第5話・呪師長室に置かれた箱と ~垣間見せるは本性と~
第2章 終わりは始まり
第5話・呪師長室に置かれた箱と ~垣間見せるは本性と~
「……っ!?」
引きずられて痛む身体はまだ、全く動かせなくて、どれだけ力を入れてもかすかに震えるだけ。
そんな状態で箱の中を目にしたインスは息を飲む。
信じられない思いでキプラに視線を向けた。
「…………」
うっそりと、口元にだけ笑みを浮かべたキプラは、そんなインスを問答無用で箱の中に押し込み、中に作りつけられていた枷で手足を固定してしまう。
更に、別で固定されていた鎖の先にある首枷をはめ、ぐったりとしながらも睨みつけるインスに、それはそれは愉しそうに笑いかけた。
「……っ……!? ん゛っ!! ん゛ん゛~~~~っ!!」
直後、魔力を奪われる感覚と、全身を襲う魔力の感覚に、インスはびくりと大きく体を震わせ、悲鳴を上げる。
くらりと意識が遠のきかかり、けれど触覚を刺激するように、全身を余すところなく通る魔力の動きと重さに神経が昂って、すんなり気絶することもできない。
「……ああ、いい表情ですねぇ……」
口を封じられているせいでくぐもった音が微かに漏れるだけの悲鳴と、全身を襲う嫌悪感に顔を顰めるインスを眺め、キプラの口から恍惚とした呟きが漏れる。
「……どうですか? 全身を、中も外も私の魔力に蹂躙される気分は? ……どれだけ強靭な精神を持っていても、物質の器という枷に縛られている以上、生存本能に支配された生理現象からは逃れられません……」
悲鳴にならない悲鳴を上げるインスの顎を掴み、顔を上げさせたキプラが囁きかけるが、応じる余裕がインスにはない。
息が上がり、痙攣するように体を跳ねさせ、生理的な涙が目に浮かぶ。
「……魂までも堕ち切るか、精神までが堕ちるか……あるいは、肉体さえもが踏み止まるか……どんな結果になっても愉しみですね……」
三日月に歪む眼差しと、にいっと、裂ける様に笑みを刻む唇と、口の中での空恐ろしい囁きと……
全身を襲う、逃れようのない嫌悪感と、遠慮なく奪われていく魔力にとうとう意識が飛んだ。
「……ああ、もう、気を失ってしまいましたか……もう少し、加減して魔力は奪わないとダメですね……」
ぐったりとして意識を失ってしまったインスを眺め、残念そうに言ったキプラは、インスの首にはめた枷に手を添え、魔力を流す。
一度に奪い取る魔力の量を、インスが気を失わない程度に加減するように調整して、サラリとその髪を漉いた。
「……さて、壊れるのが先か、干からびるのが先か……それとも、これでもまだ、生き残る道を掴むのか……どこまで持つのか、本当に、愉しみですね……」
クク……と、喉の奥で笑って、扉を閉める。
錠をかけ、インスを閉じ込めると、軽く右手を振った。
そこに、インスが姿を現す。
本物ではない。
その姿を幻影人形で造っただけ。
「……部屋に戻って、結構ですよ……?」
にこやかに告げたキプラに一礼し、幻影人形のインスが部屋を出ていく。
そうして、何人もの警備の皇宮護衛官に目撃されながら部屋に行った『インス』は、中に入り、鍵をかけると掻き消えた。
暗い箱の中で、微かに意識を取り戻したインスは、全身を襲う苦痛とギリギリ意識を保てる程度を残して奪われ続けている魔力に息を吐く。
一瞬、何がどうなっているのか、記憶が混乱するが、動こうとしても動かせない手足と、ほんの少し動いた拍子に耳に届いた微かな音で状況を思い出した。
どれだけ時間が経ったのかまでは分からないけれど、呪師長室にインスが訪れ、それ以降、姿が見えないとなればすぐに誰かが気付くはず。
この箱の中で音を立てて、外に漏れ聞こえるのかまでは分からないけれど、人の気配か、魔力を感じ取れたら、騒いでみるのも一つだろう。
キプラが、幻影人形で自分の姿を造って、部屋に戻したとは知らないインスはそう考える。
もっとも、それを知っていたとしても、できることは変わらなかっただろう。
(……呪師長は……)
人間ではない。
それがはっきりしたのは、魔力を奪われていることと、精神体への直接攻撃。
それと、魔力による蹂躙。
今もなお、蠢く闇の魔力が全身を……外側からも内側からも好き勝手に動き回って、内臓まですべてズタズタにされそうな痛みを感じる。
吐き出しそうな嫌悪感と苦痛しか感じないのに、吐くことも逃れることも許されない。
何よりも、物理的なそれだけではなく、精神体に対しても同じことをされているのが分かって今すぐ舌を噛んで死にたいくらいだ。
なのに、それすら口を封じる枷に遮られて許されない。
それに……
(……アイン、くん……)
独りにしないと、約束をした。
あの子のためにも、どんな状況に陥ったとしても、自ら命を絶つことなど許せない。
正直、死んだほうがマシな状況にされてはいるが、それでも……
(……アイン君……っ)
あの子が、自分を求めてくれている限り。
あの子が、自分を拒絶しない限りは……
再び遠ざかっていく意識を感じながらも、インスは強く、心に刻む。
絶対に、屈したりしない、と。
――その日を境に、ある人物が皇宮から姿を消した。
第2章第5話をお読みいただきありがとうございます。
今回はキプラ呪師長の恐るべき本性と残虐性が容赦なく描かれました。
インスに、人間ではないと確信させるほどの魔力による蹂躙。
そして苦痛に歪むインスを見て愉悦に浸るその姿は、まさに悪意の塊です。
幻影人形による隠蔽も行われ、誰も助けに来ない絶望の淵にあって、それでもインスの心を繋ぎ止めたのはアインの存在。
完全に退路を断たれ、それでもアインとの約束のために生き抜くことを誓うインスの運命やいかに!?
次回もお楽しみに!
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【第8弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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