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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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22話:ダンジョンに行く約束

 神楽坂家のリビング。長女の蒼は家族の輪の中、慌てふためく。母はハイテンション、弟はしんみり。父は男泣き。

 なんなの!――そう言いたくなる蒼。

 どれから触れていいのかも分からない。特に母。普段のおっとりした仕草からは想像もできないほど俊敏になってしまっている。シュバシュバ動いてキッチンへ向かった。

 今の母に対して男陣は何も思わんのか?――そう思って振り返ると、頼りになりそうもなかったので途方に暮れる。


 なんでこんなことになるのか。ただ土曜日に学友と遊びに行ってくる、そう言っただけなのに。



 ソファでゴロゴロしていると伊波さんから連絡が来た。しばらくやり取りをしたあと、家族に伝えると急に大騒がし。晩飯は赤飯。


 母は自身の天然キャラを忘れてしまったらしい。父はずっと泣いてる。弟はなんか急に優しい。今日も赤飯。


 放課後、母に洋服屋へ連行される。しばらくお人形体験。父は以下略、弟がずっと優しいのムカついてきた。また今日も赤飯。



 1週間の学校生活を終え、始まる週末。

 伊波との約束がある土曜日の朝、蒼はいつもより早く起きていた。寝つきの良い蒼は、いつでもぐっすり眠れる健康優良児だが、今日はちょっと睡眠不足気味かもしれない。8時間は寝たが、それでもちょっと不安だ。もう少し寝ておこうか。


 何者かが扉を開けて入ってくる。

 見なくても分かる。こうやって二度寝しようとすると、決まって翠が起こしに来るのだ。


「あおいちゃん、そろそろ起きる時間じゃなぁい?」


 違った。母だ。

 珍しい。普段は二度寝なんて気にしないのに。

 両手に持った洋服たちが原因? もしかして、着飾って行けと? ダンジョンに?


 服を着せる手際のよい母。引っ張り出した姿見、あっという間にその目の前に美少女が降臨してしまった。元からだけど。

 服を着て終わり。そう思っていた。


「じゃあ次はアクセサリーね。お父さんの持ってるシルバーアクセさんたちだけどさ、ほらお父さんって顔が地味だから似合わないじゃない。あおいちゃんは美人さんだからきっと似合うと思うのー」


 哀れ顔が地味なお父さん。奥さんに似合わないとか言われて部屋の外で悲しそうにしていることだろう。


 お人形さんにできるのは、ただ時間が過ぎるのを待つだけ。意見なんてできようはずもない。蒼は諦めて着飾られていた。


 早起きして親に服を着せられる。何かに似ていると思ったら、初詣の着物と同じ感じだと気づく。


 ごちゃごちゃとしたアクセサリーを付けて、フル装備あおいちゃんが完成!

 黒くてヒラヒラしたお洋服さんは、さぞかし運動が苦手なことだろう。

 私これからダンジョンなんだけど?


 朝食は恒例となった赤飯。


 今日は一段と家族の様子がおかしい。弟は頑張れよと肩を叩いてくるし、父は急にお小遣いをくれる。母、その手に持ってる火打石はどこから引っ張り出してきたの?



 §



 連絡先を交換したその日、次の土曜日に一緒にダンジョンへ行こうという話を伽代からした。

 一時間後に蒼から帰ってきた返事は、『はい』の一言。

 潜るダンジョンはどこにしようか悩んで、蒼の方に合わせた方がいいだろうと思った伽代。


『普段蒼ちゃんが活動しているダンジョンでいい?』


 そう送ると、二時間後に蒼から『はい』と返ってきた。

 翌日になっても蒼が普段活動しているダンジョンに関する情報がメッセージアプリでメッセージされなかったため、伽代は授業の合間に蒼の教室まで行って直接聞いた。


「えぅ……あっ、すぐ近くのゴブリンダンジョンです」


 少し様子はおかしかったが、「じゃあ土曜日はそこに行こうね」と返しておく。


 ゴブリンかあ。


 多くの冒険者が最初に躓く壁、それは攻撃することへの躊躇い。

 戦闘の才能だとか、そう言ったものはもっとずっと後だ。


 生物への攻撃を苦手として、非生物的なモンスターが出てくるダンジョンばかりに潜る冒険者はいる。そんな冒険者はせいぜい上層で活動するのが関の山。

 それに攻撃を躊躇ったせいで怪我をすることもある。冒険者として頑張りたい伽代にとって越えなければならない壁だ。しかし今までゴーレムダンジョンで非生物モンスターばかりを相手してきた伽代にとって、いきなり亜人系のモンスターであるゴブリンは少々厳しい。


 土曜日までに、もう少し相手しやすいであろうドラゴンダンジョンに潜ってみようと考える伽代だった。



 小さなトカゲの睨み、肉を断ち切る感触、噴き出す鮮血。ゴーレムを相手していた時にはなかったそのすべてが、胸に重くのしかかる。

 しかし乗り越えなければならない。伽代は仲間が欲しいのだ。

 友達以上の何か、命懸けの状況で背中を預けられるような存在。そういったものが欲しい。

 モンスター相手じゃなくてもよい。相手が悪人だろうとエイリアンだろうと大自然だろうと、仲間や相棒と協力して苦難を乗り越える。それ以上に憧れるものはない。

 映画でよく観るそんな関係を夢見たのは、世界がファンタジーになるずっと前。


 昔から人と仲良くなるのが得意だった。誰とでもすぐに仲良くなれるのはちょっとした自慢。それに運動と勉強も頑張った。仲間を受け入れる準備はできている。


 趣味は読書と映画鑑賞、あとはダンジョンで自分磨き。将来の夢は映画に出てくるような仲間たちと、映画になるような冒険をすること。

 蒼ちゃんは私を友達って言ってくれた。私も蒼ちゃんのことを友達だと思っている。

 背中を預けられる、親友とか仲間の関係になるまであと少しだ。



 伸縮性に富んだロングパンツ、ちょっと大きめのパーカー。そしてスニーカー。パステルカラーでまとめてシンプルで可愛い、おしゃれを殺さずダンジョンでモンスターと戦えるファッション。服の下には防刃ウェアを着ているので、防御性能もばっちりだ。

 可愛くまとめた装備で、伊波伽代は街を歩く。蒼とダンジョンに潜るため、電車に乗ってやってきた。


 待ち合わせ場所である公園に、待ち合わせ時間よりも早く着いた伽代。ベンチにでも座っていようと考え、公園内を見渡す。

 三人程度が座れるベンチの端、きれいな姿勢で座っている少女を見つける。

 一瞬蒼かと思ったが考え直す。これからダンジョンに行こうというのに、ひらひらした服を着てくる訳がない。他人の空似だろう。


「お隣失礼するね」


 隣に座ろうとしながら横目で少女の顔を見る。

 顔を見た時に蒼かと思ったが考え直す。これからダンジョンに行こうというのに、指輪にネックレスとたくさんのアクセサリーを付けてくる訳がないからだ。


 いやいやしかし、だがとはいえ、二度見た少女の顔は待ち人にそっくりだった。もう一度よく見てみる。

 じっくりと眺めていると、横を向いた少女と目が合った。蒼だった。

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