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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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24話:ふたりでダンジョン

 自動ドアが二人の少女に反応して開く。

 一人は運動しやすそうな服装で、もう一人は運動に適さない服装だ。


 受付嬢の飯島は書類から顔を上げて二人の少女、蒼と伽代に対応する。デキる受付嬢はすぐさま仕事を切り替えるのだ。

 顔を上げ二人を見る。


「うわ可愛い」


 そう呟いてたらりと鼻血を出した飯島。これがデキる受付嬢の姿なのか。

 興奮故か鼻血を出した受付嬢は奥へと引っ込み、ちょうど暇だった他の受付嬢が対応する。


 慣れてきてそれなりに会話も続けられるようになった受付嬢が消えたので、どうすればいいのか分からなくなる蒼。さりげない動作で伽代の後へ。

 自然と受付嬢と伽代が会話をする形。そっと免許証を差し出し、再び伽代の影に戻る。


 蒼の持つ紙袋は、実際よりも重くのしかかる。中には、伽代が選び伽代が購入した蒼の装備が入っている。

 最後まで抵抗した蒼により、この装備は後日から伽代が使用するもので、今日は蒼に貸し出すという扱いになった。しかし自分のやらかしによって決して安くない装備を人に買わせてしまったという事実が、蒼の胃にキリキリとダメージを与えていた。


 申し訳なさで口からプリンが出てきそう。

 決してメルヘンではない。普通に出てきそう。



 更衣室で着替え、ロッカーに荷物を預ける。

 この二つを蒼は初めて使用した。

 逆に伽代はシャワー室を借りたことがないので、実質イーブン。


 何がイーブンなのかは置いといて、蒼は小さなポーチからナイフを、伽代は組合に預けていた薙刀を持ってダンジョンに入場した。

 蒼が着ている装備は伽代が選んで買ったもの。プリンさんがこんにちはしそうな心境。



 §



「今日は1層を軽く回って順番に戦おうか。次からは奥に進んだり一緒に戦ったりしようね」


 ゴブリンダンジョン1層。それなりに冒険者として活動してきた二人にとって、出てくるゴブリンは雑魚である。

 しかし今日は初めて一緒に潜る日。相手は弱すぎるくらいで丁度良い。

 現状でいっぱいいっぱいな蒼と、すでに次回を見ている伽代。外堀は徐々に埋められつつあった。


 二人はしばらく歩いていると、ゴブリンと接敵する。

 いつもの蒼であれば出会い頭に先制攻撃を行っているところ。しかし今日は他にも人がいるのだ。そんな自分勝手な行動はしない。ちらりと伽代を見る。


「最初は私が行くね」


 そう言った伽代の戦いを後方腕組みしつつ見守る。


 えーっと、右手で真ん中らへんで、左手が下の方……。位置調整的なのがあった……たぶん。


 生まれ持った本能のままにゴブリンを屠ってきた蒼ちゃん。伽代の細かい動きの意味は良く分からない。



 伽代が左足を一歩踏み出せば、近づいて来ていたゴブリンは既に薙刀の間合い。

 石突でゴブリンの眉間を打ち抜く。刃をゴブリンに向け、突き、斬り上げ、斬りつけ。


 圧倒的リーチによりゴブリンは一方的にやられる。その手に持っていた錆びたナイフは、活躍することなく光となって消えていく。


 ゴブリンダンジョンは少し狭めな洞窟系通路。振り回す系長物とは相性が悪いが、そこは技術でなんとかした伽代。その頑張りを知ってか知らずか、蒼は素直に称賛。パチパチと拍手も忘れない。


「つよい!」

「技は見様見真似だけどね」


 身の丈以上の長物を軽く扱えるのは、ダンジョンで身体能力が上がったおかげ。リーチを理由に薙刀を選んだ伽代は、最初の頃には振り回すのもやっとだった。

 ダンジョンの恩恵で少しずつ身体能力が向上して、ネットで探してきた動画を真似できるようになった。映画や実際の武術の動画を参考にしている伽代の動きは、アニメや漫画を参考にしている蒼よりも実戦向き。


「私は技とか分からないんだけど、カッコよかったよ!」

「そう? 最初は右手の方が上を持ってたんだけど、石突で突くときに右手で打ち出したので左手が真ん中に来てそこを軸に刃を前に向けて、そこから突きを――」


 お世辞とかではなく、蒼の本心からの「カッコいい」。見様見真似の薙刀術はスキルと同じくらい練習したから、褒められて本当に嬉しそう。

 誰だって努力は自慢したいもの。動きの説明が少し早口気味な伽代。ちょっとオタクっぽくて蒼は親近感。

 解説を一生懸命聞いている蒼だが、内容はあまり理解できていない。



 伽代が説明して蒼が聞く。

 そんなことをしていると次の犠牲者が到着。相手はこん棒持ちの雑魚ゴブリン。


 次は私の番、と蒼が前に出る。


 右手に持ったナイフを手慰みに回す。意味はない。カッコいいから回してる。

 少し前までの蒼だったら、ペン回しを失敗するように地面にナイフを投げ出すか、指をスパッといっていたところ。ダンジョンの恩恵にて器用さが向上し、最近の蒼はペン回しもこなせるようになってきたのだ。


 ナイフを構える。アニメや漫画を参考にしているからそれっぽいが、見た目だけだ。次の動きを出しにくいその姿勢だが、身体能力でごり押しするのみ。


 ゴブリンが頭めがけて振ってきたこん棒を掴んじゃう。押し返す形で抑え込み、右手のナイフで適当に3回突き刺す。

 ゴブリンがナイフの痛みでこん棒を持つ手を緩めたので、ナイフを手放して両手でこん棒を奪いにいく。


 奪ったこん棒で相手の頭にフルスイング。欠片も躊躇わない。

 胴体とお別れした頭部は通路の向こうへと飛んでいき壁のシミとなった。

 こん棒をぶん回すパフォーマンスもして、風情を感じながらゴブリンとこん棒が消えていくのを眺める。


「すごい……」

「ッ……慣れてますから!」


 純粋な称賛にドヤ顔で答える蒼。

 蒼の脳内に一瞬『親の顔より見たゴブリン』というセリフが浮かんだが、シンプルに嘘であるので口にはしなかった。


 伽代が自身の頑張ったところを説明したように、蒼も説明したくなった。

 頑張りは自慢したいもの。蒼だってそう。


 頑張ってスキルを使えるようになった話をしたい! 頑張って習得した連続爆速転移を見せてびっくりさせたい!


 転移スキルの話をしたいと思ったけれど、レアなスキルを手に入れた自慢っぽくなりそうでやめた。自慢ばかりしていると周りから人が減ると本で読んだから。

 それに連続爆速転移を披露したら口からプリンを出してしまいそうだ。



 戦闘、会話、見学、会話の繰り返し。しばらく続けて、二人はダンジョンから帰還した。


 また次回ダンジョンに行こうね、と約束をした伽代は満足そう。

 蒼も装備を無傷で返せてようやく安堵。



 §



 ダンジョンから帰ってきて、ヒラヒラしたスカートとゴテゴテしたアクセサリーをもう一度身に纏った蒼。

 再び興奮して奥へ引っ込んだ飯島の代わりに別の受付嬢が対応する。


 二人は駅前で解散。蒼は徒歩で、伽代は電車での帰宅。



 家に帰ったら、そのままお風呂に入る。

 ダンジョンに潜るようになるまではずっと家にいるタイプの少女だった蒼、家にいる時は寝巻き姿が基本。だから帰ったらすぐにお風呂に入って、パジャマに着替えてしまうのだ。もこもこのやつ。


 洋服をアクセサリーと一緒に適当な場所に置いておく。普通の洗濯物と一緒に出して良いのかわからないから。



 家族以外と遊んだのは何年ぶりだろうか。今日という日は、蒼にとって楽しい一日であった。

 できれば伽代にとってもそうであればいいなという考えが、少し漂ってそして消えた。必要のない装備を買わせてしまったという反省が襲い掛かったのだ。

 シャワーを浴びながら今日の行動について反省しつつ、シャワーの水温を下げることで物理的に頭を冷やす。馬鹿なことをしたという恥ずかしさで頭が沸騰してしまいそうだった。



 ドライヤーは基本使わない。面倒だから。

 タオルをかぶってワシャワシャで充分なのだ。


「あ、姉さんおかえり」


 シャワーから出た蒼をリビングで待っていたのは、蒼より少し後に帰ってきた翠。

 次にシャワーを浴びようと待っていただけだが、蒼にとっては今日一日について語って聞かせる絶好のチャンス。


 話し始めたら止まらない一日の感想。

 弟の『シャワー浴びたい』という内心を一切察せず、語りに語る。

 喫茶店に入ったとか、ダンジョンという名前の紅茶を飲んだとか、プリンアラモードが甘かったとか、喋りたい内容は尽きない。

 そのうち、偶然リビングに来たお母さんと、コーヒーを飲みに来たお父さんを加え、長時間に及んだ蒼の独演会。お母さんは娘の話を楽しそうに聞く。弟はシャワーに行きたそう。お父さんも「よかったね」とは言うものの、心ここにあらず。



 ようやく解放された三人。

 お母さんはニコニコ、お父さんはトイレへダッシュ!

 翠は途中で出てきたダンジョンという名前の紅茶とやらが気になった。まあどうせ珍しい紅茶とかではなく、ダージリンかなんかを聞き間違えただけだろう――と風呂場へ向かう。



 §



 洗面所の方からドライヤーの音が聞こえてきて、弟がお風呂から出たのだと知る。


 聞かせてやらねばなるまい。このお姉ちゃんの武勇伝を……。


 ダンジョンに入る前の情けないところばかりとは打って変わり、ダンジョンに入ってからのカッコいいお姉ちゃんの活躍。その活躍に重点を置いた独演会パート2を始めようとしたところ、翠はサッと自室に入っていった。

 自室をノックして独演会のお誘いをかけても、NOとしか返ってこない。


 これは……反抗期か。



 姉は調子に乗ると面倒である。

 今の姉はめっちゃ調子に乗っている。

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