54話:殺伐としたお泊まりDAY2
肩を掴んでゆすられる。
アイマスクを外し、擦りつつも目を開く。目の前には伽代の顔があった。
訳が分からなくて、眠気まなこをぱちくりさせる。
数秒間のロードを挟み、蒼は現状をばっちり理解。
ここはダンジョン。キャンプなう。
モンスターに襲われた時のため交代で見張りをすると決めたのがキャンプの最中。確か、伽代が二番目で、蒼が三番目。
テント内を見渡すと、裸で手足を投げ出して寝ている姫羅が目に入る。最初の見張りを終えて寝てしまったのだろう。蒼が入眠する直前の記憶では普通に装備を付けていたはずだから、わざわざ寝るときに脱いだのかもしれない。
周囲を眺めて落ち着いたので、微妙に眠そうな顔の伽代と交代する。
テントから出て軽く体操。ラジオ体操を模してはいるが、適当な動き。
ラジオ体操にわかの蒼は、数十秒で体操を終えてしまう。
続きがあるはずだけれど、思い出せない。まあいいかと考えて、小さなキャンプチェアに腰かける。
辺りの散らばった道具を見渡すと、昨日のキャンプを思い出した。
未成年だからお酒こそ用意しなかったものの、飲めや歌えやの大騒ぎで、クール美少女である蒼のキャラではないとは考えるけれど楽しかった。
バーベキューコンロを中心に三つのチェアが並ぶ。二つの空席に寂しさも感じるけれど、蒼の顔からは笑顔がこぼれる。
そこらへんに転がっている空いたペットボトルなどのゴミを拾って集める。放置しておけばダンジョンに吸収されるし、一部のゴミはダンジョンに吸収させる予定なので意味のない行為。しかし、やることも無くて暇なので一か所に集めた。集めた終わったら、またチェアに座る。
ボーっと景色を眺めていると、なにかの気配を感じ取る。
テントの中の二人を起こさないように、静かに立ち上がって相棒のナイフを構える。
気配のする方向をジッと注視する。
木々の向こうから歩いて来たのは一匹のゴブリン。
何の変哲もないゴブリン。上層にでも出てきそうな見た目。捻りに欠けるというか、没個性というか。ただ一点、ゴブリンが弓矢を持っているのがマズい。
後ろには眠っている最中の仲間が二人。大前提として安全を守る。次点で、起こさず安眠を守る。
念のために起こそうかとも思ったけれど、目の前のゴブリンには見覚えがある。ぶっ殺したので確実に別個体だが、かつて戦った時は問題なく倒すことができた。過去の自分よりも何倍も強くなった今なら、静かに確実に倒せると考えた。
まずは連続転移で一気に距離を詰める。
普通に走るよりも音が出ないと考えての行動だったが、ラッキーなことにゴブリンの動きが止まるという効果をもたらした。転移という現象を見て驚いたのだろう。
足で地面を捉える。転移における息継ぎのようなもの。
地面を捉えてバランスを整える。そのままの動きでゴブリンを蹴飛ばそうとしたが思いとどまる。どこかにぶつけたり勢い良く殴ったりすれば、大きな音を立ててしまって二人が起きるかもしれない。
静かにゴブリンを葬り去る必要がある。ついさっきまで『静かに確実に倒せる』とか考えていたのに、ゴブリンを蹴ろうとするまで戦い方については何も考えていなかった。
悩んだ末の蒼の答えは、無理やり相手の口元を押さえるクロロホルムスタイル。
強引に口元を押さえてナイフを突き刺す。狙いは首元。
ゴブリンがやたらめったらと手元の弓を振り回したせいで、首を搔っ切るアサシネイトは失敗に終わる。それどころか弓をぶつけられた腕や足が痛い。
軽い痛みに耐えつつ、ゴブリンが持つ弓を叩き落とす。
弓を失ったゴブリンは、さっさと意識を切り替える。背負っている矢筒から、矢を取り出して振り回す。
的確に蒼の四肢を狙ったその攻撃、そんなものを食らえば怪我をしてしまうので早急に対応する。対応と言っても強引なもので、空いている手でゴブリンの手を押さえるだけ。自然な動きで後ろに回り、左手ではゴブリンの口、右手ではゴブリンの右腕を掴んで完全拘束のポーズ。
押さえられたゴブリンと押さえている蒼。蒼はゴブリンの腕を掴むためにナイフを手放しているのに対して、ゴブリンは捕らえられた手で矢を握っている。
どちらが有利か悩むところ。主導権を持つ蒼か、武器を持つゴブリンか。
ゴブリンは首を傾げる。
正確に言えば傾げた訳ではなく、蒼によって傾けられた。
口を押さえる状態から顎を掴む状態に素早く変更し、ゴキリと小気味良い音を鳴らして90度回転。既に大きなダメージが入っていそうだが行けそうだったので追加で30度ほど。蒼の冒険者パワーで、首があらぬ方向を向く。
ゴブリンは抵抗しない。ならばと追加で蒼のターン。
手首を捻じって矢を落とす。
顎を回転させる為に無理な角度になっていた手を放す。そして掴みなおす。
変則アイアンクローから地面に優しく叩きつけ。この優しさは現在夢の中にいる二人に向けられたもので、ゴブリンに向けられたものではない。要するに音を出さないように地面に叩きつけた。
そのままナイフを拾い首を搔き切る。
アイムウィナー。コロンビア。
消えていくゴブリンを足で踏んで勝利のポーズ。
心優しき蒼は、大切な仲間を邪悪なるゴブリンから守ったのだ。
§
暇だ。
あまりにも暇だ。
邪悪なるゴブリンを倒し、そのまま何事もなかったかのように自身のチェアに座った蒼は、しばらくボーっとしてから思った。
ダンジョン内の景色が移り変わることなんて滅多になく、少なくとも目の前に広がっているのは常に同じ。
天気や時間帯という概念がなく、風が吹くことも基本ない。そんなだから、昔のパソコンのスクリーンセーバーの方が変化が大きそう。
まあでも景色自体は壮大なので、スクリーンセーバーを眺めるよりも目の前の景色を眺める方が確実に楽しい。
そうだ料理しよう。
暇すぎてそこら辺を歩き回ったり、ストレッチしたり、とにかく暇から目を逸らし続けた。 そろそろ起こしても良いかなと思ってテントに入る。裸で伽代を羽交い締めにする姫羅の腕を拝借。そして腕時計を見て、予め約束してあった起床時間になると分かった時、そう思ったのだ。
良い匂いがして目を覚ます。眠い目をこすってテントから這い出る伽代と姫羅。そこに朝ご飯を用意して蒼ちゃんが登場。二人は感謝感激でむせび泣く。そうして二人は、蒼に『一生付いていく』と約束するのだ。二人は起きてすぐに朝食が食べれてラッキー、蒼は一生の友達ができてハッピー。
蒼の未来予想が決まった。
蒼はドリンクバーで未知の飲み物を錬成するタイプである。しかも周りも巻き込む。
原動力は純粋な好奇心や親切心。こうした方が美味しくなるかもしれない、美味しいものを皆にも味わってほしい、そういう考えの元に巻き込む。
何度失敗しようとも、「大丈夫、今度は美味しくできているから」と言って人に出す。味見もせずに人に出す。
友達のいなかった蒼だから、総じて被害は弟の翠に集中していた。
出す前に味見しようか、ジュースに調味料かけるのやめなよ、そういった提言をしても、大丈夫の一言で流されるのだから弟の苦労は計り知れない。
母親の誕生日に、料理をしようとしたこともある。それまでキッチンに立ったことのなかった蒼は、それはもう張り切った。張り切った結果フランベった。
原因は明らかで、隠し味に追加したお酒を注ぎ過ぎたのである。あと火が強すぎた。
そうやって、意図せずスプリンクラーの涙が隠し味となった『シェフ蒼の特製チキンカレー』を生み出したら、その日中にキッチンから出禁。
それ以降、両親の誕生日では蒼はマッサージ要員にジョブチェンジ。シェフ蒼の穴は翠が埋めることになった。
バーベキューコンロに炭を追加して火をつける。
今夢の中にいる二人に、シェフ蒼の料理が提供されることは決定した。
被害を分け合う仲間ができたと、今は蒼たちよりも高い所にいる弟も浮かばれるだろう。




