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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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29話:ドヤ顔は加速する

「そういえば、蒼ちゃんは最初にどんなスキルを手に入れた? 私は衝撃吸収ってやつだったよ」


 衝撃吸収……。

 頭の中を探しても思い当たることは無し。

 そちらに話を広げられる余地はなかったので、質問にそのまま答える。せっかくだからカッコよく。


「転移スキルだよッ!」


 告げるとともに、カッコいいポーズを取って転移を発動。

 もはや慣れた1mmの転移。転移後もポーズは崩れない。


「転移かぁ。かなりレアなやつだよね」


 どうよと伽代の方を見てみると、発動した転移についてのコメントは特になし。

 気づかれなかったのかもしれないと、今度は連続で発動してみる。


「転移スキルだよッ!」


 一目で分かる異変。スルッとした前への移動。

 蒼の宣言もあり、伽代の視界にしっかりと捉えられた。


 移動のち転倒。

 ドヤ顔で地面とごっつんこする蒼を見た伽代の心境はいかに。


「す、すごいねぇ」


 気を遣ってくれた。

 蒼の「どうよ私のスキルは」と言わんばかりの表情に気圧されたのかもしれない。


 気遣いが蒼に通じるわけもなく。


「でしょ?」


 褒められてドヤ顔を加速させる。

 口の回転速度も上がった蒼は『最初はスキルを使えなった』『頑張って論文とか読んだ』『ちょっとだけ使えるようになった』『戦闘で上手く活用している』と、人に話したかったことを口から溢れさせる。


「頑張ったんだねえ」


 伽代に受け止められて、さらに口が回りに回る。

 攻守交代。森を進む。

 蒼が喋って伽代が聞く。しばらくその順序は乱れない。


 ふと、伽代から新情報がもたらされる。


「目を閉じてスキルについて念じると自分の持ってるスキルが分かるじゃん? あれと同じ感じで『スキルを使いたーい』て念じると良い感じにスキルが使えるよ」


 発動後の効果を何も想像せずにスキルを使った場合、現状できる範囲での効果が出るとのこと。

 きっと蒼もただ転移を使いたいと考えれば、自然と1mmの転移ができたのだろう。というかできた。1cmの転移で転んだが、まあできた。


「スキルの発動条件は結構面白くてね、慣れるとループにしたり条件指定したりもできるんだよ」


 蒼にとっては知らないことばかり。

 情報を絞っていたことをちょっと後悔しそう。


 森の茂みから飛び出たゴーレム、八つ当たりでボコす。

 右手の指をピンと伸ばし、首を狙って貫手。

 右手を後ろに、左手で頭を掴んで地面に叩きつける。背中側からクリスタルのあるであろう場所を狙って踏み抜く。


 何とも驚くことに、突き指した。

 ゴーレムが消えて光になっていくのを眺めつつ、右手の中指をさする。



 §



「そんでね、衝撃吸収ってスキルは使い勝手が悪くて。最初は必死にスキルを使えるようになるために練習したんだよ――」


 ダンジョンからの帰り道、伽代と蒼は同量の内容を喋るようになっていた。蒼が無口でいるのでもなく、一人で喋り過ぎるのでもない。

 ゆっくりとした会話のキャッチボールに慣れてきていた。


 蒼が自身のスキルについて話して、それを聞いた伽代が自身のスキルについて話す。二人ともスキルを使いこなすことに苦労したからか、その話題でふたりの距離感が縮まっていた。


 もはや話はスキルだけに収まらず、趣味へと広がっていた。


「私はねえ、映画とかよく見るよ。それで仲間とか相棒とかに憧れたんだ。蒼ちゃんは普段何してるの?」


 楽しくお喋りしている最中に、唐突に冷や水をかけられた感覚。

 ここで岐路に立つことになる。

 目の前にある選択肢は二つ。カッコつけた趣味を告げるか、本当の自分を出すか。


 実際はそんなことないけど、できる子としてのポーズを保つために趣味を美術館巡りとかにしたい。カフェ巡りとか温泉巡り、本屋巡りとかでもいい。


 脳内で巡ってばかりの蒼。突然目の前にちっちゃい天使の幻覚が現れる。

 天使は『漫画やライトノベルを読むこと』を推している。脳内の良心というか、真っ当な部分である。嘘を吐くなと。

 しかし漫画やライトノベルは恰好が付かない。それに、普段読んでいるものもファンタジーなものばかり。クール美少女には相応しくない。イメージ崩壊の危機。せめて内容がSFや推理ものであれば、どうにか恰好が付いたのに。少なくとも蒼はそう思っている。


 SFや推理ものは読んでて頭が疲れるので苦手な蒼は、目の前で天使と悪魔が戦っているのを眺める。幻覚の。

 現実で時間は流れていないが脳内ではだいぶ時間が経った。11ラウンド目のゴングが鳴る。両者ともに満身創痍。ズドンと電撃が落ちてきて、睨み合っていた天使と悪魔が急に手を取り合った。

 蒼の思考は、嘘を吐かず誤魔化す方向へと向かっていた。


 ファンタジーだろうがSFだろうが、ミステリだろうがホラーだろうが、本を読んでいる以上内容に関わらず全て『読書』である。

 思い返してみれば、伽代の前で何度か難し気な本を読んだ。内容が全くと言っていいほど入ってこなかったが、名前くらいは覚えている。


 趣味は読書でいこう。


 口を開く。

 はたと舌が止まる。

 山月記を読んでいた時、伽代ちゃんは「自分も読んだよ」というような事を言っていた。ここで読書と答えたらどうだろう、向こうも乗り気になってお気に入りの本の名前や感想を聞いてくるかもしれない。そこでボロが出るのだ。


 ちゃんとした感想を語れるのなんてラノベと漫画くらい。

 途中からボロを出してしまうくらいなら、最初から読んでいるのはラノベだと伝えてしまった方が良い気がしてきた。

 向こうが感想を聞いてくるかもしれないし、聞いてこないかもしれない。可能性はたぶん五分五分。


 脳内で「ライトノベルを読むこと」と「読書」のどちらにするかで悩んでいる蒼。

 伽代に趣味を聞かれてから0.5秒が経過した。蒼の脳内タイマーが静かに鳴る。これ以上思考を長引かせることはできない。蒼の考える、会話のキャッチボールで自身がボールを保持していられる最大の時間だ。


「趣味はねぇ……ライトノベルを読書すること。……かな」


 口に出して、混ざってしまっていることに気づく。

 文章として変な感じ。それでも意味は伝わって、「じゃあ」とボールを投げてくる。


「私は普段読まないなあ。お気に入りの作品は何? 私のおすすめの映画は『マリミアの子供たち』だよ」


 予想通りに具体例を求めてきた。

 もう吹っ切れるしかないと、舌が回る。


「最近のお気に入りは、『ゴブリン帝国千年記』だね。断然! ヤンヨムっていう甘辛いWeb小説投稿サイトに投稿されている作品で――」

「まってまって、甘辛いWeb小説投稿サイトって何?」

「読者がコメントするときに甘口と辛口の二種類を選べるんだよ」

「そういう……」


 どうでも良いところを気にするなあと思いつつ、話を続ける。助走してしまったのだから飛ばずにはいられない。語りだしてしまったのだから語らずにはいられない。


「この作品の特徴はねえ、1エピソードで物語内の1日が進むってところかな。現実だと1日に1話更新されるから、完結まで1000年かかるんだよ」

「正気じゃないね」

「書籍もすごいんだよ。一年に一冊しか新作が出ないの。辞書みたいな厚さで物語内の一年が進むんだ。Webよりも3年遅いから、内容を知りたいだけならWebだけでいいんだけどね」

「関係者全員が正気じゃないんだね」

「最近だとねえ――」


 慌てて口を押える。

 好きな作品のことに夢中になってネタバレをしそうになった。


 せっかく仲良くなったのだ。ネタバレで関係を壊すようなことはしたくない。

 不審気に蒼を眺める伽代にそう告げる。


「私はネタバレとか気にしないよ? 軽く内容を教えて欲しいな」

「……じゃあ、ちょっとだけね。最近はねえ、インフレがずっと続いているんだ」


 ちょっとだけねと言うと、つい小声になってしまう。

 自然と伽代も声が小さくなって、二人して顔を近づけてこそこそ話をする。


「数か月くらいずっと?」


 このこそこそ話が楽しくなったのか、伽代は笑顔をこぼしている。


「いいや、3年くらい」


 真顔になっちゃった。



 §



 聞き上手の力をまざまざと見せつけられた。

 蒼は伽代に勧めるつもりでお気に入りのラノベについて語り散らかしてしまった。

 とっくに駅にはついていて、今は近くのベンチに腰掛けている。


 クール系美少女にあるまじき熱量に、蒼は語り終えてから後悔気味。

 ちょっと引いている伽代を見て、ため息をつきそう。きっと読んではくれない。


 クール美少女としても、作品を好む読者としても失敗した。

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