23話:クールでキュート、プリンアラモード
蒼と伽代の二人は、公園で合流する。
片や動きやすそうな恰好の少女、片やアクセサリーを着けてバチバチにキメた服装の少女。公園には沈黙が木霊した。
先に口を開いたのは伽代だった。澄まし顔の蒼に、にじり寄るように語りかける。
「蒼ちゃんは……その服装でダンジョンに潜るの……?」
にじり寄るようではあるが、精神はちょっと引き気味の伽代。
ドンのないドン引きと言ったところ。カツの親戚かな?
小さなポーチしか持っていないじゃないか。武器はどうしたのか。徒手空拳で戦うの?
まあ、組合で預けているということも考えられる。伽代も昨日ゴブリンダンジョンへ行って武器を預けた。
「ッ……伊波さん、これは違うんです。学友と約束があるって言ったら親が……」
何が違うというのか。普段はこんな服装ではないということか。
まあ、親はあまりダンジョンに詳しくなさそうだということだけは理解した伽代だった。
「とりあえず、集合時間より少し早いし、喫茶店でお茶でもする? あと伽代って呼んでね」
「すみません、伊波さ――」
「伽代ね」
しょんぼりと蚊の鳴くような声ですみませんと謝る蒼を見て「可愛いなこいつ」と思う伽代、これじゃ完全に空気の読めない陰キャだよと落ち込む蒼。喫茶店に入店。
伽代の後ろを付いていき、入ったのはオシャレな喫茶店。
マスターと思われる人物の背後には、色々な種類の茶葉や豆がいっぱい。蒼にはひとつも分からない。
席に案内してくれたウェイターさんのピシッとした仕草がプロっぽくてほへる蒼。
口を開きアホ面晒す蒼に、メニューを持って来てくれたウェイターさんにお礼を言う伽代。こういう所に格の差ってやつが現れる。
再起動した蒼に伽代はメニューを差し出す。注文はもう決めたらしい。
メニューを開き見てみるが、紅茶とコーヒーのメニューが豊富だということくらいしか分からない。あとトースト系も。
特に飲みたいものとか無いんだよなと考えつつ眺めていると、見つけてしまった大秘宝。贅沢さレベル100、映えることは間違いなし、喫茶の女王プリンアラモード。
これを頼むと決意したは良いものの、どうすればいいのか分からなかったのでメニューを伽代に返す。
店員を呼ぶ伽代、緊張している蒼。天井のシミでも数え始めたが最後、次の瞬間には伽代が注文を終えてウェイターは蒼の方を向いていた。
言ってやるぜオープンセサミ、頼んでやるぜプリンアラモード。
「プリンアラモードひとつ……くださぃ」
注文を完遂し心の中で沸き立つ蒼。「お飲み物はどうされますか?」の一言で収束。
考えてなかった!
慌てて脳を回転さして、目だけでメニューを眺めて考えて。知らない名前ばかりで分からねぇ。
貼り付けた微笑が剥がれそう。
なぜ紅茶とコーヒーにこんな種類があるのか。トロッコ問題を見習って二択にしてほしい。
そろそろガタが来たよ限界人見知り少女。
もはやまともな思考は難しい。そんな自身を見つめる内なる自分。仕方がないから究極奥義を出すしかない。
「彼女と同じものを」
伽代の判断に丸投げ。これで伽代が飲み物を頼んでいなかったらとんだ笑い者である。
プリンアラモードからここまで僅か0.2秒。
ウェイターが去っていくと共に伽代が言う。
「それにしても服どうしよっか」
流石にその服でダンジョンに潜るわけないよな? の意思が込められた一言。
蒼は震え上がる。ここで選択を間違えたら、冒険者としても人間としても失格の烙印を押されるかもしれない。どうにかして誤魔化さなければ。
「このファッションは意外と実用的なんだよ……。ほら、スカートはあれだよ、戦ってる相手の視界を遮るのに使えるよ……。指輪はこう……メリケンサックみたいに……さ。ネックレスは相手の首を絞めるのに使えるし……ハイ……」
「……。まあ、それでいいとしようか」
何とか説得できたっぽくて蒼は一安心。
「普段からそんな服装でダンジョンに潜ってるの?」
「普段は革製の防具とかつけてるよ」
「だよね」
こんな服装でダンジョンに潜ってるわけないじゃん。そんな気持ちで即座に返答。しかしどうやら巧妙な罠だったらしい。伽代からの圧が増した。
「ダンジョンってさ、案外危険だからさ、しっかりと準備してから潜ろうね」
なぜだろう。笑顔が怖い。
蒼にできるのはシンプルに謝るだけ。冒険者を舐めてはないんですと心を込めての謝罪。
「ごめんなさい。楽しみにしすぎて、空回っちゃって」
しかしシンプルに謝ると言っても、謝罪という行為に全幅の信頼を置いている訳ではないのでちょっと悪知恵を働かせる。
背中を丸め、上目遣いで謝る。
上手く刺さったようで、伽代は「仕方ないなあ、もう」みたいな顔をしている。
短い付き合いだけれど、蒼は彼女のことが少し分かってきた。蒼のことを心配して怒ってくれる優しい子だし、両親にお小遣いをねだる時用の上目遣いが有効だ。
「その服じゃダンジョンに潜れないでしょ? この後装備買ってからダンジョンに行こうね」
「装備買えるほどのお金は持ってない……」
「大丈夫、私が出すよ」
「いや……申し訳ないからいいよ……」
親に買ってもらったレザーアーマーは装備の中では安い部類だったが、それでもそれなりの値段だった。そんな簡単に買いに行こうとか言えるものではないと思うのだが……。どうやら自分とは価値観が異なるのかもしれない。住む世界が違うというやつか。
ウェイターさんがティーポットとティーカップ、そしてお待ちかねのプリンアラモードを持ってくる。
ここに来て初めて伽代が注文したのが紅茶だと知った蒼。いや知ってはいない。まだティーポットの中身が紅茶だと確信できてはいないから。
今ウェイターさんが「この紅茶はなんたら」的な紅茶の説明を始めたため、蒼はこの茶色い液体を紅茶だと認識した。香りもなんかそれっぽい気がする。
自宅ではティーバッグの蜂蜜のやつしか飲んだことがない蒼。飲むときのマナーなんて分からないので、目の前にいる伽代の真似をして飲む。
「え、苦い」
ダンジョンみたいな名前の紅茶は、思っていた味ではなかった。全然甘くない。
苦笑しながらミルクとガムシロップを蒼に近づけてくれる伽代。ガムシロップを適当に入れ、かき混ぜて一口。
「うむ。甘い」
紅茶の甘さに満足して、ついにプリンアラモードに手をつける。
喫茶店に入ること、喫茶店でプリンアラモードを注文すること――この二つは死ぬまでにやってみたいことだった。まさか二つ同時に叶えられるとは。
まさかの二つ別々に達成するつもりだった蒼。目の前の少女へ感謝するとともに、プリンを口に入れる。甘い!
夢中で食べる蒼と、クッキーと紅茶を楽しむ伽代。
伽代は段々、蒼のクールな雰囲気は偽りなのではないかと思い始めていた。正解である。
プリンアラモードを食べ終わり、満足気な笑みを浮かべる蒼。キュートな笑顔が伽代のハートを打ち抜く。
馬鹿を晒してアホやって、ミスばかりの蒼だけれども、持ち前の顔の良さが伽代からの評価を上げた。顔が良いってお得。
お茶も飲んで、蒼は満足。
「じゃあ装備買いに行こうか」
「ぅぇ?」




