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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第三章 冒険者の分かれ道

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44話:レベルアップ!

「ごめんなさい……」


 蒼が姫羅に襲われていると誤解して襲い掛かってしまった伽代。本気の反省の正座。


 急いで伽代の誤解を解いて蒼の服を脱がせ、近くの川で蒼の背中と自身の手を水で洗う。そんな苦労をした姫羅は一息つく。


 冷たい水で流したら痛みが引いていき、今は草むらの上でゴロゴロしている蒼。


 三者三様。

 一人は反省、一人は休憩。一人はゴロゴロ。


 姫羅が持っていた布をかぶっているとはいえ、今の蒼は上裸である。

 なんというか開放感。

 リラックスとかデトックス、もしくはロクセ・ファランクス。蒼はすやすや夢の世界へ。



 §



 ダンジョンで半裸睡眠中の蒼。舐めきった行動だが、横に二人もいるので問題ない。


「突撃ー! むにゃむにゃ」


 よく分からない寝言を口走る蒼を起こす。

 二人によって左右から揺られ、ようやく現実に引き戻される。


 目を覚ました蒼は、自分の体の変化に驚く。

 肩から翼でも生えているかのように体が軽い。その場でバク転、バク宙。本当に体の調子が良い。

 アルティメットなんとかから翼を引きちぎったから、その分蒼に翼が生えたということだろうか。それとも毒を浴びたおかげで体の調子が整ったとかだろうか。もう一度くらい浴びてもいいかもしれない。


 もう一度くらい浴びてもいいかなと思っていると、伽代と姫羅の二人に呼び止められる。

 二人とも起きたら急に動き出した蒼を見て困惑している。このままでは変人のレッテルを貼られてしまうので、さっさと言い訳をする。


「なんか体の調子が良くてね。体が今まで以上に動くの」

「さっきまで寝てたし、レベルアップでもしたんじゃない?」


 姫羅の言葉に蒼はなるほど。


 寝る子は育つ。

 モンスターを十分に倒して睡眠に入ると、スキルや身体能力向上というダンジョンの恩恵を受けれる。


 よくモンスターを倒し、よく寝る。そして強くなる。それが今の冒険者のスタンダード。


 言われてみると、冒険者になりたての頃に経験した感じ。

 そういえば最近は全然なかったなとも思う。それは、伽代と一緒に潜ることによって戦闘の機会が減ったからなのか、強くなるにつれて成長率が下がるとかがあるのか、理由は分からない。

 それよりも今は自身の成長を実感できてテンションバカ高。


 駆け回る蒼と、呆れた様子で眺める二人。

 伽代と姫羅の心が通じ合った瞬間である。


 ——心配してたのに。人の気持ちも知らないで。


 なんとなく二人は顔を見合わせて、ほどけるように笑った。


 二人の仲が深まったかと思いきや、伽代は蒼を見て思い直す。

 これは多分、姫羅の悪い影響だと。


「服着て! 服ッ!」


 乾かしていた、服を持って追いかける。

 そんな二人を見て、姫羅は楽しそうに笑った。



 §



 その晩、蒼はニヤニヤが止まらなかった。

 弟の翠は、嫌な予感がしたので姉に関わらないことを決めた。


 やはり成長。成長を実感できた時、人のモチベーションは上がる。

 今の蒼は昨日よりも成長した蒼。ポジティブな様子は、毒を浴びた人のそれではない。


 テンションの高まりに従いベッドにダイブ。ばいーんと跳ねて、ゴロゴロと転がる。


 はたと止まって立ち返る。

 レベルアップをしたらしい。ここまではいい。

 レベルアップの恩恵は圧倒的に調子の良い体。これも、まあいい。

 スキルは?


 目を閉じて「んー!」と念じる。ふわふわ~と、転移というスキルを持っていると浮かんでくる。

 スキル手に入ってないじゃん。


 蒼のテンションは下がった。ついでにモチベーションも下がった。



 ぜんぜんファンタジーじゃない。と、思った蒼はふて寝する。

 スキルが手に入らないことに落ち込んでいる蒼。しかし、掛け布団に隠された口元は、少しだけ笑みを浮かべていた。

 身体能力の向上だけでも少しは嬉しいのだ。

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