32話:服を選んで着せ替えて
二人は食事を終え、ショッピングを再開。伽代が蒼を引っ張って、ついにアパレルショップへ足を踏み入れる。
年頃の少女がショッピングに来たのだから、意味もなくアパレルショップを回って、やれこっちの方が可愛いやら、やれ値段が高くて買えないやらとするに決まっている。
「この服が……いやこっちも……」
蒼を着せ替えて楽しんでいる伽代は、どうやらどの服が一番似合うか迷っているらしい。
商品のキャスケットを被った蒼の前で、ワンピースとカーディガンを交互に当てている伽代が目を回す。直立不動の蒼はまるでマネキンである。
基本的に蒼は着飾るという習慣を持たない。
なぜなら、着飾るまでもなく自分は超絶美少女だから。自己肯定感青天井が故だった。
母親の時もそうだったが、蒼は着せ替え人形にされている間意識を飛ばしている。じっとしていた方が速く済むと知っているのだ。
伽代がレジで会計をしている間、ようやく蒼は意識を取り戻した。
両手で荷物を抱える伽代に、蒼が手を貸す。
着せ替えてばかりだった気がしたけれど、自身も気に入った商品があったらしい――と蒼は安心した。
自身はファッションとか疎いので、伽代の熱意に応じることはできない。しかし伽代が楽しめたのなら何よりだと思うのであった。
「じゃあ次はあっちのお店ね」
満足していない伽代に連れられ、蒼は別の店へと足を踏み入れる。
そしてもう一度お人形体験。
あっちへと、こっちへと。そうやって様々な店を回る。
様々なジャンルを一通り経験した後、伽代が告げた。
「ちゃんと全部着てね?」
二人が両手に抱えた紙袋、それをさも蒼のものかのように言った伽代と、何を言われたのか分からない蒼。会話にしばし穴が空く。
「プレゼントするからちゃんと全部着てね?」
§
蒼は負けた。根負けである。
よって、二人がかりでようやくといった量の紙袋すべてが蒼のものとなった。
懸賞でも当てた気分だ。ありがたいのだけれども精神的に潰されそう。ここまで物を貰ってしまうと申し訳なさが勝つ。
「できればさ、私の服は蒼ちゃんに選んでもらいたいな」
貰ってばかりのわたくしめにチャンスを!?
貰った分だけ返せると、意気込む蒼。流石に貰った額そのままは厳しそうなので、そこは気持ちで補うつもり。というかそこそこいい値段のしそうなお店のものばかりだから、値段についてはあまり考えたくない。
荷物をコインロッカーに預け、今度は蒼チョイスで店に入る。
蒼が選んだお店はファストファッションブランド。低価格で衣料品からアクセサリーまで揃う、学生たち御用達の店である。
蒼がこの店を選んだ理由は値段ではない。今日の蒼ちゃんはお小遣い二回分とダンジョンでの稼ぎも持った少しリッチな蒼ちゃんなので、そんなセコイことはしない。
他の衣料品店だと服を物色している時に店員さんに声をかけられそうで怖いのだ。多くの場合その声かけはオープン型の質問なので、蒼と相性が悪い。
先程の蒼のようにマネキンになっていれば何ともないが、伽代のように服を選んでいると声をかけて一緒にお探ししてくれる。さっきも楽しそうに伽代を手伝っていた。
この店にはそういう声かけがない。こちらから聞けば対応してくれるので、雑に扱われているということでもない。この店だと店員さんに声をかけられて慌てるという無様を晒さないで済む。
そして何より、このお店には無人レジがある。蒼でも会計ができるのだ!
全国に展開しているこのお店は、蒼が普段愛用している店でもある。
気軽に服が買えて、着心地が良いので大好き。家で着ているもこもこパジャマたちもこのお店で買ったもの。
問題がひとつ。蒼はファッションに詳しくない。
その時、脳裏によぎる一つの希望。
ファッションには詳しくないが、ゲームのキャラクリは結構好きだ。
ゲームの延長線で考えればいいのだと、伽代に似合いそうな服を片っ端からかごに入れていく。
そして伽代を連れて更衣室までやってきた。
選んだ衣服を手渡して、伽代に着替えてもらう。
シンプルにスウェットとデニムパンツ。やはり伽代にはパステルカラーが似合うと、蒼は頷く。
次はデニムをショートに、パーカーをアタッチ。
パーカーは目立つように赤にして、優しい感じの白いスウェットと対照的にする。
蒼ははたと気づく。
人を着せ替えるということがこんなに楽しいことだったとは――。
「次はこっち……」
「じゃあこれを……」
「この柄物を……」
次から次へと持ってきては着せ替えて。
楽しくなってしまって、伽代の着替えが追い付かなくなる程だった。
そうして購入した衣服はかなりのもの。量だけなら伽代よりも断然多い。
ふたりとも沢山の紙袋を抱えて帰路に就く。
§
帰宅した蒼。両手の紙袋に押しつぶされそうだったので救援要請。応答したのは弟の翠。なんだかんだ言って良い子なのだ。
両手に大量の紙袋を抱えた蒼を見て、翠は何を大量に買ったのかと聞く。
「お洋服! 可愛いのだよ――たぶん」
購入した服、リビングに持って行って片付ける。
直接自分の部屋に持っていかないのは、母親の手を借りるため。蒼は服を片付けるのが苦手なので。
「あらあらまあまあ、いっぱい買って帰ってきたね」
お母さんの笑顔は少し引き攣った。
服の片づけを三人で行う。
翠も手伝ってくれる。なんだかんだ言っていい弟なのだ。
蒼はうむうむと首を振る。
厚手のものは畳んで重ねる。
生地が薄かったりシワが付きそうなものは母親に渡す。どうしたらいいか分からないから。
服を持って蒼が言う。
「見てこれ、可愛いでしょ」
「姉さん、あんまセンス良くないよ。この服着たらまるで賢い人みたいに見えちゃう。人には向き不向きってのがあるんだよ」
やれやれといった口調で答える。
それは――普段見てきた姉には似合ってないという――低評価だった。
いつもと同じような軽いジャブ。普段通りであればこのままプロレスが始まるところ。
「…………だもん」
「なんて?」
「……お友達が買ってくれたんだもん!」
いつもよりもしおらしく、拗ねてしまった。
これには翠も母親も慌てる。
「ごめんごめんごめん。売り言葉に買い言葉っていうかさ、つい言っちゃてごめん」
手に持った服を蒼に当てて、必死に慰めようと言葉を紡ぐ翠。
「馬子にも衣裳って言うし、似合ってるよ。似合ってる。ほら見て母さん、見た目は賢そう」




