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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第三章 冒険者の分かれ道

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57話:サメというかモグラというか

「二人は今のモンスター知ってる? ボクは初めて見たんだけど」


 木の上でみんなで一息ついて、最初に口を開いたのは姫羅だった。


 今のサメのようなモンスターは初めて見たので、地面を泳ぐ他にどのような能力を持っているのか知りたい。そういう意図の問いかけだったが、二人から返ってきたのは姫羅と同じような反応だった。


 このダンジョンの中層まで出てくるモンスターは覚えているはずだけど見覚えがない。そう答えたのが伽代で、その伽代の答えに乗っかったのが蒼。「右に同じく」と一番右端で言う。

 三人仲良く、太い枝の上で地面を見下ろす状態。結局新しい情報はほとんどなくて、とにかく三人はさっきのモンスターが再び姿を現すのを待つしかなかった。



 待つ間に三人はモンスターについての予想を立てた。ここで役に立ったのが伽代と姫羅の知識。伽代は勉強から、姫羅は経験から来る知識によって考察を進めた。蒼も、頑張って声を出した。


 最初に考えたのは、やはり相手がどのようにして戦うか。

 地面を泳ぐとかいう物理法則を無視した行動に対しては、特殊能力を持ったモンスターだろうという話になった。特殊能力持ちは下層やボスに多く、いないわけではないが中層ではそこそこ珍しい。人間が使えるものでは、地属性というスキルが土や石を操るようなことができるというから、それと似たような能力だとは思う。しかし地属性の自由度は低く、やはりモンスター特有の何らかの能力で泳いでいるのだろうというような結論にしかならなかった。

 モンスターの攻撃手段は主に噛みつき。蒼に対して攻撃しようとした様子からの予想である。ただ、地属性のスキルでは石を飛ばすようなことができるらしく、同じようなことができると考えることにした。


 次に決めたのは呼称。

 未発見のモンスターというのは考えにくいが、しかし実際に三人ともこのダンジョンに出てくるモンスターとして見た記憶がない。そのまま正式名称になることも考えて決めることにした。

 三人からそれぞれ出た案は『地中丸』『サメモグラ』『口裂けシャーク』の三つ。それぞれ伽代、姫羅、蒼の案で、全員が全員、自分の考えた名前が一番マシだと思っている。

 公正公平なジャンケンにより、最終的にはサメモグラになった。


 まだサメモグラは顔を出さない。


 サメモグラへの対処法について考える。

 相手が自分たちの攻撃の届かないところに逃げる以上、ちんたらと戦っているわけにはいかない。できるならば一撃。それが無理でも地面に逃げられる前に倒したい。

 伽代の提案で考えてみようという話になったものの、伽代と姫羅は有効な方法を出すことはできなかった。

 二人は「飛び出して来たサメモグラの眼球を傷つけて視覚を潰し、逃げる」や「物理攻撃に対してほぼ無敵な伽代が囮となり、わざと噛み付かれる。そして地面に逃げられないようどうにかして捕まえ、全員でボコす」という二つの案を出した。

 しかしどちらも問題だらけ。

 前者は「そもそも地中にいるモンスターが視覚に頼っているとは考えにくい」という根本的な問題がある。何に反応して襲って来ているのか分からない以上、目を潰そうが鼻を潰そうが安心は出来ない。ここは中層、下層はすぐ近く。必然的に上層は遠い。サメモグラ以外にもモンスターが出るわけで、襲われながらの撤退を強行するのは少々厳しい。

 後者も後者で、「地面に引き摺り込まれる可能性がある」という危険を含んでいる。この案を挙げた伽代の想定では、サメモグラが伽代の腕に噛み付き、その腕を掲げることで地面から離し、そこを姫羅と蒼が攻撃するというものだった。しかし、噛みつかれてすぐに地面に引き摺り込まれる可能性から却下された。

 小さな声で蒼も自分の考えを伝えようとする。ダメもとの二人とは違いそれなりに自信がある作戦。


「私は良い感じの作戦を思い付いたんだけど——」


 二人に伝える前に、行動するタイミングがやって来た。


 勢いよく地面から出たサメモグラは、一直線に三人の元へと飛び込んできた。

 三人とも予感を感じてはいない。しかし、地面から木の上という距離が、反応するまでの時間を稼いだ。



 姫羅の振るう鉈が鼻面を叩く。

 峰打ちでもないはずなのに、鈍い音を立てて少し鼻がひしゃげた。


 想定していたよりも固い。

 いよいよ自分たちがそれなりのピンチに置かれているとなったわけだが、姫羅に不安はない。


 死の可能性を前にして実力の100%を出せる人間は少ない。120%を出力できる人間はさらに少ない。

 姫羅は120%を出せる。命の危機や修羅場なんて、すでに何度か経験している。もちろん自身の無謀な行いによるマッチポンプ的体験だが、経験は経験。

 今姫羅にあるのは使命感。後輩であり仲間であり友達である二人を守らなければならないという使命感。


 三人の中で死地を踏み越えたことのある者は姫羅一人。

 臆すことなく鼻のひしゃげたサメをぶっ殺す方法に考えを巡らす。

 ゴリ押しか搦め手か。もしくは三人揃って一目散に逃げ出すか。


 しかし、最初に答えを出していたのは蒼だった。

 飛び降りる。


 叩かれ落ちていくサメに向かうは蒼。

 高所を手放し、宙に浮く。

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