53話:殺伐としたお泊まりDAY1
組合より貸し出されたキャンプ道具。それを姫羅のマジックバッグに入れて準備は万端。
伽代と姫羅がキャンプ道具を仕舞っている時に、蒼は飯島にお菓子を渡して好感度を稼いだ。
「商店街で(弟が)貰ったんです。これが私の(弟の)人望です」
叙述トリックで捻じ曲げられた現実は、捻じ曲がったまま伝わる。
飯島の中で蒼は、商店街のおじちゃんおばちゃんに可愛がられる人気の少女。
蒼はなぜこんなことをしたのか。
——そこに理由はない。なんとなくの虚言。虚勢。
特に意味なく好感度を荒稼ぎした蒼は、伽代と姫羅に声をかけられて、準備完了を知る。
色々と手続きをしてくれた飯島に手を振って、三人はダンジョンへと向かった。
§
いつ見ても圧倒される風景。
ゴブリンダンジョン中層。山岳に点々と存在する石造りの遺跡。古代遺跡の様相を呈す。
いつも通りにトレジャーハンター気分をぶち上げる蒼。
時刻は午前9時。それを姫羅の腕時計から知る。
スーパーが営業を始めるくらいの時間帯。いつもの休日だったら蒼が夢の中にいる時間帯。
いつもよりモンスターが少し、中層に来るまで少し時間がかかってしまった。
一撃で吹き飛ぶ雑魚といえど、数が多いと面倒なのだ。
朝食はそれぞれで食べてきた。お昼ご飯まで、荷物を広げる予定はない。
ただ、それはそれとして小腹がすいたので少し休憩。提案者は伽代。
マジックバッグから商店街のおばちゃんに貰ったお菓子を取り出し、姫羅と蒼にも渡して、食べる。
三人並んで石に腰掛け、食べるお菓子は甘かった。ただひたすらに甘かった。
砂糖とシュガーを煮詰めて冷やして、上から甘味料をかけたレベルの甘さ。朝食べるには重かった。昼も夜も、食べるに適する時間は分からないけれど、少なくとも朝に食べるものではなかった。
伽代と姫羅は美味しく食べれたようで、満足している。
蒼がおかしいのか、二人がおかしいのか。人から貰った物にいちゃもんつけるのも憚られたので、文句は胸にしまい込む。
お菓子休憩を終えて、即戦闘。
まるで休憩が終わるのを待ってくれていたかのようなタイミングでの襲来。
木の陰から勢い良く向かってきたのはゴーレム。六つ足の、虫みたいな動きのゴーレム。しかし足の先は人間の手とそっくり。
つまりは六本の長い腕で動き回るゴーレム。その腕は直接頭部に繋がっている。胴体なんてないさの一頭身。めっちゃホラー。
こいつは通称、六足ゴーレム。正式名称、『這って動けるゴーレム太ろう君』。
こんなホラーゲームの登場キャラみたいなのが飛び出してきたのだから、それはもう三人ともビビった。ビビったがしかし冒険者。すぐに対応してゴーレムはボコボコにされた。
具体的に言うならば、驚いた蒼の咄嗟の蹴りで木にぶつかり、その直後に伽代に左の側の腕を二本切り飛ばされ、バランスが悪く動けないところで姫羅の鉈により残りの腕も切り飛ばされた。
そうして移動方法を失った六足ゴーレムは、三人に蹴りつけられて光となった。ビビらされた恨みによって、それはもう激しく蹴られた。
中層でもそこそこ珍しいモンスターだったが、いかんせん見た目のインパクトが強い。
その見た目以上に動きがヤバい。揺れるようにカサカサと動く様は、ホラージャンルへの適性がバカ高。中層に出るモンスターとしてその見た目は知っていたものの、いざ見たらビビってしまうくらいにはホラージャンル二重丸。姫羅にいたっては、別に初見でもないのにビビってしまった。
蒼は、夢に出てきそうだと心配になった。今のが出てきたら悪夢の確定演出。今の出来事を忘れられるように、楽しい思い出をいっぱい作ろうと決心するのだった。
六足ゴーレムを倒して、次に出会ったモンスターも倒して、冒険を続けていく。
適度に景色を楽しみつつ、適度に戦闘を挟みつつ。連携はまだ上手くいかない。
あっという間に時間は過ぎて、お昼ご飯の時間。
食べるのはコンビニで買ったパン。晩御飯がバーベキューなので、お昼は軽く済ませる。と言っても冒険者の食欲は通常以上。
三人は木陰に身を休め、思い思いのパンに食らいつく。
§
楽しい時間があっという間なのは昼食前後で変わらない。
ついさっきお昼ご飯を食べたような気もするが、しかししっかりと時間は経っている。
流されるがままにキャンプの準備を始める蒼。
姫羅と伽代は、マジックバッグから道具を出したり食べ物を出したり、そういう準備をしている。
二人のマジックバッグはそこまで口が大きくなくて、同時に複数の腕を突っ込むのは少し厳しい。姫羅の方のマジックバッグであれば、蒼の細腕を捩じ込むことはできそう。ただ捩じ込んだ所で邪魔にしかならない。
やることもなく、他の二人からの指示もないので、自分で判断して行動。とにかく燃やせそうな枝を探す。
少し離れたところに、持ちやすそうな枝を見つける。
程よい長さで、振り回しやすい。
蒼は、こいつをエダスカリバーと名付けた。
エダスカリバーを掲げ、木々の合間を歩く。
良さげな枝を見つけては小脇に抱える。
今右手で振り回している棒にはエダスカリバーという名前があるのに、最初の頃から使っていたナイフには名前がない。それが枝を集めている最中に気になった。
あまり適当には決めたくないから、じっくりと考える。
考える間にも枝は集めていて、結局名前が決まるよりも先に両手で抱えられる枝の量に限界が来た。キャンプ地に戻る。
準備をあらかた終えていた二人に、蒼はしこたま怒られた。
勝手にいなくなったのだから、さもありなん。
しかしどうだと両手の枝を見せびらかす。
どっちにしろ火にくべる薪は必要で、自身はそれを先回りして集めてきたのだぞ。そんな気持ちを丁寧に込めた。
そんな気持ちは、姫羅が取り出した炭の前に消えた。
ハムスターの回し車くらいの空回り。そっと端で縮こまる。
姫羅と伽代はなんか居たたまれなくなって、そっとコンロに火をつけた。
火をじっと眺めていると、心が落ち着いてくる。二人はしばらく眺め続けた。蒼もすすすと近づいて、三人そろって眺め続けた。
火を眺めるというのはキャンプっぽくて良いが、いかんせん回りが明るすぎる。
午後八時を回ったはずだが、周囲は一向に真昼間。ダンジョン内に日没なんてないから仕方ない。
風情は無いが雰囲気はある。仲間と火を囲む。いいじゃないか。
こういうのでいいんだよ、こういうので。心の中で訳知りおじさんを発露させる蒼。人生初めてのキャンプに少し心躍らせている様子。心の中のおじさんも踊り出す。
火に勢いがついた。
そろそろ良いだろうと、伽代が肉を焼き始めた。
それだけじゃダメだろうと、姫羅が野菜を網に投げ入れた。
蒼は二人を眺めていた。
バーベキューを始めよう。
三人、火を囲んで同じ飯を食らうのだ。




