46話:姫羅パーティ組んだってよ
この前は勝手に下層に行って、大怪我して帰ってきた。
その前はダンジョン内で昼寝して、大怪我して帰ってきた。
さらにその前は、特に理由もなく高所から飛び降りて両足骨折。近くを通りがかった冒険者に背負われて帰ってきた。
そして今回の『ドラゴンをソリに変えて滑り降りていたら下層まで行きそうになったので年下の少女たちに助けてもらった』という話である。
正直何を言っているのか分からないが、怒らないといけないということだけは分かる。
受付嬢の目代は、いつもの丸眼鏡をしきりといじりながら、どうやって怒ろうかと悩んでいた。
怒らないといけないということは分かっている。しかし目の前の租曽根姫羅の行為をちょっと理解できていないので、どのように怒ればいいのか分からなかった。
「とにかく! パーティを組みなさい。それまでダンジョンに入ることは認めません。知り合いの受付嬢にも言って回りますからね!」
仕方ないので、姫羅のことは将来彼女の仲間になるであろう人たちに丸投げした。
目代という受付嬢には、姫羅という子はちょっとキャパオーバーだった。
§
「というわけでパーティ入れてくんない?」
馴染みの受付嬢にああまで言われ、仕方ないとパーティを組むことに決めた姫羅。翌日から行動を始めた。
ゴブリンダンジョンの受付で受付嬢とお喋りしながら二人を待っていた姫羅は現在、ダンジョンから帰ってきた蒼と伽代の二人に声をかけていた。
「嫌です。他を当たってください」
伽代は即答だった。
見るからに爆弾要素。こんな狂人とはあまり関わりたくない。
「他の知り合いは全部断られたんだよ。頼むよぉ」
やはり爆弾要素。他パーティからの評価がそれを表している。
絶対に嫌だ。伽代の表情が物語る。
「蒼はどう思う?」
「私は、一緒にパーティ組めたら楽しそう……だと思う」
伽代の攻略を諦めて、蒼から崩しに行く。すでに蒼は半壊状態。姫羅優勢。ほぼ官軍。
顔を顰めて蒼を思い止まらせようとする伽代。しかしすでに脳内で三人パーティを思い描いている蒼には届かない。
それでもイヤイヤ。
絶対に認めてなるかと。蒼ちゃんが取られるかもしれないと。
「まあまあ。そこまで嫌だというなら、仕方がないからパーティ内で多数決で決めようじゃないか」
整った顔でフッと笑い、前髪をかきあげる仕草。伽代は確信した。
やっぱりコイツ嫌い。
「じゃあまず、ボクが参加することに反対の人」
とてつもない速さで伽代が手を上げる。殴ったとかではなく、意志表示として。
もちろんその場で上げているのは伽代一人。
パーティは二人で、その二人の意見が対立しているのだから多数決で決まるわけがない。
なんだこの茶番はと呆れていた伽代は、姫羅が蒼に何か耳打ちするのを見逃した。
「じゃあ賛成の人」
二人の手が上がる。
蒼と、姫羅。
「それはおかしい。まだパーティ入ってないだろお前」
ついつい声を荒げてしまう。
だって、それはダメじゃん。ズルじゃん。
「まだ? じゃあこれからパーティに入れてくれるってことでOK?」
「そんな訳ない。認めない」
首をこれでもかと振る伽代。
それを待ってたとばかりの姫羅。蒼の肩を掴んで前に出す。
「見なよ。伽代がそんなに嫌がるから蒼が泣き出しちゃった」
蒼の目元には薄っすらと涙が滲んでいる。
そんなものを見た伽代は大慌て。コミカルに見えるほど、慌てふためく。
「ほらほら、蒼が泣いちゃっt——」
蒼をずんずんと伽代に近づけていく。伽代はアワアワを加速させる。その時、蒼の手から何かが落ちた。
カラカラと音を立てて地面に転がる目薬。四角形のケースがコマのように回る。
がっつりと突き刺さる伽代の視線。
姫羅は堂々と目薬を拾い、自身の目に差す。
「ボクも泣いちゃったよ」
「なんでそれで誤魔化せると思ったん?」
伽代の蹴りが脛を打つ。
結構なマジ蹴りで、本当に涙が出てきそう。
目薬をそのまま自身のポケットに突っ込んだところから、姫羅が持っていた目薬を蒼に渡したのだと伽代は理解した。
もう一度蹴っておく。
絶対に姫羅の加入を認めない。
伽代はそう決意した。
結局、蒼の泣き落としに負けてしまったわけだが。
両目から涙をこれでもかと流す蒼を見て、今度こそ本当に泣かせてしまったと慌てたのが主な敗因。
なお、確かに目薬は姫羅に回収されていたが、ちょうど蒼も自分の目薬を持っていた。そのことを伽代は知らない。
ひとつ悪知恵を身に付けた。
§
一部の冒険者たちの間で、衝撃のニュースが広がった。
あの姫羅がパーティを組んだというのだ。
命知らずの奇人で知られている姫羅。多くの冒険者は、彼女についていける人はいないと考えていた。
だからこそ、このニュースは風のように駆け抜けた。
ダンジョンが民間に開放されて最初の頃は彼女のような命知らずは多くいたが、今となっては少数派。
姫羅は悪い意味で目立っていた。
命知らずが多くいた頃。生還率の低さに頭を悩ませた国は、冒険者試験に筆記項目を追加した。
それまでは市民館や学校などで講習を受けるだけで良かったのだが、筆記試験がその代わりとなったのだ。このお陰でダンジョンに入るのに勉強が必要になって何も考えずに潜る人間は減った。
生還してこなかったことも理由の一つとして、現在の冒険者には命知らずが少ないのである。
一応、講習は高難易度のテストを設けることで、形と名前を変えて今でも残っている。




