エピローグ・気づけなかった兆しの騒めき ~愚か者に下される~
終 章
エピローグ・気づけなかった兆しの騒めき ~愚か者に下される~
主神殿の医務殿に運び込まれたころにはアインは意識を取り戻していた。
そうは言っても、まだ疲労が抜けきっていないので、ぼんやりとした様子。
「……ぃ、んす……さ、ま……?」
その、ぼんやりとした様子でインスの名前を、不思議そうに呟いて、何かを探すように視線を彷徨わせていた。
「……アイン……」
声をかけたのは主神殿の医務殿で総括を務める医呪神官長、シリウム=ゾナール。
銀色がかかった緑色の髪と、明るい赤色の瞳をした、四十代後半ほどの外見をした男性の神官呪師で、二か月半ほど前の事件で生死の境を彷徨ったアインの主治医。
それから、今日になって漸く傷口から魔力が消えて、治療が可能になった左腕の怪我も定期的に診察に当たっていた。
呼び掛けられたアインは彷徨っていた視線をシリウムに合わせ、暫くぼーっと見つめる。
「……神官、ちょ……さ、ま……?」
「ここは主神殿の医務殿だ。授業が終わってから、皇宮の医務殿で応急手当てを受けて、神殿に戻って来たんだよ」
首を傾げるようにしてシリウムを認識したアインに説明する。
話を聞くうちに、少しずつ意識がはっきりしてきたのか、言い終わる頃にはぱちりと瞳を開いていた。
「……ぁ……」
「……思い出せたか……?」
少し戸惑ったように吐息を漏らしたアインに、確認すると、こっくりと頷きが返ってくる。
「インスは皇宮だな。今後の授業に関しての協議が近々行われるらしいから、次に会うとしたらその後だろう」
「……そう、ですね……」
説明しながら、左腕の診察を始めたシリウムに答えながら、なぜだかアインは心臓が落ち着かない鼓動を繰り返していて……その脈拍の速さにシリウムは眉を顰めた。
「……どうした? 具合が悪いのか?」
チラリと顔を見たシリウムに、アインは曖昧に首を横に振る。
疲れてはいるが、特別具合が悪い感じはしない。
なのに、落ち着かない。
「……分かりません……でも……」
だから、アインは素直にそれを伝える。
以前なら、そんなことを口にするのは悪いことのように感じて閉ざしてしまっていたが、きちんと伝えない方が迷惑をかけると分かってからは、ちゃんと口に出すようになった。
「……ふむ……」
少し考えて、シリウムはさらに細かく診察を進めるが、特にどこか、悪化しているような様子はない。
例外は、魔力を消費する際に開いてしまった左腕の怪我だが、それも、止血が成立していることを考えればずいぶんと改善されている事になる。
「……何か、気になるようなことがあればちゃんと教えろ。きちんと言葉にできなくてもいい……お前が今、どう感じていて、どんな気持ちになっているのか……お前なりの言葉でいいから言いなさい」
「……はい……あの……」
促されて、アインはその気持ちを、口に出す。
ひどく震えて、顔を青ざめさせて。
「……なんだか、すごく……こわい、です……」
理由の分からない恐怖心と、焦燥感。
それを、たどたどしい言葉で、必死に伝えた。
アインは知らない。
インスが呪師長のキプラによって監禁されてしまったことを。
また会えるから、と微笑んでくれたインスとの再会が……とてつもない怒りと痛みにまみれたものになることを。
今、この瞬間の。
身を裂かれそうな恐怖と、焦燥と。
呑まれそうな悪寒が意味するものを知る時。
これまでにない絶望に苛まれ、自分という存在が居ることの罪を、突き付けられることになる。
神さま……
どうか……
そう願うことが、祈ることが。
どれほど身の程知らずな行いであったのか。
何かを望める立場にないことを、その時、改めて思い知らされることになった。
「姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~」番外編・聖皇国列伝秘聞・第8弾
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞⑧ ~冬空裂く暴風が奏でる異変~(完)
これにて、『皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞』第8弾「冬空裂く暴風が奏でる異変」、完結です!
主神殿の医務殿で目を覚ましたアインを襲った謎の恐怖。
治療への一歩を踏み出した直後に突きつけられた不穏な空気は、この先彼らを呑み込む冷酷な運命の足音に他なりません。
箱の中に囚われたインスはどうなったのか?
そして、その先、二人にはどんな過酷な未来が待っているのか?
残念ながら、待ち受けているのは決して明るいものではなさそうです……。
【今後の連載スケジュールについて】
絶望の続きは明日から公開の番外編第9弾でお確かめください!
明日からも1日2回、昼と夜の公開を予定しております。
引き続きお付き合いいただけますと幸いです!!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「ちょっ!? 待って!! 絶望の続きってどういうこと!?」「キャラ虐めすぎ!!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また明日からもどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト
引き続きお付き合いいただけますと幸いです!!
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