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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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27話:ゴブリンキング

 広い空間なのに、ぽつんと玉座があるだけの殺風景な場所。

 居座っているのはゴブリンキングと名付けられたボスモンスター。


 ゴブリンダンジョンはスライムやゴーレム、ドラゴンなどに次いで数の多いダンジョンだ。日本では七カ所、世界にはもっとたくさん存在している。


 ヨーロッパで有名な『ミミクリーゴブリン』や世界最大級のゴブリンダンジョンのボスである『キングゴブリン』の方が相性が良いのだが、ゴブリンキングは純粋な物理攻撃型のモンスター。蒼との相性は悪くない。

 遠距離攻撃を多用してくる『ゴブリンメイジ』や『ゴブリンシャーマン』、『グリーンウィッチ』といったボスよりかはやりやすい相手だ。


 昨日のネットサーフィンのお陰ですっかりゴブリンのボスについて詳しくなってしまった蒼は、スキルをコピーするミミクリーゴブリンとか、仲間を召喚するキングゴブリンとかと比べて華のないゴブリンキングを哀れに思ってしまう。

 このことを目の前のボスが聞いたら、「お前も似たようなもんじゃん」と思ったことだろう。1mmしか移動できない転移スキル、華には欠ける。


 ゴブリンキングの特徴は、圧倒的パワー。

 重そうな金棒を軽々と振り上げるその姿は、蒼にはちょっとカッコよく見えた。しかしゴブリンのことをカッコよく思ったという事実が悔しかったので、唇を強く噛んで忘れるように努める。


 金棒を振り上げたゴブリンは、明らかに金棒の持ち方でない、投げ槍とかそういう武器の持ち方に変え、思いっきり投げた。


 唯一の武器を捨てた! 馬鹿だあいつ――蒼の表情が物語る。


 筋骨隆々の身体から投げられた金棒は、蒼との距離をすぐさま埋めていく。蒼は金棒を目で追って、転移を使って避ける。1mmの転移を連続で発動して、瞬時に移動する技である。これを爆速連続転移と名付けた。


 爆速連続転移の欠点は、何回転移しているのか分からないため思った場所に移動できないということ。そして転移後にすっ転んでしまうということの2つだ。

 実は蒼はちょびっと練習していた。誰にも内緒の秘密の特訓。普段ダンジョン内で蒼がどのように活動しているかを細かに知る者はいないので、どのような特訓も誰にも内緒のものではあるし、特訓というよりもただの練習なのだが、『秘密の特訓』というワードがカッコいいので秘密の特訓ということにしている。

 欠点を秘密の特訓で克服した蒼に隙は無い。

 爆速連続転移の発動条件の管理。これまではそれを転移回数や発動時間で指定していた。これだと狙った場所ドンピシャに移動することはできない。発動条件を移動距離で指定することにより、望んだ場所への爆速移動を可能にしたのだ。

 今では爆速連続転移で角を曲がることもできるようになった。


 美少女冒険者蒼ちゃんの冒険譚:第二章~スキルを使いこなす編~の始まりを予感した蒼は、地面と頬を合わせながらも満足げに笑った。

 一方ゴブリンの方は、自身の投擲を滑るように回避した後に急にバランスを崩し、地面に突っ伏しながらも「フフッ」と笑う蒼を見て得体の知れない恐怖を感じた。

 生物が持つ未知への恐怖。ダンジョンによって生み出されたモンスターでありながらも、ゴブリンキングが一体の生物であるという証拠だった。



 立ち上がった蒼は、地面にめり込んでいる金棒を奪ってやろうと手をかける。

 びくともしない。

 押しても引いても動く気配のないそれは、純粋な重さだけでなく食い込んだ棘の抵抗によって奪われることを拒んでいる。


 武器の奪取は諦めて、ゴブリンキングへの攻撃を優先する。

 今までゴブリンを殺そうとダンジョン内を歩き回っていた足で、目の前のゴブリンキングを殺そうと駆け出す。一歩二歩で調整、三歩目にはトップスピードに乗る。


 的が小さいスピードタイプ、パワー型のゴブリンキングにとって戦いにくい相手。

 ゴブリンキングが下した判断は――金棒を拾わず素手で戦う。金棒を振り回しても避けられるだろうし、当てられない武器を持つよりも素手のほうがマシだから。


 駆けてくる蒼に対して迎えるボス。


 蒼が唯一持っているスキル、転移。直接的な攻撃手段ではなく、戦闘で使いやすいスキルとは言えない。

 しかしスキルを使ってカッコよく戦いたい蒼は、転移を戦闘で活用するための手段を考えた。そうして生まれた、敵ごと1mm転移(仮)。正式名称はカッコいいのを考え中。


 ゴブリンキングの方が体が大きく、当然リーチも長い。

 ボスの攻撃範囲に入る直前、ともに1mm右へ移動。すかさず左回し蹴り。顎を蹴り飛ばす。

 勢いを殺さず、軸足を右から左へ。


 転移で崩れた体勢が蹴りによってさらに崩された。

 ボスは膝をつくが、すぐさま咆哮を上げ立て立ち直した。立ち上がるボス、その横っ面に迫る右足。


 右の踵がヒットする。

 手応えを感じる蒼。ゴブリンキングは倒れ――ない。


「えっ、とぅわッ!?」


 ボスは痛みに耐えながらも、蒼の右足を掴み振り回す。ハンマー投げのような形で振り回し、十分な回転に達したところでリリース。

 この時点で右足と体がお別れしなかったのは、ダンジョンの恩恵で体が強化されていたから。やっててよかった冒険者活動。


 相当な速さで斜め上に放り出された蒼。空中でなんとか姿勢を直し、顔面から壁に激突するのは避けた。が、左半身を強く打ち付けて落下。そのまま地に転がる。


 蒼は壁にぶつかった痛みで立ち上がれない。

 対するボスは二度の蹴りで脳が揺れているところに自前の回転。視界がぐわんぐわん。

 両者共に痛み分けに近い状況。


 蒼は目を細めて敵を見る。あいつにトドメを刺さねば、と。


 暗転。



 近くの気配に目を覚ます。

 一回、二回の瞬きで、光を完全にとらえた。

 立つのもやっとといったゴブリンキングが、いつの間にやら手にしている金棒を振り上げている。


 これはまずいと回避行動。

 咄嗟に出たのは爆速連続転移。スーッと滑るような横移動に、ゴブリンキングも困惑。


 十分に距離を取った後、立ち上がる。

 ここで新たな気付き。寝ながらの爆速連続転移はバランスを崩さない! だって寝ているのだもの。


 逃走先に偶々落ちていた相棒ナイフ。

 振り回された時に落としたのか、投げられた時に落としたのか、結構遠くまで来ていた。

 もちろん回収。


 相手は立つのもやっと、こっちは痛みはあるが普通に立ち上がれる。何なら飛んで跳ねて走ることだってできる。ナイフを手に入れたし形勢逆転。

 垂れてくる血が右目を覆うので、よく拭ってからナイフを構える。


 ボスはふらついている。ふらついている相手に投げナイフはクリティカルに刺さりそうだが、ついさっき肉弾戦を挑んで痛い目を見た。今度は油断しないで、しっかりとナイフで仕留める。

 最初の蹴りの後、ナイフで首を搔っ切っていたらそれだけで勝ちだったのだ。唯一の武器であるナイフを手放すなんて有り得ない。


 まず最初の狙いは顔、その中でも特に目。

 先に視界を奪ってから、タイミングを狙って首を掻っ切る。


 ワン、ツーのステップで金棒を避けて、肉薄からのナイフをプレゼント。

 こちらの気持ちの込めたプレゼントに対し、金棒を手放してでも両手で抵抗するゴブリン。無理やりにでも受け取らせようと、殺意だけではなく力も込める。


 ナイフを両手で突き刺そうとする蒼に対して、ゴブリンキングも負けじと両手で対抗する。腕で腕を掴む。


 最初は均衡に近かった。

 しかし相手の眼球にナイフを突き刺そうとする姿勢は、身長で負けている蒼にとって力が入れずらい。蒼が体重をかけて押し込んでも、ボスの必死の抵抗に邪魔される。徐々に徐々に少しずつ、ナイフが顔から離れていく。


 蒼の脳は必死に回転していた。いつもより多めに回っていた。

 蹴りでも食らわせてみるか、ナイフを引いてやり直すか。いくつか選択肢は浮かぶが、どれも良い考えには思えない。

 蹴りにしてもやり直すにしても、足を地面から離した瞬間に主導権を取られそう。ナイフを引こうにも腕を掴まれている。


 ナイフをゴブリンキングの顔に向かって投げ捨て、防御している間に腕を引いて金棒を奪ってみるかとも考えるが、金棒を上手く扱える気がしない。ステゴロで戦うのはちょっと怖い。

 いくら無慈悲にモンスターを屠ってきた蒼でも、精神は普通の女の子。壁にぶつかったときの痛みが軽いトラウマになっていた。精神に関しては諸説ある。


 こうして悩んでいる間にもゴブリンキングは引き剝がそうとしてくる。時間を掛ければ掛けるほど、相手の有利に働く。このパワー比べに近い状況でより不利な姿勢の蒼が何とか踏ん張れているのは、顎にぶち当てた蹴りが上手く働いたからに過ぎない。このまま本調子を取り戻されるとマズい。


 なんか段々と足取りや目つきがしっかりしてきた。順当に本調子を取り戻している。

 転移から始まった平衡感覚を乱し脳を揺らすデバフコンボが途切れようとしている。


 ――!!!


 天啓というか、掃除していたら過去の自分のへそくりを見つけたというか、落とし穴を掘っていたら古代遺跡を見つけたかのような感覚。

 デバフコンボが途切れるなら、継ぎ足せば良いじゃんデバフを。

 というかなぜ今まで思い付かなかったのだろうか。カードゲームじゃないんだから、一度使った手札を何回使ってもルール違反にはならない。


 蒼の気まぐれ転移、季節のゴブリンキングを添えて。


 一緒に転移してゴブリンキングの平衡感覚をぶち壊す。

 一回の転移ではゴブリンキングに掛けるデバフとしては不十分かもしれない。慣れてきたかもしれないし。

 今回は贅沢にも爆速で、連続で、ボスも巻き込んでの転移だ。右に左に、前に後ろにと何回も続ける。転移に慣れている蒼だって前後不覚になるレベル。


 もはや蒼だってどっちが上でどっちが下だか分かっていない。ひたすらにナイフを振り下ろす、手ごたえがあるのかどうかも分からない。

 オロりそうになりつつも、必死にナイフを振り下ろす。その様は狂人による凶行。



 §



 強かったゴブリンキング。間違いなく今までで一番強かった。

 転移と転移の合間、もしくはナイフを振り下ろしている間。そのどれかで蒼は自然とマウントポジションを取って、ナイフで刺し続けた。顔から胸にかけての無数の刺傷が、原型を徹底的に破壊している。

 もはやどんなに優秀な探偵でもガイシャの身元には辿り着けないだろう。肌の色でゴブリンだと分かるかもしれないが。


 死亡を確認した後に決めポーズか決め台詞。

 特に何も思い付かなかったので、思考をそのまま口に出す。


「ゴブリンキングは……五月のぉ……季語ッ! 今、私が決めた」


 それでいいのか、決め台詞。

 本人的には満足気。


 ゴブリンキングは光となって消えていき、謎の液体の入った小瓶が現れた。そして入ってきたのとは反対の位置に出現する新しい扉。



 謎の小瓶の出現は、モンスターを倒した戦利品ではあるのものの、アイテムドロップとは別の現象。

 主にダンジョン中層で起きる現象として、謎の物品が現れることがある。宝箱の中に入っていたり、モンスターを倒すと落ちたり、出現方法は様々。謎の物品の種類もポーションだったり武器だったりと色々。

 これをレアドロップと呼ぶ。

 ダンジョン的にどんな処理なのかは判明していないが、最初にアイテムドロップを定義した人が『モンスターの体の一部が手に入る』と、レアドロップを定義した人が『謎の物品が手に入る』と決めてしまったので、謎の物品の出現はすべてレアドロップに定義される。アイテムドロップの方がレアドロップよりもレアなのは内緒だ。


 ファンタジー世界の命名権は早い者勝ち。現象だって法則だって、モンスターの名前だって。

 アイテムドロップは体の一部限定だし、レアドロップはそこまでレアじゃない。ゴブリンキングとキングゴブリンが別々にいてややこしいし、ゴブリン系の名前で揃えているゴブリンシャーマンたちの隣にグリーンウィッチの名前が並ぶ。


 つまり――モンスターの季語を考えた人間なんて今までいなかったわけで、早い者勝ちなのだ。

 蒼が主張するならば。



 戦闘が終わり、脳内麻薬も在庫切れ。現実を受け止める時。


 やばい、痛い、泣きそう。


 目に涙を貯めながら、瓶を拾って早足で入ってきた扉を戻る。ここで歩みを止めたら、そのまま座り込んで、声を上げて泣いてしまいそうだった。


 蒼の目の前に新しく出現した扉は中層へと続く。今回は一切関わらない。

 ボスを倒した者は、今後ダンジョンのボスをスキップして中層に挑むことができる。今中層に進む必要はないのだ。約束もしたし。



 §



 こんなに痛い目を見たのは、武器を失った相手に油断して蹴りを繰り出したせいだ。さっさとナイフで首か目を狙っておけばよかった。

 許さんぞゴブリンキング。いつかもう一度来て無傷でボコしてやる。


 帰路を一人で進みながら、脳内一人反省会。痛みから目を逸らす意味もある。



 血まみれの蒼がダンジョンから出てきて、受付はたいそう騒がしいことになったという。


 ホラー苦手な受付嬢がホラー味のある美少女を見て騒がしくしたのであって、冒険者が怪我をするのは大して珍しいことではない。

 組合には医務室も用意されている。大きいダンジョンの所だと専門の医師がいることもあるが、ここはゴブリンダンジョン、すごい小さめ。手当は指導官の杉野がしてくれる。


 指導官の業務は様々。基本的には待機ばかりだが、試験官だって務めるし遭難者が出たら救助に行く。法律にも詳しいし、戦闘だってこなす。

 ダンジョン指導官は意外と何でもできるのだ。決してただのカッコつけおじさんがなれる役職ではない。すごい有能なカッコつけおじさんなのだ。

 簡単にだが、アイテムの鑑定だってできる。


「回復ポーションじゃん。簡単な怪我ならすぐに直してくれるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、蒼は小瓶の中の赤い液体を呷った。

 別に痛みから逃げたかった訳ではない。クール系美少女だし。


 あまり美味しいとは言えない味に飲んだことを後悔しそうになったけれど、何も考えずに飲み込む。


「40万もするのに。この怪我には勿体ないよ」


 蒼は飲んだことを後悔した。

 内心すごい狼狽えているが、表情は「私そんなの気にしませんけど」とする。これがクール系美少女の在り方。

 なぜなら、今慌てたらポーションの価値も知らずに飲んだ馬鹿みたいに見えてしまうから。

 蒼の考えるクールでカッコいい美少女は、痛みから逃げようとはしないし、金に頓着しないのだ。


 ポーションは40万円の価値を発揮し、傷を全て治した綺麗な蒼ちゃんがその場に出来上がった。


 心なしか肩が軽くなったような気もする。

 それは普通に気のせいである。

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