28話:ふたたびふたりで
伽代と一緒にダンジョンに潜る蒼。
今回、家族にはダンジョンに行ってくるとしか伝えていないので、服装は普通。
過剰なまでの家族の反応が――特に弟の反応がムカつくので、伽代と一緒にダンジョンに入るときは伝えないことに決めたのだ。
蒼たちがやって来たのはゴーレムダンジョン。前回は蒼に合わせてゴブリンダンジョンだったので、今回は伽代に合わせた形になる。
生き物へ攻撃するのが苦手な伽代にとって非生物のゴーレムが出てくるこのダンジョンはありがたかった。
肉を切る感触は未だに苦手だが、伽代はもう気にしないことに決めた。相手も自分を殺そうとしているのだし、仲間との冒険の為には必要なことだから。
それでも伽代が未だにゴーレムダンジョンに潜っている理由は、単に家から近いからである。
§
敵は雑魚だし、景色は永遠に森。しかし一緒に潜っている人がいるというだけで、ひとりぼっちのダンジョン探索より何倍も楽しい。喋るのは伽代で蒼はそれに相槌を打つばかりだけれども、それでも楽しい。
伽代はゴーレムを薙刀で打って切って。蒼は蹴って殴って。
恩恵がステータスに偏っている蒼は身体能力でのごり押しができるし、そうでない伽代はできない。
スキルかステータスか。
冒険者がダンジョンから受ける恩恵は主にその二つに分けられる。モンスターを倒した冒険者は最初にスキルを一つ手に入れ、その後もモンスターを倒していくことでスキルを得る。
ダンジョンから得られる恩恵はスキルだけでなく、身体能力の向上も見込める。その恩恵をスキルに合わせて、ステータスと呼ぶ。
ゲームのような世界になったものだ――蒼は伽代の話に聞き入る。
蒼の興味はファンタジーな現実だけじゃなくて、まるで攻略本を読んだかのように色々なことを知っている伽代に対しても向いていた。
同時に伽代も蒼に対して感心していた。よく全然知識を持っていないのに冒険者として活動しているな――と。
ほとんどの冒険者は、ダンジョンについてちゃんと知識を付けてから潜る。情報を絞ることによる利点なんてないからだ。
ただ、蒼のその姿勢はダンジョンの最下層へと潜る冒険者たちと似ていた。彼らは意図的に情報を絞っている訳ではないが。
「そういえばボスからアイテムドロップでポーション出たよ」
私ってラッキーガールなんだよね――との気持ちを込め、口を開いた。
今のところ蒼が自分から口を開く時は、自慢、弁解、または挑発である。ろくでもない。
そんな自慢は伽代によって細かく訂正される。
「それってレアドロップじゃない……?」
モンスターの体の一部が手に入るのがアイテムドロップ、それ以外が手に入るのはレアドロップ。
伽代先生のダンジョン講座が始まった。
無知を恥じて傾聴しろ。
「――レアドロップの中でも宝箱から手に入るのには別に名称が設けられていて、トレジャードロップって言うんだよ」
蒼にとっては何のこっちゃである。
伽代が一生懸命に説明してくれているので、蒼も一生懸命に聞こうとする。しかし聞いたことのない名称が次から次へと出てくるせいで、理解がぜんぜん追い付かない。
しかし問題ない。蒼は記憶力に自身がある。理解はできないけれども復唱はできる。話を聞いている感は出せるのだ。
情報過多により脳がオーバーヒートしそうになった蒼は、無理矢理にでも会話を終わらせる。
「ゴブリンキングのレアドロップで回復ポーションが出た時、最初は血かと思っちゃったよ」
少し大きな声になってしまった一言。バランスを取るため小声で「へ、へへへ……」と呟いておく。
休題。しかし止まらぬトークは次の話題へ。
「蒼ちゃん、あんまりダンジョンについて知らないんだね。筆記試験は大丈夫だった?」
「筆記試験……私受けてない」
冒険者になるべく組合に行ったら、いきなり実地試験だった蒼。筆記試験は未経験。
「ってことはあれだ。中学の頃のダンジョン特別授業を選択してたでしょ」
そう言われて記憶を探す。
確かに中学生の頃、選択授業で美術や家庭科の授業の代わりにダンジョン特別授業というのを選択した。
先生が言うには、ダンジョンに興味があったり冒険者になりたい人におすすめとのことだった。やはり何かおすすめの理由があったのだろうか。
「あれのテストで高得点を取れたら、冒険者になるときに筆記試験が免除になるんだ。私は頑張ったけどダメだったよ。法律が難しくて」
思い返してみると、授業ではダンジョン周りの歴史や法律について勉強した。筆記試験と同じような内容だろうから免除だったのか。先生は言ってなかった……よね。
そしてさっきの言い方だと、冒険者になるための筆記試験の方では歴史や法律に以外にも、アイテムドロップやレアドロップの名称とかも知識が必要になるんだろう。多分。
筆記試験の勉強で冒険者としての基礎知識を知るのだろう。
もし免除になってなかったら冒険者に慣れてなかったのでは? 授業で高得点取れてよかった。
「勉強得意なんだ?」
そうなんです得意なんです。
文武両道の天才美少女蒼ちゃんとは私のことなんです。
カッコいいところを見せられたかもしれないと、心の中で元気になる。
「得意! ――だよ。スキルを使えるようになった時も、英語の論文読みながら頑張って練習してたし。得意!」
褒められて調子に乗る。調子に乗っていらないことを言う。
「英語得意なの?」
脳裏によぎる、AIさんによる論文の翻訳作業。それだけでなく、翻訳文を読んでも分からなかったので要約まで頼んだ記憶。
「――うん! 得意だよ!」
それらはすべて地平線の彼方へと吹き飛んだ。
「私英語苦手だからさ、教えて欲しいな」
もちろん蒼は勉強のできる女。論文はともかく、学校の授業で習ったことはこなせる。
しかし、他者に教えるとなると、必要なのは理解。暗記でどうにかできるのは、テストくらいのものである。
蒼に勉強を教えるのは難しい。そんなことは分かっていた。
だが、蒼は頼られるのに弱かった。
悲しいかな、それは責任感や優しさから来るものではない。頼られた経験が少ないのだ。断り方が分からない。
そして隠し味にごく少量の増長。
「ま、任せてよ!」




