65話:オークション
|空間を切り裂く魔法の剣。
綺麗に撮られた写真と共に詳細な情報が蒼の持つスマホに表示される。
これはオークションのカタログであり、オークションの参加者全員が見ることができる。
蒼は他でもないマタサノスの出品者であり、当然このカタログを閲覧する権利がある。正確に言えば蒼ではなく、蒼たちパーティである。
ダンジョンから得られるものは、モンスターの素材だろうと武器だろうと、非常に有用な使い道がある。
後ろ暗い所に流れるとマズいので組合としては管理を引き締めたい。しかしマジックバッグやアイテムボックスがある以上、ダンジョン産物品の管理は難しい。
じゃあどうすればいいのかと組合の偉い人は考えた。出た答えはダンジョンを免許制にすること。冒険者になろうとする人物を裏で身辺調査し白であればオッケー。そして組合で高価買取することで裏社会に流れるのを防ぐ。
定価で買って定価で捌く。それが組合買取所の役割。
ところが定価が存在しないものもある。未知のアイテムや使用済みの中古品、そういったものは買取所では扱いにくい。そこでできたのがダンジョンオークション。
オークションは、冒険者組合が二年前に新しく始めた取り組みである。
買取所では扱いにくい物品を主な対象として定め、それを取引するための場所として設計された。正式名称はダンジョン競売取引所。
ダンジョンに関係していれば何でも出品できる。そのため普通に買取所で買い取ってもらえる物が出品されることもある。そういうのは多くの場合定価で落札される。手数料が取られる分、オークションに出す意味はない。
逆に、使い道が一切分からない物が出品されることだってある。新しく発見されたモンスターからのドロップアイテム等が多い。落札価格は千差万別。その後の定価と大きく離れるのも珍しくない。
ドロップしたマタサノスは剣。蒼はナイフ、伽代は薙刀、姫羅は鉈。剣は三人の得意な武器と異なる。蒼以外は自前の武器を持っているし、蒼は直前にナイフを失っているが剣は苦手で使いにくい。姫羅の「誰も使わないならオークションにでも出してみる?」という言葉からオークションへの参加が決定した。
空間を切り裂くとの名を持つが実際には空気の刃を飛ばしているだけで、名前負けは不可避。風属性のスキルで似たようなことが出来る。
ほぼ同じ効果を持つ剣はすでに見つかっているが、装飾を理由に名付ける権利を得た。そのせいで蒼のマタサノスは多くの人の目に触れた。
オークション会場は国際的なイベントでもやりそうな大規模な施設で、入る時に緊張した。
それが今や、ふかふかのソファに深く腰掛けてスマホを眺めるほどのリラックス。ゆったりと流れる空気と落ち着く香り、ふかふかのソファがそうさせた。
伽代はお花摘みに離席中。姫羅は気が付けばどこかへ行っていた。そんなわけで、蒼は一人廊下のソファでリラックス。
係員らしき人物が入場開始を告げる。それと同時にホールへの扉を開く。
蒼の目の前の扉以外に、あと数か所ホールに通じる扉があることは知っている。しかし目の前の扉から中へ入っていく人影はまばらであり、オークションがあまり賑わっていないように思える。
しばらく待てば、伽代が姫羅を引きずって帰ってきた。蒼はソファから腰を上げる。
「ボクは女の子にモテるからね。仕方ないのさ」
係員の女性と楽しく喋っていた姫羅。伽代によって無理やり連れ戻されて、帰還直後にそう言った。蒼と伽代に脛を蹴られ、今は膝をついている。orz。
§
満を持してオークション会場のホールに入場。
だだっ広い空間には、それぞれケースに入った出品物が並んでいる。
ケースの横にはモニター。オークションが始まって、モニターでは価格がどんどん変化する。これが入札されているということだろうか。
元より出品だけが目的で、何かを買う予定など無かった蒼たちはすぐに暇になってしまった。蒼は特に何かを買おうと思ってもそんなお金はないわけで、ぶらぶらと出品物を眺めて歩く。
社会科見学的ノリで来たから、出品物だけでなく会場の人々にも目を向けてみる。会場にいるのは殆どが冒険者であろう人たち。
何か言葉にできない威圧感を感じる。強者同士は分かり合うってやつだ。多分。
年齢層は高そう。少なくとも高校生は自分たち以外に見当たらない。
蒼がそう伽代に言うと、学生の冒険者は少ないし、そもそもオークションはオンラインでも参加できると教えてくれた。
そもそもアイテムドロップもレアドロップもそこそこ珍しい現象であり、学生との片手間でオークションに参加できる冒険者は少ないのである。安全を気にせず無理やり深く潜るか、相当の幸運がないと。
それに、大学生は少しだがいた。蒼は大学生と大人の見分けが付かなかったが。
気付けば二人とはぐれていた。一人になった蒼は、フラフラと歩きだす。電話もあるし、必要ならかけてくるだろうという考え。
少し離れたところでいざこざが起きている。ナンパ云々とも聞こえるのでもしかしたら姫羅かもしれない。野次馬根性チラ見せしつつ近づいてみる。
「いいじゃん、一緒にお茶しようよ」
まばらな人垣の向こうでそう話す少女。見たところ中学生ぐらいだから、蒼が今日見た中で一番年下かもしれない。
ドピンクの頭髪に少し恐怖を覚える。所々に入っている青紫のメッシュも合わさり、警告色のよう。ちょっと雰囲気が怖い。
蒼の周囲に髪を染めている人がいない。伽代が少し茶髪気味、しかしこれは地毛である。それもあり、染髪している人物を怖いと思ってしまうのだ。
関わらないようにするが吉。そっと離れようとした蒼を、少女の双眸が完全に捕らえた。
全部投げ出してこの場を立ち去ろうとも思ったが、それより先に問題が解決。警告色のナンパ少女、人垣の外から勢いよくやって来た人物に思いっきり殴られる。
少女を殴った女性に見覚えがある。学校に特別技能教員としてやって来ていた和倉先生だ。最近会う機会がなかった人物。
あんなマッチョな腕で殴られれば、軽く骨折はしそう。しかして少女はけろりとしているから、彼女もまた冒険者ということなのだろう。
和倉に挨拶でもしたかったが、毒でも持っていそうな色合いの少女が怖いのでソロリソロリと気付かれぬように離脱する。
それからしばらく、出品物を眺めていた。ついでに周囲の人にも目を向けつつ。
ダンジョン産のペンダントを眺めていた時、背後が少し騒がしくなった。また先ほどの少女のナンパ未遂かと振り返れば、姫羅が係員の女性と話していた。
「ああ、お姫様。ごめんね。ボクも一緒に食事に行きたいのだけれど、今日は予定があるから」
歯が浮いて抜け落ちそうだ。
見なかったことにして、この場を離れようとする。蒼が離れるより前に、姫羅が勢いよくやって来た人物に思いっきり殴られる。伽代である。
もうやだ。帰りたい。




