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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第三章 冒険者の分かれ道

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39話:お礼にしては

 租曽根姫羅(そぞね きあら)からお礼の品とやらが届いた。

 姫羅とは昨日のアマゾネスさんのことだ。苗字は租曽根というのか。

 昨日の今日で早いことだと思う。無事帰還できたみたいで一安心。


 下層に行ってみたと言っていたことから、相当ダンジョンに潜っている人に違いない。そんな人のお礼の品、蒼は少し楽しみにしていた。


「だいぶ太っ腹ね。ほんとに」


 倉庫からお礼の品を持ってきた飯島が呟いた。

 蒼は早くその紙袋の中身を見せてほしくてたまらない。伽代はそこまで興味がなさそう。


 まず飯島が紙袋から取り出したのはポーション。蒼たちが姫羅に対して使用したものと同じで、1本2本と出てくる。


 伽代がようやく興味を示したのは、3本目のポーションが出てきたときだった。


「元が取れたね」


 今日の伽代は少しいつもと違う感じがする。昨日の姫羅との出会いが何か影響しているのだろうか。

 いつもの伽代であれば、元が取れるかどうとかを考えるような子ではない。蒼の装備を買ってくれた時だってそうだった。

 かつての自身の愚行が蒼に襲い掛かってきて、胃が痛くなってきたのでこのことは忘れる。


 ポーションが4本目、ポーションが5本目。


「多くない? こんなに貰えないんだけど」


 いつもと少し違った伽代もこれには少し素に戻ってしまい、『あの人大丈夫かなぁ?』と姫羅を心配し始める。


 結局紙袋から現れたポーションは6本。蒼はお腹いっぱいである。

 痛くなったりいっぱいになったりと、蒼のお腹は忙しい。伽代も同じようで、二人して顔を見合わせていた。


「じゃじゃーん! 最後の一つが一番高価よ」


 急に手袋を付けた飯島。もはややけくそに近い精神状態になった彼女が取り出したのは小さな肩掛けポーチ。


 濡れた質感のヌメ革が、光を捉えて離さない。それだけでも普通のポーチと違うと感じる。

 しかし、眺めているとそれだけでないことに気が付く。アンティークゴールドの金具、こちらは光を転がす。角度が変わっているわけでもないのに、コロコロと光の当たり方が移り変わる。

 明らかにダンジョン産のアイテムであると、伽代の審美眼が伝えていた。蒼にそんな眼はなかった。


「やけに高そうなものが出てきましたね」

「そうかな? ロゴとか入ってないよ?」


 高いものは大体ブランド。大量のアルファベットは価値の証明。

 鞄なんてそんなものだと考えていた蒼。ブランドの"ブ"の字もなく、ブどころか文字が一切入っていない鞄を見て、それが高価なものだとは思わなかった。

 伽代だってそれがダンジョン産であろうことしか分からず、具体的にどのような物なのかは説明できない。

 小さな鞄の高価な理由、この場でそれを知っている人物が一人だけいる。


「これ、マジックバックで……うわ、ちゃんと証明書付きだ。『肩掛け鞄型5.5L』、容量は小さめだけれどその分バック自体のサイズも小さい、と」


 マジックバック、見た目と中身の容量が異なる鞄。


 大容量なら兎も角、5Lならそこまで高くはならないんじゃないかと蒼は思う。ポーション6本の240万円分に勝てるとは思えない。


「バック自体が小さい分口も小さいので、そこまで高値にはならないかもしれませんね。2000万止まりじゃないでしょうか」

「私もそのくらいだと思うな。それでも十分高価だけれど」


 蒼のあずかり知らないところで話が進んでいく。


「こんなに貰ってばかりだと申し訳ないので今度租曽根さんにお菓子でも持っていくことにします」

「そうした方がいいよ。さすがにこれは……」


 菓子折りの話なんてしちゃっている。

 蒼としてはそんなことよりも聞き逃せない点があった。


「2000万円は盛りすぎじゃない? ただの小さい鞄だよ? 中身だって5L……1Lペットボトル5本しか入らないんだよ?」


 1Lペットボトルがどのくらいの大きさなのか良くわからないので容量のイメージはできていないが、この小さい鞄に5本入るのがすごいとしても2000万円は言い過ぎである。

 過剰に持ち上げられた鞄、その光沢に煽られているように感じる。ムカつくのでペシペシと叩く。

 この小さな鞄に2000万円はないって! そう気持ちを込めて念入りに叩いておく。


「蒼ちゃん、価格は需要と供給で決まるんだよ。このバックはそこまで大きい方ではないけれど、欲しい人はいっぱいいるから高価なんだよ」


 伽代は蒼に説明を試みる。


「そんなにレアなの?」


 見た目以上に物が入るマジックバック、そこまで珍しいアイテムではない。また、それなりに保持者のいるアイテムボックスというスキルと効果が被っている。アイテムボックスに関してはそもそも異空間にしまうスキルなのでマジックバックはその下位互換とも言える。

 こうしてみるとそこまで高価なアイテムではなさそう。


「そこまでレアじゃないけど市場に出回らないからねぇ」


 伽代の援護に飯島だ。


 ダンジョンから産出されるマジックバック、勿論手に入れるのはダンジョンで活動している冒険者だ。冒険者でない者がダンジョン産の何かを手に入れるためには、冒険者から直接買い取るかオークションに出品されたものを競り落とす他ない。


 冒険者がダンジョンに潜る際、荷物が嵩張って仕方ない。

 武器に防具、ポーションやダンジョンの戦利品。行きも帰りも荷物が多いのが、中層より下に潜る冒険者たち。

 そんな冒険者をお助けする便利アイテムがマジックバック。品質はピンキリだが、そんなお助けアイテムによって冒険者たちは助けられている。要するに手に入れた人間がそのまま使うのだ。めったに市場に出回らない。


「それって別に容量の大きいバック一つあれば十分なんじゃないですか? 二個も三個も身につけていたら戦いにくそうだし」


 納得できなかったのでバックをぺしぺしと叩いておく。


「より深い層に潜る冒険者ほど、”高温に耐性がある装備”だとか”毒を無効化するアイテム”だとかの複数の装備を持ち運んでいるからね。少しでも容量は増やしたいんよ」


 それにマジックバックの価値を高める理由は他にもある。


 マジックバックにはバックその物の重さだけが反映され、中に入っている物体の重さは何処かへ消えてしまう。

 25Lの純金を持ち運ぶのも、バックがあれば楽々だ。言ってしまえば、外見の容量と中身の容量が同じであったとしても、マジックバックであるという時点で価値を見出すことができる。スキルのアイテムボックスも同じ特性を持つ。


 マジックバックは、その口を通り容量が許すのであれば、どんな物質でも入る。個体に液体、気体にマジックバックまで。

 バックの中にバックを入れて、実質無限に容量を増やすことができる。その分取り出す手間は増えるが。これはアイテムボックスではできない、マジックバックの利点だ。アイテムボックスで確保できる空間は一つであり、その中にマジックバックは入らない。


「複数持っていても嵩張らないし、持ってるだけで便利だから普通は手放さないんだよね。一度手放したら次にいつ手に入るか分からないし」

「市場に流れてきても物流会社が高値で入札しますからね」

「冒険者以上にマジックバックに飢えてるね」


 伽代と飯島は二人で会話を始めてしまった。

 知識のない蒼は参加できない。物流会社云々なんて、一体いつ知るタイミングがあるというのだろうか。

 一人疎外感を感じつつ、仕方がないのでバックを撫でておく。心頭滅却、優しくスリスリ。



 疎外感はMAX、バックの撫で方がプロの域に達した頃。二人の会話は落ち着いたらしい。


「蒼ちゃんがマジックバック気に入ったみたいで良かった」


 スリスリ。なでなで。


「それは蒼ちゃんが使っていいからね」


 スリスリ……スリッ!? スリスリスリ?


「いいよいいよ。私は別に使わないから」


 スリ! スリスリスリ。

 仲良くお話しする二人。蒼の疎外感は段々と解消されていく。

 その場についていけない者が一人。飯島は、この状況を理解できていなかった。


「なんで意思疎通できてるの? 蒼ちゃんは何も喋ってないじゃん」


 スリスリ?


「まあ私たちくらいの付き合いになると、言葉なんて些細な問題ですから」

「パーティ組んでからまだ1ヶ月ぐらいだよね?」

「友情に時間は関係ありませんから。だよね、蒼ちゃん」


 スリスリ。じゃなくて。

 これは言葉にすることに意味がある。伽代に甘えず口にする。


「うんっ。伽代ちゃんは一番の親友だもん」


 そこまで言ってくれた! 一番の親友officialの伽代は感激。すぐに抱き着く。

 勇気を出して”親友”と言葉にしたので、蒼の足は緊張感でちょっと震えてる。震えを収めようとするのと抱き着いてきた伽代を支えようとするの、両方の理由から足に力を入れる。


「ああ、うん。まあいいんだけどさ」


 適当に流すことにした飯島。『今日はこのままダンジョンに潜るんだよね?』そう言っていつもの手続きを進める。

 その隣で、蒼は伽代にマジックバックを使うように説得し始めた。


「やっぱりこれは伽代ちゃんが使うべきだと思うんだ」


 蒼が撫でに撫でを重ね、若干艶が増したように見える小さなポーチ。どうにかしてこれを伽代のものにしたい。ぜひ伽代に使ってほしい。

 これは親切心とか譲り合いの心とかではなく、純粋にそんな高価なものを持ち歩きたくないからだ。無くした時を想像するだけで恐い。しかも贈り物である。所有権と責任の所在を自身から離したいのだ。

 しかし伽代は頑なに首を縦に振らない。


 どのようにして説得しようか考えていたところ、手続きをさっさと終えた飯島が伽代の薙刀を持ってきた。

 ナイフとは異なり持ち運ぶのが大変な薙刀は、いつも組合に預けている。まあそんなことはどうでもよく、今手元にあるバックの所有権をどうにかして伽代に——。

 蒼に電流走る。


「このバック、薙刀しまうのにピッタリじゃない?」


 小さい口の鞄と細長い薙刀、トマトとチーズのようなベストマッチ。少なくとも蒼にはそう見えた。

 レッツ実演。薙刀を受け取り、バックに入れる。入れにくい。狭い口に長いものを入れるのは、思った以上に難しかった。

 しかしそれでも意地で入れ、バックごと伽代に手渡す。


「これで伽代ちゃんも武器を持ち歩けるね!」


 蒼は勝利を確信。

 ここまでベストマッチな組み合わせなのだ、伽代とて受け取ってくれるだろうとの確信だった。無性にマルゲリータが食べたくなりつつも、受け取る意思を示した伽代に一安心。


「そうだね。武器の登録自体はしてるし、これからは持ち歩こうかな。ありがたく使わせてもらうね、ありがとう蒼ちゃん」

「それを贈ってきたのは租曽根さんなんだけどね?」


 飯島の一言は流す。そしてそのまま『いってきます』とダンジョンに向かう。


 昨今の武器携帯ブーム。

 ダンジョン発生当時のモンスターが地上に現れるという考えが発端となり、今となってはただのファッションである。


「今時女子高生だって武器を持ち歩く時代だからねッ」


 蒼は心配事がなくなって一安心。肩が軽くなった。


「まあ登録さえしていれば誰でも持ち歩けるからね。もはやファッションだよ。実際にその武器で戦える人はどのくらいいるんだろう」


 うんうんそうだね。

 肩軽くなりし蒼、少し突っかかりを覚える。


「登録って何?」

「武器を持ち歩くための登録だよ。蒼ちゃんもしてるでしょ?」


 ……。……。

 …………?

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