33話:どちらかというとバディ
時は五月二十一日、日曜日。多くの人にとっては普通の日曜日だが、この場の二人にとって、今日は特別な日だった。
場所はゴブリンダンジョンを管理している冒険者組合桜元支部、その受付。蒼と伽代の二人は、一枚の書類を提出した。
正確には、伽代がほとんど記入していて蒼は自身の名前を書いただけ。とにかく、二人は書類を提出した。
蒼の担当の飯島が、書類を読み込み、なんかそれっぽい判子を押す。
今この瞬間から蒼と伽代は正式にパーティを組んだ。背中を預ける仲間になったのである。
これまでと同じように二人でダンジョンに潜ったりするだけなので大して変化はないのだが、伽代は非常に嬉しそうだ。
パーティを組むとパーティ共用の口座が用意され、アイテムドロップやレアドロップ、魔石の売買の際に両者の同意の元、この口座を使用できる。これが数少ない違いである。
伽代はお金に頓着しない。実家が太いので。
蒼もお金に頓着はしない。クール系美少女なので。
まあこの口座もそこまで使うことはないだろう。
正式にパーティも組んで、これからダンジョンに潜ろうかと伽代が言ったところ。
昨日お金を使いすぎて手持ちが二桁円になった少女は、「このお姉さん、いつも受付嬢としてここにいるな」とふと疑問に思い、聞いてみた。
答えはシンプル。ちゃんと休日はあるけれど、偶然鉢合わせているだけ。休みの日は別の受付嬢が対応する。
「受付嬢って比較的自由に休日がとれるの。特にゴブリンダンジョンとかだと一人いれば十分って時もあるから。蒼ちゃんも受付嬢、どう?」
「やめときます」
週に3回、休日を自由に取れるというのは飯島が受付嬢業務に感じているメリットで、それを蒼にも売りにいったがノータイムで拒否される。
蒼には受付嬢とか無理だから。
蒼は、人と会話する受付嬢よりも黙々と作業するような研究職の方が向いていそうだと考えている。そして何より、蒼には白衣が似合う。似合いすぎる。
研究者の方が向いていると飯島に伝えると、彼女は苦虫を嚙み潰したような表情で言った。
「知り合いに一人物理学者がいるけど、ロクな奴じゃないよ。多分研究者みんな似た感じだと思う。やめときな?」
世の物理学者さんに対する酷い偏見である。
偏見をばら撒くがしかし優秀な受付嬢飯島。パパッと作業を終えて、蒼と伽代がダンジョンに潜る準備を整えた。
§
パンチ、貫手、手刀。
バリエーション豊かにゴブリンを抹殺する蒼。
縦斬り、横斬り、突き、薙ぎ払い。
こちらもバリエーション豊かにゴブリンを抹殺する伽代。
蒼が戦うと、ゴブリンが死ぬ。
伽代が戦っても、ゴブリンが死ぬ。
哀れゴブリン。どっちにしろ死ぬ運命。
せっせと魔石を拾っている蒼とは異なり、伽代は魔石にすら興味を持っていない。
蒼と一緒に冒険しているのが心底楽しいという様子で、そこにゴブリンの存在が入り込む余地はないのである。
そうだと呟く伽代。蒼の転移は見せてもらったが、自身のスキルは見せていないことを思い出した。
衝撃吸収は地味なのでやめておく。気配察知も右に同じ。となると一番派手なのは雷属性。
ビリッとやるやつを蒼に見せてあげる。
実験体はもちろんゴブリン。
肉が焼け、しばらくスタン。体が満足に動かせない状態のゴブリンを見て、蒼は目を輝かせる。
ここだけ切り取ったら酷い絵面である。
切り取らなくても、酷いことには変わりない。
ゴブリンが可哀想になってきたので伽代はトドメを刺した。
死にかけのゴブリンだろうが死んだゴブリンだろうが、そこに大して違いは無く、蒼にとってはどうでも良いことだった。
それよりも手からビリって出たことの方が大事。
興奮冷めやらぬといった様子で持ち上げるものだから、伽代も少し調子に乗ってしまって、人力スタンガンによる被害者ゴブリンが増えた。
二人はゴブリンを倒しながらダンジョンを進む。
順調に進んでいるとボス部屋への扉、もとい中層への扉まで来てしまう。中層に入るわけにもいかないので引き返す。
蒼は中層への興味を少しだけだが持っている。
レアドロップやアイテムドロップ、魔石の売買で儲けられないかと。
伽代は蒼以上に興味を持っている。
仲間に背中を預けるというヤツをやってみたいからだ。今の階層だとモンスターが弱すぎる。ただ蒼を危険に晒すわけにもいかないので、冒険はし過ぎない。着実に進めていくつもり。
パーティを組んで二週間後、二人は扉をくぐり中層へと進んだ。
~第二章 完~




