44話:レベルアップ!
「ごめんなさい……」
蒼が姫羅に襲われていると誤解して襲い掛かってしまった伽代。本気の反省の正座。
急いで伽代の誤解を解いて蒼の服を脱がせ、近くの川で蒼の背中と自身の手を水で洗う。そんな苦労をした姫羅は一息つく。
冷たい水で流したら痛みが引いていき、今は草むらの上でゴロゴロしている蒼。
三者三様。
一人は反省、一人は休憩。一人はゴロゴロ。
姫羅が持っていた布をかぶっているとはいえ、今の蒼は上裸である。
なんというか開放感。
リラックスとかデトックス、もしくはロクセ・ファランクス。蒼はすやすや夢の世界へ。
§
ダンジョンで半裸睡眠中の蒼。舐めきった行動だが、横に二人もいるので問題ない。
「突撃ー! むにゃむにゃ」
よく分からない寝言を口走る蒼を起こす。
二人によって左右から揺られ、ようやく現実に引き戻される。
目を覚ました蒼は、自分の体の変化に驚く。
肩から翼でも生えているかのように体が軽い。その場でバク転、バク宙。本当に体の調子が良い。
アルティメットなんとかから翼を引きちぎったから、その分蒼に翼が生えたということだろうか。それとも毒を浴びたおかげで体の調子が整ったとかだろうか。もう一度くらい浴びてもいいかもしれない。
もう一度くらい浴びてもいいかなと思っていると、伽代と姫羅の二人に呼び止められる。
二人とも起きたら急に動き出した蒼を見て困惑している。このままでは変人のレッテルを貼られてしまうので、さっさと言い訳をする。
「なんか体の調子が良くてね。体が今まで以上に動くの」
「さっきまで寝てたし、レベルアップでもしたんじゃない?」
姫羅の言葉に蒼はなるほど。
寝る子は育つ。
モンスターを十分に倒して睡眠に入ると、スキルや身体能力向上というダンジョンの恩恵を受けれる。
よくモンスターを倒し、よく寝る。そして強くなる。それが今の冒険者のスタンダード。
言われてみると、冒険者になりたての頃に経験した感じ。
そういえば最近は全然なかったなとも思う。それは、伽代と一緒に潜ることによって戦闘の機会が減ったからなのか、強くなるにつれて成長率が下がるとかがあるのか、理由は分からない。
それよりも今は自身の成長を実感できてテンションバカ高。
駆け回る蒼と、呆れた様子で眺める二人。
伽代と姫羅の心が通じ合った瞬間である。
——心配してたのに。人の気持ちも知らないで。
なんとなく二人は顔を見合わせて、ほどけるように笑った。
二人の仲が深まったかと思いきや、伽代は蒼を見て思い直す。
これは多分、姫羅の悪い影響だと。
「服着て! 服ッ!」
乾かしていた、服を持って追いかける。
そんな二人を見て、姫羅は楽しそうに笑った。
§
その晩、蒼はニヤニヤが止まらなかった。
弟の翠は、嫌な予感がしたので姉に関わらないことを決めた。
やはり成長。成長を実感できた時、人のモチベーションは上がる。
今の蒼は昨日よりも成長した蒼。ポジティブな様子は、毒を浴びた人のそれではない。
テンションの高まりに従いベッドにダイブ。ばいーんと跳ねて、ゴロゴロと転がる。
はたと止まって立ち返る。
レベルアップをしたらしい。ここまではいい。
レベルアップの恩恵は圧倒的に調子の良い体。これも、まあいい。
スキルは?
目を閉じて「んー!」と念じる。ふわふわ~と、転移というスキルを持っていると浮かんでくる。
スキル手に入ってないじゃん。
蒼のテンションは下がった。ついでにモチベーションも下がった。
ぜんぜんファンタジーじゃない。と、思った蒼はふて寝する。
スキルが手に入らないことに落ち込んでいる蒼。しかし、掛け布団に隠された口元は、少しだけ笑みを浮かべていた。
身体能力の向上だけでも少しは嬉しいのだ。




