25話:休み時間
授業と授業の合間。お昼休みほどの長さはなく、かといって一人で過ごすにはちょっと長めの時間。
一人で寂しそうにしていたらただのぼっち。難しそうな本を読んでいれば優等生。そこに大した違いはないのだ。
別にぼっち回避の為とかではなく、自身の知的好奇心が赴くまま偶々手に取ったものが本だっただけの蒼は、『ドグラ・マグラ』を開いて閉じた。
せっかく赴いた知的好奇心は、本を開いた瞬間にどこかに飛び去ってしまったようだった。
なんか活字眺めてると頭が痛くなってくる。これが五月病か……。
0.2秒の活字で痛めつけられた頭を休ませるよう目を閉じていると、ぽかぽか陽気で睡魔と仲良くなりそうになる。
5月1日、よく晴れた日のことだった。
蒼はフッと眼を開いた。
冒険者として活動を続けるにつれて人間離れしてきた身体が、蒼に声をかけようとしていた伽代を感じ取ったのだ。
「ハロー?」
目を閉じている蒼を少し驚かせてやろうと考えていた伽代。急に目を開いた蒼になんと声をかけて良いか分からず、少し困った表情で疑問符を付けながらもこんにちはの挨拶。
手元の本を見てさらに困ったような表情差分を追加。
「なかなか読書の範囲が広いんだね。――それより、次はいつ行く?」
この本は弟のものであって、休み時間をぼっちで過ごして悲しい思いをしないための時間潰しに借りている。本の内容はよく分かってない――そう言いそうになったものの、すんでのところで踏みとどまる。
内容も理解できないのに難しい本を読んでるなんて、まるで馬鹿みたいじゃないか!
踏みとどまった代わりに、その質問にお答えしよう。
心の中で姿勢を正した蒼は、質問の内容について振り返る。『次はいつ行く?』という質問だが、おそらくダンジョンの話だろう。それ以外に心当たりないし。
特に考えず「来週の土曜日は?」と答えておく。あっさりと答えたように見えるが、脳内は大盛り上がりである。
予定を確認するまでもない。どうせ予定なんて入っていないのだから。200色あるうちの最も白い白、シロクマの五倍は白い予定帳。それに黒で書き込むときが来たかとさらに盛り上がる。
今まで蒼は予定帳を買ったことが無かった。予定なんてないから。しかし、この前伽代が一緒にダンジョンに行こうと誘ってくれたから、蒼は購入すると決めたのだ。そしてこの予定帳を埋めてやるのだと意気込んだ。
お気に入りのシャーペンと、癖っぽいけれど読みやすいこの文字で書き込んでやる!
予定帳に書き込む意気込みや良し。通販で購入した予定帳がまだ家に届いていないこと以外は完璧な布陣。
「来週の土曜日は予定があるんだよね。日曜日か再来週はどう?」
蒼の方の準備は良くても、目の前の少女とは予定が合わなかったらしい。
意気消沈しつつ、それを悟らせないよう努力する。
「じゃあ……再来週の土曜日……」
少し悩んだ後、「これで日曜日とか答えたらがっつくみたいで、まるで予定のない人のようだから」といった思考で再来週の土曜日を指定した蒼。
「おっけ、再来週の土曜日ねー!」
去っていく伽代。
再びボッチになってしまうので伽代を呼び止めようとするも、がっつくみたいだと何も言えなくなった。
ぼっち再開、読書再トライ。
§
現実逃避気味の読書と、机に置かれた今日のお弁当箱。
蒼は伽代に誘いをかけようか迷っていた。「一緒にお昼食べようよ」そう声をかけるだけなのだが心理的ハードルは激高。
ぼっちの昼休みはつらい。しかし声をかけて断られたらもっとつらい。
引くも地獄、進むも地獄、そんな中に差し込む一筋の光。伽代が蒼のもとにやってきた。手に持つのはお弁当が入っているのであろう布袋。
ご飯食べよう――そう言ってくれた伽代が、蒼には救いの蜘蛛の糸のように見えた。
人を蜘蛛の糸に例えるそのセンスは置いておき、蒼としてはその差し伸べられた手に是非とも縋りたいところ。けれど、がっつきすぎると蜘蛛の糸は切れてしまう。
大事なのはバランス。がっつき過ぎず、かといってつんけんとし過ぎもせず。
ここでがっつき過ぎると周りのクラスメイトから「あの子友達少ないんだ」という目で見られる。かといってつんけんとし過ぎると伽代が一緒にお昼ご飯を食べてくれなくなるかもしれない。
「わ、私も誘いに行こうと思ってたんだぁ……」
自分から声をかけに行こうと思ったんですアピール。これが蒼の脳みそが導き出した最適解。一緒に食べたいですオーラを出しつつ、友達の少ないぼっち感を極限まで減らす。
「じゃあ今度は私の教室に来てよ。蒼ちゃんにお昼誘われるの楽しみだなぁ~」




