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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第三章 冒険者の分かれ道

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61話:なんということのない日々

 朝起きてシャワーを浴びる。

 身も心もさっぱりするから、最近ハマった。


 ドライヤーは面倒だから、水も滴るいい女。

 朝っぱらからパジャマに着替えて、家族が起き始めるのを待つ。


 蒼は最近、朝早く起きるようになった。おかげで朝ご飯だよと弟に起こされることはなくなったし、シャワーを浴びることもできる。

 寝覚めが悪いことに目を瞑れば、良いことだ。

 実際問題目を瞑れないわけで、目下の蒼の悩みは寝覚めの悪さだった。落下するような浮遊感で飛び起きる。寝起きは汗だくだし心臓は早鐘気味。

 汗を流すためのシャワーでリラックスできるから良いものの、少し寝不足気味で元気が出ない。


 スマホを見る。新着メッセージがある。

 寝ている間に伽代から送られてきたメッセージは、ダンジョンに行こうという内容である。

 丁重にお断りしておく。何というか、気分じゃない。

 元気もないし活力が足りていない。こんなので付いていけば邪魔になるだけだろう。


 それに、自分が思っていた以上に、自分は痛みに弱かった。



 §



 調子の悪そうな姉を見て、老婆心が首をもたげる。

 ”老”でもないし、”婆”になる予定もない。でもきっと、これは老婆心が最も適切。


 かつてないほどに元気のない姉を見て、翠は確信した。

 友達と喧嘩したのだと。友達がいなかった姉のことだから、仲直りの仕方が分からないのだろうと。

 弟の自分が一肌脱いで仲介してあげよう。そう言ったら、蒼は「そういうのじゃない」と言って部屋に戻ってしまった。見ていたテレビがそのまま。


 動物特集をやっていた番組は終わったのか、朝のニュースに切り替わる。

 そのニュースキャスターの言葉で腑に落ちる。


 ——日本国内の数か所のダンジョンで入場制限。モンスターの生息地に異変、原因は調査中。


 要約すればこんな感じだろうか。途中途中で専門家を名乗る人が「世界では——」とか「経済的損失は——」とか言っていたが良く分からない。

 挙げられたのの中にこの町のダンジョンがあったから、『ダンジョンに入れない』からの『友達に会えない』、そして『ダンジョン以外で友達を誘えない』。これだな。

 確かにこれだったら、手助けは余計邪魔になるだけだろう。心の中で応援するだけに留める。


『モンスターが階層を跨ぐというのは過去に前例がなく考え——』


 興味もないしニュースは消す。この前姉が見ていた映画でも見ることにする。

 タイトルは、『マリミアの子供たち』か。知らない。

 今の時代にDVDの映画とは……。



 ——なんだこれ。

 映画監督の技というのか、もしくは業(わざ)か。一時間半があっという間に過ぎる、人を惹き付ける映画だった。


 ただ、暗くて重くて、誰も幸せにならないバッドエンド。そして主人公たちに同情できない。

 正直自分には刺さらなかったし、姉の好きなタイプの映画ではないと思うのだけれど。姉は何を思ってこの映画を手に取ったんだろうか。



 §



 昼寝をする。

 夜の睡眠時間が自然と短くなるせいで眠気が抜けなくて、その対処としての昼寝。


 やはり寝不足か、蒼はすぐに寝息を立て始めた。



 しばらくは穏やかな呼吸と共に眠る。

 穏やかな呼吸はころりと変わる。


 夢の中で落下感を感じ始めて、次の呼吸には目覚めている。


 眠っている最中に何かを掴もうと手を動かしたのか、机にぶつけた痛みが遅れてやってくる。

 開いた目は机から落ちる物を見つけて、寝ぼけながらも地面に落ちる前にキャッチする。


 手の中に納まっているのは陶器のマグカップ。

 地面にぶつかり割れることもなくそこに存在している。


 しばらく眺めていたけれど、中身は空で良かった。



 寝起きに落ちるマグカップを地面スレスレで受け止めた自分。相手がマグカップじゃなくて人間だったら今頃蒼はスーパーヒーローになっていた。

 自身の咄嗟の行動に満点花丸をあげて、人生のハイライトに入れることが決定。きっと走馬灯でも再生されるに違いない。


 スーパーヒーローになったような気分で寝覚めは良し。

 カップの取っ手に指を引っかけて、意気揚々とくるくる回す。


「あっ」


 指からすっぽ抜けた。

 あっという間。落ちてぶつかり、割れて転がる。


 せっかく割れなかったのに、今度こそ割れてしまった。

 しばらく眺めていた。




 ~第三章 おわり~

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