35話:宝箱
ラッキーだからラッキーガールなのか、ラッキーガールだからラッキーなのか。
伽代は『焼き鳥だから鳥を焼くのか、鳥を焼くから焼き鳥なのか』というような、考える意味のない思考が渦巻いていた。
脳内では、「わはは」と笑う蒼が焼き鳥と共にリンボーダンスを踊っている。伽代はぼんじりが好きだ。
そんな伽代の脳内を知らずに、一人蒼は喜んでいる。困惑とか不安を感じている伽代の方が正常なこの場において、蒼は最高に蒼であった。
基本的にダンジョン中層より下ではレアドロップという現象が発生し、武器や防具、ポーションなどが手に入る。
アイテムドロップよりもレア度の低いレアドロップだが、それでも非常に珍しい。特に宝箱と共に現れるトレジャードロップはそこそこレアで、下層を数か月間回って見つかればいいと言われているくらいだ。
伽代の目の前には、ゴブリンダンジョンのボスからアイテムドロップでポーションを手に入れた少女がいる。
その少女がバシバシと笑顔で叩いている宝箱がある。
本物のラッキーガールだ。
おそらくコツはありがたがらないこと。
目の前の少女は驚きもせずに「宝箱だ!」と喜んでいた。きっとそんなだから、幸運の女神がなんとか驚かそうとしているに違いない。
§
中層のモンスターと戦ってみて十分通用しそうだと感じたので、今日のところは帰宅しようと来た道を戻っていた時だった。
てててっと急に走り出した蒼を視線で追うと、その先にはうすらぼけた宝箱があった。慌てて目をこすってみたが変わらずそこにいて、蒼の「宝箱だ!」の声で自身の脳が作り出した幻でないことを理解した。
しばらく経って放心状態から抜け出した伽代を、蒼は宝箱を開けずに待っていた。
「何が入ってるのかな?」
楽しみで仕方ないといった様子で喋る蒼。
テンションが上がると少しおしゃべりになるのだと、新しく蒼のことを知れた伽代。
ふたりで手をかけ、開ける。
ダンジョンから手に入る物品の中で最もメジャーなもの。それがポーション。
宝箱の中にはポーションが4本入っていた。蒼は2本ずつということで伽代に2本渡す。
ポーションは4本あり、この場には二人いる。単純な計算で一人4本になると分かるが、待ったをかけたのは伽代だった。
「私ポーションは1本持ってるんだよね。だから蒼ちゃんが3本持っておいて」
何かあったときのためにと、伽代の両親が買い与えたポーション。それがあるから大丈夫と、ポーションを受け取らなかった。
伽代は衝撃吸収のスキルによって怪我をしない。それも伽代が断った理由の一つだった。
「このポーションはパーティの共用資産だよね。4本のポーションは二人のものだから、一人2本ずつ持とう。伽代ちゃんが怪我をしたら私が使う。私が怪我をしたら伽代ちゃんが使って」
手に入れたものは二人で均等に分ける。それが蒼なりの仲間とのルールなのだと知った。自分と蒼、どちらかが貰い過ぎるのではなく平等に分けようと。それは伽代が理想とする仲間との関係で、伽代は嬉しくなった。
そしてなにより、怪我をした相手を仲間が自身の持つポーションで治す、そんな行為にロマンを感じた。ただ、蒼に怪我をして欲しい訳ではないし、自身はスキルによって怪我をすることが無いので憧れのままで終わらせる所存。
感動している伽代に、少し強引に2本のポーションを渡す蒼。その本心は平等とかにはあらず。
完璧に密閉された瓶の中に入った状態でドロップするポーション。瓶を開けた途端に劣化していくので、別の容器に移すことはできない。純粋に割りそうで怖いのだ。だから少しでも持つ数を減らしたい。
蒼は適当なトークで誤魔化せて良かったと思っている。そもそも、それぞれの物として2本ずつ持とうが、共用として2本ずつ持とうが、たいして変わらない。蒼は自分のポーションでも伽代が怪我をしているなら使うし、向こうもそうだろう。
蒼と伽代はそれぞれ自分の鞄にポーションを詰め、出口を目指して歩き出す。
二人はどこか他人事で、いつか使う時が来るかもねと思っていた。
無理もない。基本的にポーションなんて高価なもの、保険として用意する程度で滅多に使わないからだ。
この中にポーションを使ったことのあるやつがいる。
瀕死の相手にポーションを使う機会が、思ったよりも早く来ることをまだ二人は知らない。




