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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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21話:見たことある知ってる人(知らない)

 ダンジョンで見かけた自分と同じくらいの年齢の少女。

 驚くくらい強かったけれど、それは声をかけた理由じゃない。何となく見ただけで、この人とは仲良くなれそうだと感じたんだ。

 同い年の冒険者、しかも一人で活動している少女とダンジョンで出会う確率は非常に低いはずだ。運命の出会いにも感じる。


 声のかけ方が悪かったのか、少女は名乗ったら帰ってしまった。仲良くなるのは得意だと思っていたから少し自信喪失。

 せっかくの出会いを無駄にしたのかとも落ち込んだ。



「あっ、湾中村山笹錦一ノ瀬さん」


 もしかしたら同じ学校かもね――とは言ったものの、本当に同じ学校だとは思わなかった。

 だから学校で再会したとき、運命を確信したんだ。この湾中村山笹錦一ノ瀬さんと再会した時に――。



 §



 まさか騙されていたなんて。

 こっちが湾中村山笹錦一ノ瀬さんと仲良くなりたいなと思っている間、湾中村山笹錦一ノ瀬なんて人物は実在していなかったのだ。

 私、怒ります!

 

 怒り心頭と言った様子の伊波に蒼はタジタジ。


「人見知りでね……急にね、声かけられたものだから慌てちゃってね、変な事を口走っちゃったんだ」


 申し訳なさとか罪悪感とか、その他諸々を煮詰めて固めたみたいな感情で、蒼は小さくなっていた。比喩である。

 比喩ではあるが、あまりにも身を縮こませて申し訳なさそうにするので、伊波は「背伸びしたら見下ろすことができるんじゃないか」と錯覚した。


 現在は体力測定の種目がすべて終わり、しかし時間はまだ残っているのでキャッチボールでもするかと教員の和倉が倉庫の鍵を取りに行ったところ。

 ビクビクしていた蒼に伊波が声をかけ、蒼の平謝りが始まったというわけだ。


「パーティを組むかどうかは置いておくとしても、今週末にでも一緒にダンジョンに行こうね! ア・オ・イ・ちゃ・ん!」

「はいぃ……」


 圧に押され折れる蒼。行けるとこまで行こうと伊波。


「じゃあ教室に戻ったら連絡先交換しようね。絶対だよ」

「……はい!」

「それにしても湾中村山笹錦一ノ瀬って何?」

「えっ……アッ……。インターネットのハンドルネームみたいなもにょだよ……」


 二人仲良く会話しているうちに和倉が帰ってくる。


「キャッチボールでもしようか」



 §



 教室に戻り着替えた後、教室までやって来た伊波と連絡先を交換する。

 連絡先に家族以外が並ぶのは、蒼にとって初めてのこと。


 自分から踏み出していないという点に目をつぶれば、蒼にとって大きな一歩だった。

 蒼にとっては大きな一歩だったのだ。精神的な疲労は体力測定と比べ物にならない。まだ心臓がドキドキしている。


 伊波が教室から過ぎ去ってもなお、扉の方を眺め続ける蒼であった。

 体力測定を終えて教室に戻ってきた生徒にびっくりされるまで扉を眺め続けた。



 午前中の授業を終えて昼休み、少女たちはそれぞれ仲の良い子と一緒にご飯を食べている。

 さて、ここで1年5組神楽坂蒼を見てみよう。

 机に広げたお母さんお手製のお弁当。綺麗な姿勢と箸使い、優雅に食べるぼっち飯。

 猫背気味な蒼は学校にいる間ずっと意識して姿勢を綺麗にしている。理由は単純。猫背だと人に話しかけられにくそうだからだ。


 話しかけようとしないで話しかけられるのを待っているから、いつまで経っても友達ができないんだよ――そんなお姉ちゃんの頑張りを無視するかのような弟の言葉に屈しないように、背筋を伸ばす。

 しかし、1週間ぼっち飯を繰り返してきて分かったことがある。

 ぼっち飯をしている最中に話しかけられることは無いということだ。これが悲しい現実。


 誰とも喋らないから、口は食べることに集中する。人より早く食べ終わる。

 冒険者になってから食欲が増えた。それも早く食べ終わる理由の一つだ。時間にして10分。なんなら今から食べ始める生徒もいる。友人と話し込んでいた生徒たちだ。蒼は嫉妬した。


 友人と食事を取る彼女たちを見ていると悲しくなるので、本を取り出し読書に移る。

 タイトルは『山月記』。相も変わらず内容はいまいち頭の中に入ってきていないが、せっかくなので文章に集中して内容を把握しようと努める。断じて目の前のクラスメイトが楽しそうに食事していて悔しいからではない。断じて。



 『隴西(ろうさい)李徴(りちょう)は博学才穎――』

 ふむふむ。


 『狂悖(きょうはい)の性は愈々(いよいよ)抑え難がたく――』

 ふぅむ。


 『監察御史(かんさつぎょし)陳郡(ちんぐん)袁傪(えんさん)――』

 ふむ?


 漢字が多くてよく分からないが、ここで諦める蒼ではない。かといって読みながら調べるような事はしない。とにかく活字を目で追うのだ。


「蒼ちゃん? 一緒にご飯食べよ」

「その声は我が友、李徴子ではないか?」


 あまりにも集中するあまり、つい声に出てしまった。周囲の生徒から一瞬注目を浴びてしまい、ヒュッと息を吸い込む。


「いいや、お友達の伊波伽代さんですよ~」


 気づくと目の前に伊波がいた。右手にはお弁当が入っているのであろう布袋を持っている。

 さっき連絡先を交換したばかりなのに、距離を詰めてくるのが早い。


 伊波の「山月記かぁ、いいよね山月記!」という言葉に弟と同じタイプかもしれないと身構える蒼。

 しかし構えているだけではダメだ。言わなければいけないのだ。


「お昼ご飯もう食べ終わっちゃった……。ほら、冒険者になってから食欲が湧いてくるから……サ」


 よし、言えた。

 ぼっち飯してたから食べ終わるの早かった訳じゃないんだからね、勘違いしないでよね。そんな思いを込めた言葉を、しっかりと伊波に届けた。


 悲しそうに「そうなの?」と言い、読書の邪魔になるからと自分の教室に戻っていった。

 悲しそうに出ていく伊波を見て、蒼は悲しくなった。食事しながら話し相手になってくれないかなと思ったが、蒼にここで引き留める勇気はない。

 しかし蒼は決意した。明日は伊波さんが来るまで待とうと。そして一緒にご飯を食べるのだ。



 次の日。伊波はクラスメイトと食事をとる約束をしていたので、蒼の元には来なかった。

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