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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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閑話:ドローイングオートマタ

「ええ!? もうボス倒しちゃったの?」


 教室の昼休み。

 唐突に立ち上がり大声をあげた伽代に注目が集まる。目立つのがあまり得意でない蒼は、少し身を縮める。


 伽代は視線を浴びた事を全く気にせず、蒼の元に戻ってくる。


「早くない?」


 成長速度が普通の冒険者よりも早いんだよ。特別な人間なので!


 ボスを倒したことを自慢したい気持ちもあるが、蒼の考えるクール系美少女はそんなことしないので、蒼もしない。

 何も特別なことはしてませんけど――といった顔の方がカッコいいので、笑顔が出ないように努める。

 溢れそうになるドヤ顔を必死に内へ押しとどめ、平然とした態度で答えた。


「そ、そうかな。まあちょっとくらいは早いかもね。ゴブリンキングはまだ季節じゃないし」


 分かりやすいボロを出してしまったが、これは仕方のないこと。だって蒼自身も「早いよね。自慢できるよね」と考えつつ喋った内容だったから。

 ステルスドヤというやつである。


「ゴブリンキングに季節なんてあるの?」

「あるある。ゴブリンキングって五月の季語なんだよ」

「そうなんだ」


 そうなんだぁ。

 伽代の大声からひっそりと耳を立てていたクラスの面々は、伽代と共に新しい知識を仕入れた。


 蒼としてはどうにか発言の辻褄を合わせようと必死で、嘘だとか本当だとかは二の次になっている。


「それは知らなかった。でも見たところ怪我してないけれど、もしかしてボスを無傷で倒したの?」

「……まあね」


 そうやってカッコつけるから……。



 §



 冒険者においてボスを倒したかどうかは、それなりに重要な意味を持つ。

 ボスの討伐は中層へのチケットを手に入れるようなもの。

 蒼がボスに挑む時に通った扉。ボスを倒した人間が、中層へ行くという意思を持ってボス部屋へと通じていた扉を開いたとき、扉はボス部屋でなく中層に繋がるのだ。

 一度ボスを倒した人間は、ボスをスキップできる。すべてのダンジョンで。



 ダンジョンは同行者を許容する。

 一度開けた扉は閉じるまで中層に繋がり続ける。パーティでダンジョンに潜るなら、パーティ内の誰か一人がボスを倒していればいいのだ。


 しかし、そうではないだろう。

 仲間というのは対等な存在なのだ。後ろをついていくだけなんて、RPGじゃないんだから。

 仲間には背中を預ける。頼ることもある。しかしおんぶにだっこではいけない。蒼がボスを倒したというのであれば、自分もまたボスを倒す。対等に、隣を歩けるべきだから。

 少なくとも伽代はそう思う。


 ボスの討伐は大前提。

 大事なのは無傷であるということ。同じだけのことを成し遂げたい。

 しかし伽代にとって無傷なんてなんの縛りにもならない。被撃ゼロを目指す。



 伽代の持つスキルは『衝撃吸収』『雷属性』『気配察知』の3つ。

 中でも衝撃吸収は破格の性能。体に強い力がかかりそうになると、自身に作用している全ての物理運動を無効化する。銃も剣も効かない鉄壁の守りである。

 大きな欠点として、物理運動を無効化している間は呼吸ができない。

 銃や剣なら発動するのは一瞬で何の問題にもならない。しかし、腕が扉に挟まれたりすると連続で能力が発動し続けて窒息死する。物理運動が無効化されるので、自力で抜け出せない。日常のふとした瞬間に死にかねないスキルなのだ。

 他にも、爪や髪を切ることができなくなる。切ろうとすると衝撃吸収が発動してしまい刃が通らなくなる。


 だから最初にこのスキルをオフにする練習をした。オフにできさえすれば、手を挟んでも衝撃吸収は発動しないし、挟まれた後でも自力で抜け出せるようになるから。



 §



 深呼吸をしてから、扉を押す。

 森の中に唐突に表れた大きな扉。木製のその扉は、触るとしかし見た目よりも頑丈そうに感じる。


 部屋の中にいたのは、デッサン人形のようなゴーレムだった。名前をドローイングオートマタという。

 最上層・上層にいるデフォルメされたゴーレムとは少々外見が異なる。体は八頭身の均整のとれたスタイル。胸部からは弱点のクリスタルがなくなり、つるつるつよつよボディ。一番の違いは腕。なんとこいつには腕が6本ある。


 総評、ちょっと怖い。

 夜中のデパートなんかで出くわしたら逃げの一択かも。

 しかしここはダンジョン。ちょっと見た目が怖い程度、逃げる理由にならない。


 ゾンビダンジョンとかゴーストダンジョンなんかの方がよっぽどホラーしてそうだしと考えながら、伽代は攻撃。

 ファーストアタックは薙刀での大振りな斬りつけ。


 ボスが腕での防御姿勢を取ったので、追加で体重を乗せる。

 斬りつけるというよりも叩きつける攻撃。受け流さずに受け止めたボスは、伽代に一瞬の隙を与えることになる。

 その隙を見逃さずに、柄を滑らせながら内側に入り込む。

 左脇で薙刀を固定し、ボスの胸に右の手のひらを添える。添えるだけ。


 触れてスキルを発動。弾ける音と焦げる匂い。

 伽代の使う雷属性はまだ未熟。威力はスタンガン程度、射程距離が短いから触れるくらいまで近づかないといけない。

 スキルに慣れれば雷を飛ばしたり磁場を発生させたりできる。

 まだまだ未熟なスキルとはいえ、電流は生物の動きをスタンさせる。相手の行動を封じる手段が、今の伽代の雷属性だった。


 スタンしたボスに薙刀での攻撃。

 狙いは胸部。ボスの胸元にない弱点のクリスタルだが、実は体内に埋まっているのだ。露出はしていないものの急所は急所。狙って攻撃するに値する場所。


 ボスの急所を調べてから来ていたし、しっかりと狙っていた。武器はいいやつだし、スキルも最大限使いこなしていた。

 失敗の理由としては主に二つ。

 一つ目は雷属性のスタンを奥の手と決めてあまり使ってこなかったから、明らかに非生物のドローイングゴーレムに対して効かないと気付けなかった点。

 二つ目はボスと密着した状態で取り回しの悪い長物を扱おうとした点。


 雷属性の攻撃は、ドローイングゴーレムという相手に対しては表面を焦がす程度の効果しか持たず、超近距離では薙刀は使いにくい。結果として伽代は、ボスの攻撃をもろに食らう。

 シンプルなパンチだが、体重の軽い伽代はそれでも飛ばされた。


 保険の衝撃吸収が何度か発動して、伽代には傷一つついていない。


 被撃ゼロの縛りを破ってしまったことがただ悔しい。


 距離を取って仕切りなおし。

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