織り込み済みだ。
「それに伴う人事異動などが今朝、主神殿から通達された。一旦呪師学校の校長職は神官長の皆様が持ち回りで務められる……とはいえ、既に持ち回りでご担当されている業務が多いから、基本的には秘書官を通しての書面でとなるだろう」
どの神官長も数人の秘書官を置いている。
それは、それぞれの専門分野での業務以外にも仕事があるから。
代わりに、誰がその時に担当していても、毎日の会議で情報は共有されるので抜けも漏れもあまりない。
なるほど……と頷いたインスは何とかスープを食べきって、次の皿を睨むように見る。
「……さっさと食え」
「……分かっています……」
ペースト状の何か……肉か、魚か……それとも野菜の類か……もしかして、色々混ざっているのか? という、何とも知れないものを、薄く切ったパンに乗せて慎重に口へと運ぶ。
運びながら、神官長たちが持ち回りで担当するなら、今回のような問題はもう起こらないだろうと考えた。
もっとも、恐らくは暫定的な対応。
いずれ、次の校長が選出されることになるのだろう。
一口分の薄いパンを飲み込むのが物凄く大変だった。
見た目のわりに味は悪くはないのだが、やはり今は固形物が少しきつい。
いっそ、流し込んでしまおうかと考えたのに、飲み物が用意して貰えていなかった。
「……流し込むのはダメだぞ?」
インスの視線が何かを探すように動くのを見て、ウスニーが釘を刺す。
よく咀嚼しないうちに流し込まれたら、消化器官に負担がかかる。
最低限の固形物くらいちゃんと食え、と叱責した。
その後も、様々に情報交換だか診察だかをしながら、用意された食事をインスが完食するまで見張って……
「……も、無理……暫く何も食べたくないです……」
青くなって突っ伏すインスは、吐き気と不快感がぶり返して口元を手で押さえている。
それでも吐き出せないのを、これまでの入院生活で嫌というほど体験させられていて……若干涙目。
「ダメに決まってるだろう? 大丈夫だ。食前食後の薬で消化も吸収も助けてある。夕方には軽食代わりに特製ジュースを用意してやるから、楽しみにしていろ。もちろん、夕食は別だ」
そんなインスに、呆れた口調で言ったウスニーは、最後にはニヤリと……それはそれは人の悪い笑みを浮かべる。
「……嬉しくないです……」
そんなウスニーを目だけで睨んで、インスは少し痛む胃の辺りを擦る。
「黙れ。それだけ元気なら、機能訓練もいけそうだな……よし、やるぞ」
「あなたは鬼ですか……!」
様子に、ウスニーは容赦なく次の予定を宣告し、その宣言にインスは悲鳴のような声を上げた。
第1章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回はウスニーの監視下で行われる、インスの過酷な(?)食事シーン。
その中でインスが語った「アインの夢」。
精神体の状態でアインの危機を鮮明に感じ取っていたという事実は、彼らの間に生じている尋常ではない繋がりを改めて感じさせます。
また、ヴィロバ元校長の退任と、今後の神官呪師学校の体制という重要な情報も明かされました。
満身創痍のインスですが、果たして退院までに無事に体力を戻せるのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第8弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト
※番外編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s8365j/
※本編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s7443j/




