50話:ぼっちの交友関係
時が過ぎ去るのは早いもので、気付けば夏休みが目と鼻の先。
時の流れが今までと違う。
それはダンジョンに潜るようになったからだと蒼は考えた。
冒険者になって、毎週末ダンジョンに行く。仲間もできた。早く過ぎるように感じるのは仕方のないこと。
夏は海にでも行っちゃおうか。
来る夏休み。その過ごし方に悩みつつ、予定が埋まっていく予感に頬を緩める。
余談だが、せっかく買った予定帳は使われることなく放置されている。
いちいちペンで書き込むのが面倒くさかった故。スマホのカレンダーアプリの方が便利なのだ。
授業が終わり、夏休みの予定を伽代に相談しようと座席から立——とうとした時、自身が取ろうとした行動に唖然とした。
こっそり周囲のクラスメイトを見渡すと、みんな近くの席の子と話している。夏休みどこに行こうかなんて言っちゃって、夏休み目前に浮かれまくっている。
それもそのはず、今はただの授業の合間。たいして長くない休み時間。それなのにわざわざ隣のクラスに行く方がレア。
蒼が取ろうとした行動はどうだろうか。
短い休み時間、クラスメイトとの交流もなく隣のクラスに直行。それはまるでぼっちの所業。クラスに友達がいないと言っているようなもの。
もちろん教室から出て行った生徒もいる。しかし、彼女たちはクラスメイトと二言三言喋ってから出て行った。蒼との違い、それはクラスメイトとの交流の有無。
蒼はクラスに友達がいなかった——。
もう一度言おう。
蒼はクラスに友達がいn——(((c=(゜ロ゜;q
脳内で好き勝手言っていた謎の声を、脳内でぶちのめす。鬼の形相、右ストレート。
しかし、さすが取り繕うことにかけては右に出る者はいない女。表情筋は完璧にコントロール。ちょっと微笑んじゃったりして、クール美少女のていを崩さない。
声だけの存在に、必殺パンチを繰り返す。
そんな彼女の脳内を知らず、じっとりと蒼を見つめる少女がいた。隣の席の稲村である。
立てた本と長い前髪。視線を隠す二重の壁で、蒼は見られていることに気付かない。
見つめる理由はただ一つ。
夏休みに遊びませんかと誘うため。
勇気を出していざ——。
立ち上がって声をかけようとした稲村を、休み時間終了のチャイムが止める。
次の休み時間、いや昼休みにでも声をかけよう。
そう考えて授業に意識を向ける。
後回しにする技術は、蒼と同じくらい上手かった。
§
さあ声かけよう、いざ誘おう。
昼休みになって勇気を振り絞った稲村。しかしすでに蒼の姿は教室内にはない。
あれえ?
おかしいなと立ち上がって教室内を見渡す。
楽しそうにお喋りして、お弁当をつつくJKしかいない。
一人凛としてご飯を食べる、高嶺のあの子は一体何処に。
高嶺のあの子は、弁当抱えて隣のクラスの扉の前。
伽代のクラスの目の前までやってきた蒼は、扉に手をかけたまま固まっていた。
ここにいる理由は明白。夏休みの予定を埋めるため。また『蒼からご飯のお誘いをする』という、いつかの約束を果たすため。
しかし、扉に手をかけ少し開け、中を見たまま固まってしまった。中ではクラスメイトに囲まれて、楽しく食事中の伽代がいる。
私には伽代ちゃんがいるもん。
そう思って友達のいない教室からやって来たが、その伽代ちゃんには蒼以外もいた模様。
もとより伽代がぼっちだとは思っていなかった蒼だが、いざ目の前で自分との差を見せつけられると落ち込んだ。
お友達に囲まれて楽しそうな伽代と、ぼっちに耐えられず隣のクラスまで来た蒼。
これがコミュ力の差。圧倒的な差。
見せつけられた少女は、扉に背を向け歩き出す。
クラスメイトに囲まれている伽代に声をかける勇気はない。かといって、手付かずの弁当をぶら下げて教室に帰る勇気もない。
誰もいない場所を求めて歩く。
体育館裏に空き教室、どこも人がいて蒼が一人になれる場所はない。
トイレを横切った時、一瞬だけ考える。しかし即座に却下する。トイレの個室は落ち着くけれど、流石に食事はちょっと嫌。
そうして辿り着いたのは屋上前の踊り場。
施錠された扉の前にやって来る人間はほぼいない。
弁当をつつく蒼だけ。ひとり寂しく食べるだけ。
窓から差した陽光が、そっと蒼に寄り添った。




