第2話・残酷なのは現実で ~苦悩に呑まれる神官たちの~
第1章 皇宮呪師の復帰
第2話・残酷なのは現実で ~苦悩に呑まれる神官たちの~
先日、アインのトラウマを克服させる授業で、インスは三度も死亡判定をされるような精神的ダメージを負った。
そのせいか授業後に昏倒し、それから既に二十日近く経過した今も皇宮医務殿に入院中。
物理的には病巣もないのにインスが不調を起こした理由が、その精神体の損傷。
通常は目に見えるはずもない、心を具現する器と言われる精神体を、見者であるアインは『視認』することができた。
その結果、インスの精神体には無数の傷跡が残っていることが分かり……
「……そして、何でか、どんどん悪化してるんだよなぁ……?」
「……………」
ぎろりと睨むウスニーから、そっと目を逸らすインスだったが、そんなことを言われても……という思いしかない。
別に、インスだって体調不良でいたいわけではないし、さっさと退院できるならそうしたい。
退院した途端に面倒ごとが雪崩のごとく襲い掛かってくるような気もするが、こうも不自由なままでいたいわけでもなかった。
「病巣はないと言ったが、損傷がないわけでもない……とりあえず、一度内臓の傷を癒すために回復魔法はかけるぞ」
溜め息を一つ。
精神体の怪我をどうこうすることはできないが……というより、見えない上に感じ取ることもできない精神体にどう働きかけて良いかわからない……物理的な損傷が皆無と言う訳ではないから血を吐いたのだ。
だから、その怪我を治すための回復魔法は有効なはず。
しかし、回復魔法というのは、患者の治癒力を高めることで怪我や病気を癒す魔法。
治癒力を支える気力や体力のない患者にかけるわけにはいかないため、意識を取り戻すのを待っていた。
「……分かりました……お願いします……」
言われて頷いたインスは、体から余計な力を抜いて、ウスニーが魔法をかけるのを静かに待つ。
柔らかで温かな白い光が、ジクジクと痛む胃の辺りを包み、じんわりとしみ込んでいくのを感じる。
同時に、少しづずつ伸し掛かってくる疲労感は、体力を消耗している証拠で……完全に痛みが消えるよりも早く、ほんの一瞬眩暈を感じたところで止められた。
「……ここまでだな……後は一旦食事と薬で体力の回復も促す……完治するまでに三日はかかりそうか……」
何もなければ、だが……
ぎろりと睨まれて、青い顔で浅く息をするインスはちょっと肩を竦める。
そんなことを言われても、何か起こるかなんて、インスにもわからない。
「……とりあえず、一旦寝ろ……起きたら食事を摂れ。いいな?」
「……わかりました……」
ぐったりとして疲れた様子のインスの目元に手を当てて、瞼を閉ざさせたウスニーに頷き返して、インスはもう一度、夢の中へと降りて行った。
インスが眠ったのを確認して、そっと息を吐いたウスニーは後を任せて一旦執務室に戻る。
今朝早くに主神殿から届けられた報告書を取り出し、中身を再確認した。
(……元神官呪師学校校長、ヴィロバ=エルマーニによる、最重要保護監視対象、仮名・アインに対する虐待、及び非人道的で狂信的欺瞞。これらの罪により、神前裁判にて消滅刑……救いようがないな……)
神官呪師学校は、文字通り神官呪師を育成する学校。
その最高責任者である校長が、幼児を虐待し、非人道的な行いを繰り返していた、と証明されてしまった。
さらに、狂信的欺瞞の罪にも問われたということは、自分に都合のいいように教義を歪め、あたかもそれが正道であるかのように吹き込んでいたことになる。
(……だからアインは、神剣によって負った怪我を、神に与えられた罰だと思い込んで治すことを躊躇った……)
実際には、つい二十日ほど前までは、治す手立ても分からない状況ではあった。
だが、漸く治療の可能性が見つかった時に、本人が「治してはいけないもの。」だと思い込まされていたのだから驚いた。
怪我を負ったのは二か月半ほども前で、そこから一切、治る様子を見せないのは、傷口に強い魔力が残ってしまっているから。
止血さえできない状態で、隙間を埋めるように縫合手術を施して、それで漸く出血を押さえていた。
当然、そんな状態なので怪我をした左腕はまともに使うこともできなくて、酷い貧血が続いている。
(何とか説得して、治療のために魔法を使わせることにも同意させたというのに……)
直後にインスは血を吐いて倒れ、アインはヴィロバに監禁されて重体に陥り、指導担当と生徒、双方が集中治療室行き。
「……絶対、おかしいだろう……」
頭を抱えるウスニーの言う通り、タイミングが合い過ぎている。
(……あいつら、共依存どころか魂の癒着でも始まってないか……? 冗談じゃないぞ!?)
そんなことが起こるのかすらわからないが、まるでアインが監禁され、重体に陥ったのを知っているかのようなインスの反応もおかしすぎる。
そう言えば、話を聞きそこなったな、と気づいたが、正直、今聞きたい話でもない。
とりあえずはこちらからも、インスの状態を知らせる書簡を送るしかないだろう。
(……本当に……)
今の、この国で、一体何が起きているのか……
不気味なほどの様相に、知らず背筋に寒気が走って、ウスニーはそっと、胸の前で十字を切った。
第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。
回復魔法すらも完全にはかけられないほど、インスの体力は限界。
その一方で、ウスニーの視点からはアインを縛り付けていた「狂信的欺瞞」の恐ろしい全貌が語られます。
さらにウスニーを戦慄させたのは、インスが倒れたタイミングとアインが重体に陥ったタイミングの奇妙すぎる一致。
不気味な様相を呈してくる事態に、大人たちの苦悩は深まるばかり……。
この国で、そして二人の間に一体何が起きているのか?
次回もお楽しみに!
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