58話:空中戦
木から飛び降りて空中へと躍り出した蒼は、宙に浮く。
ふよふよと少し上下しつつも、空中に留まっている。何故か蒼の近くにいるサメモグラも、同じように浮いている。
正確には、ふよふよと言うよりもカクカクの方が正しい。
パラパラ漫画で数枚の同じコマだけをループするように、空中の同じ場所でカクカクと浮いている。
想定していない状況に、伽代と姫羅の二人はぱちくりと目をしばたたかせる。
この場で予想通りになっているのは蒼一人で、蒼と一緒に浮いているサメモグラも手足をばたつかせて理解できない様子。
一呼吸置いて、ようやく二人は蒼に聞いた。
「「なんで浮いてるの?」」
ばたつくサメモグラの事なんか眼中にない二人。蒼も気にせず説明を始める。
「思ったの。転移を連続で発動するのを利用して空飛べるんじゃないかなって。んで、サメも巻き込んで地面に逃げれないようにしたってわけ」
同じ場所に転移し続ける事で空中浮遊とし、少し上に転移することで上昇とする。
空中を好き勝手に移動して見せて、気分はサーカスのブランコ乗り。二人の驚く顔が気持ちいい。
蒼が空中を上下するたびに、短い足をばたつかせているサメモグラも同様に上下する。
一秒間に何回の転移をしているのか既に自分では把握しきれていない。そんなことに意味はなくて、空を飛ぶ力を手に入れたということが重要なのだ。
飛行能力! 高所は有利! 蒼は全ての生物や冒険者をぶっちぎりで超越したのだ!
脳内では劇画調になった蒼がカッコイイポーズをキメる。実際には転移中にポーズを変更することは難しくて、少し足がへにょっとした程度。
転移している蒼の前で二人が慌て始めたのは、サメモグラが攻撃をしようとしていたから。
体の近くで小石を生み出して射出した。話であったように、遠距離攻撃手段も持ち合わせているらしい。
狙いはもちろん、この状況を作り出している蒼。
避けるのは難しいのでナイフで弾き落とす。
小石にナイフをぶつけるのは刃が欠けそうで嫌なのだが、そこそこの速度で飛んでくる小石を素手で触るのも怖い。
そんなときのエダスカリバー。もう一発飛んできたのでエダスカリバーで弾く。
変な方向にファールボール。
振ってみて分かったけれど、今の蒼とサメモグラの位置関係だと近すぎてエダスカリバーは使いにくい。
持ってるだけでも邪魔なのでそこらへんに捨てる。転移の範囲から出たエダスカリバーは、すぐに重力に捕まった。
後で回収する予定だったけれど、エダスカリバーは地面に当たって折れてしまった。
思ったよりも小石の威力が高いのかもしれない。
仕方なくナイフ続投。
ナイフを構えてみたけれど、出番はすでになくなりそう。
手も足も出せないサメモグラ。小石は出せるから二人に向かって飛ばしている。地上の二人は普通に避ければいいわけで、大した攻撃にはならない。
二人がそれぞれの武器で攻撃しようとしているけれど、下手をしたら今の蒼の連続転移が途切れてしまうのでやめてもらう。代わりに石を投げつけさせる。石とはいえ冒険者のパワー。砂利の中から見つけた少し大きめの石が、着々とサメモグラに傷を増やす。でも丈夫なサメモグラには軽い傷しかつけられない。
しびれを切らした姫羅は鉈を投擲した。飛んでくる鉈を転移範囲に含むように対応しなければ、転移が途切れて墜落していたかもしれない。けれども結果良ければすべてよし。蒼は上手く対応したことで、鉈投擲という攻撃を可能にした。ちなみに石ころ程度であれば自動で転移範囲に含んでくれる。
最初の鉈は鱗に弾かれた。傷をつけたけれど、転移の範囲内で蒼たちと一緒に宙を浮いている。二投目は最初の傷に突き刺さる形で、明確にダメージを与える。
刺さった鉈と傷口に向かって石を投げる形で、よりダメージを与えてく。
ここまで来たら消化試合。
ボタンボタンと垂れる血が、垂れ切るまで待機。
定期的に飛んでくる小石を弾いて、ボタンボタンの血を眺める。
伽代なんかは、スマホを構えて写真を取っている。
記念撮影だろうか。せっかくなのでピースしておいた。
蒼がそろそろ気持ち悪くなってきた頃、決着が訪れた。
吐くほどではないけれどエチケット袋の準備をし始めるくらいの気持ち悪さ。
……まあ美少女はゲロ吐かないんですけど。
美少女は吐かないんですけど!
まだ限界は遠いぞと考えている蒼の目の前で、サメモグラの流血は光を含み始める。
しばらくして、光に消えた。
サメモグラがいなくなって、蒼と一緒に浮かんでいるのは姫羅の鉈だけになった。
蒼も、転移し続ける必要がなくなった。酔ってしまう前にさっさと地面に降りる。
こうして蒼たちは、レッグイーターというモンスターとの戦闘を終えたのである。
§
「クソが。……クソが! 返せよ。返せよ私の足ッ」
少女が地面に座りながら、無事な右足で死んだモンスターを蹴っている。蹴られているモンスターの手足は潰され、鱗は剥がれている。顔は上顎が何かによって抉り取られたようで、元々はサメのようなだった顔面には肉の断面しか残っていない。
すでに消えかけているのに、そのモンスターが食べたはずの左足は出てこない。
「食われたものもモンスターの一部って判定になって消えてくのかな。気を付けないと」
「気を付けないとじゃねぇよゴリラ。どうすんだよ私の左足。太ももが綺麗にバックリといかれてるよ。こんな痛そうなのファンのみんなに見せたら悲しませちゃう」
「その割に痛がってる様子はないけど……。まあ大丈夫でしょ。回復系のスキル持ちはポーションの効きが良くて数本飲めば欠損も治せるって話だし。ヒーリングってスキル持ってたよね?」
「なんだ、じゃあいいや。けどムカつくからこいつは蹴る」
少女が話し相手の少女からモンスターに目を向けた時、完全に光となって消滅するところだった。
「逃げんな! クソモンスが」
「多分未発見のモンスターだよね。地面を泳ぐモンスターなんて聞いたこともないし。となると発見者として名付けるか」
「名前なんて何でもいいだろ。足食い、とかで」
「足食べられたから? ネーミングが直球すぎない? レッグイーターなんてどうだろう」
「ただ横文字にしただけじゃねえか。私の方がマシだな」
ネーミングで対立した少女たち。公平に決める方法は一つ。
「「じゃんけん——」」
「「——ポン!」」
「負けたぁ!」
「私の勝ち。先輩の負け」
「じゃあ名前はそっちに譲るから。私を背負え和倉」
「はいはい」
渋々と言った感じで了承する少女を背中から蹴る。もちろん右足で。
「この大役を喜べよ。インターネットで一世を風靡するアイドルの足替わりだぞ。ファンに見られたら刺されてもおかしくない」
「先輩はネットアイドルだとかファンだとか言ってるけどさあ、フォロワー数二桁でしょ? 一般人だよ」
「うるさい。このまま人気になって一世を風靡するからいいんだよ。そして顔の良い女にチヤホヤされるんだ」
「そうですか」
後ろから煩悩を垂れ流されてはたまらないと、さっさと話を切り上げる。
背中でポーションを飲むのはいいのだけれど、飲みこぼしは無くして欲しい。
ぐびぐびという音にびちょびちょが重なって、背中を滴り落ちるポーションを感じる。




