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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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20話:見たことある知ってる人

 体力測定二日目。蒼は中学生の頃に使っていたジャージに着替えて、一人グラウンドに向かっていた。

 一人で向かっているとは言っても、今日の体力測定はぼっちではない。他クラスの生徒と合同という話だから、今日こそは友達を作るぞと意気込んでいた。


 グラウンドに直立しているマッスルな女性。彼女の名前は和倉。


「誰もいない……」

「私がいる。他の生徒はまだ来てないだけだ」


 他の生徒が来るということを聞いて、身体を固くする蒼。

 勇気を出して声をかけるぞ。

 意気込みつつも、気合が空回りしにないように気を付けなければ。


 少し緊張しつつも、昨日来ていたジャージがボロボロになったので中学時代のものを着てきたと報告する。後から怒られるのは嫌なので先に言っておくのだ。


「担任の先生から聞いてるよ。それにしてもお前くらい身体能力が優れていると昨日のだけでジャージがおしゃかになるんだな」


 そうなんです私身体能力優れているんです。そう鼻を伸ばしたいところだったが、目の前にいるゴリラ――げふんげふん、女の方がフィジカル強そうだったので諦めた。


 褒められてうれしかったので、照れ隠しにそっぽを向いた。その時ポケットに手を突っ込んだのだが、……右手に嫌な感触が走る。


 右手がつかんだとんがり左耳。そういえば翠にチキンのお礼として渡して強制返品されたのをポケットにしまったまま忘れてた。洗濯した母も、着替えている最中の私も気づかなかった。


 形状は普通にゴブリンの耳、ただし触り心地が変。カサカサした表面はミイラ化の兆候だろうか。軟骨的な弾力性がなくなり、不出来な革細工のよう。


 ダンジョン産の生鮮は魔力とやらを帯びていて腐敗しにくいというのは結構有名。ニュースでよく取り上げられているし、地上産の食品にも適用できないかという話は良くある。ゴブリンの耳は放置していると革みたいになるのだろう。腐敗しなくて良かった。

 ゴブリンからドロップした体の一部は粉末状にして使用するらしいし、案外適当に放置してから砕くのかも。今度ダンジョンに行ったときに買取所のおっちゃんに見せてみよ――。


「あっ、湾中村山笹錦一ノ瀬さん」


 聞くはずのない名前で呼ばれて振り返る蒼。脳内はハテナがいっぱいである。


 後ろにいたのは、いつぞやのゴーレムダンジョンで出会った伊波伽代という少女だった。相対するは湾中村山笹錦一ノ瀬――もとい蒼。


 前回会った時は肩にかかるかどうかぐらいのミディアムショートだったけれど、今はショートボブといった具合。髪切った?

 現実逃避気味に観察を始めるが、ふと我に返って脳内で慌てふためく。


 そういえば変な名前だけ告げて逃げちゃったんだった! やっぱり謝罪ッ!? 逃げてごめんなさいって謝罪すべきかなぁ!?


 ドタバタと脳内を走り回るぬいぐるみサイズのイマジナリー蒼だったが、蹴躓き転んで唐突に現れたタンスの角に向かって小指をフルスイングしたことで、逆に冷静さを取り戻した。

 今の自分は、今までの自分とは違う。ダンジョンで鍛え、色々な人と交流したのだ。それに昨日と今日、教員の和倉と案外喋れていた。私のコミュニケーション能力は成長しているのだ!

 気を取り直し口を開く。


「ショートボブとても似合ってて可愛い」


 ……???

 本当に冷静になっていたのかは疑問が残るところ。

 場は完全な静寂と化す。


 (どういう風に謝ろう?)

 (急にナンパみたいなこと言われた?)

 (湾中村山笹錦……一ノ瀬……?)


 三者三様に困惑。


 謝罪法について悩む蒼は、土下座するかただ頭を下げるかと考えていて、もはや目の前すら見えていない。

 唐突なナンパ発言に驚きの伊波伽代。

 人名というよりも呪文に近いナニカを聞いて、思考が止まる教員の和倉。


 最初に復帰したのは和倉だった。


「とりあえず――柔軟体操をしようか」


 その一言で伊波は訂正される機会を、蒼は謝罪の機会を失った。

 しかし授業なのだから仕方ない。時間内に用意されている種目を終わらせなければならないのだ。



 柔軟体操を始めるというのにこの場には二人しかいない。冒険者とはそれほど珍しいものなのかと驚く蒼と対照的に、伊波は特に疑問には思ってなさそう。


 体操で体を慣らしてから、指示されるままにスタートラインに立った。最初の種目は100m走。

 100m先にいる和倉の合図で二人同時に走り出す。10秒程度で駆け抜けた蒼。少し遅れてゴールした伊波。

 その後4回は100mを走らされたが、そのすべてで蒼が勝利した。


 見たか、これが中の上の実力だ!

 格好が付かないので口には出さない。


 その後に走り幅跳び、シャトルランとサクサクと進めていく。

 100m走も走り幅跳びも特筆すべきようなものではなかったが、シャトルランはだいぶ特徴的だった。

 冒険者向けということなのか、距離が思っている倍以上あった。50mくらいだろうか。本来であれば持久力の評価以前にドレミの音源が聞こえないという問題が出そうなものだが、ポータブルスピーカーを抱えた和倉が併走したため聞き逃すことはなかった。

 伊波が脱落して、しばらくしてから蒼も脱落して、和倉は音源を止めた。肩で息をする二人の前で、平然とした様子で「神楽坂は身体能力特化みたいだからな、伊波は気にするなよ」と語りかける和倉に心が折れそうになる蒼。伊波は全然気にしてなさそう。


 これが真の冒険者! 圧倒的な差を見せつけられて悔しい。


 伊波さんは全然落ち込んでいない。身体能力よりもスキルよりのタイプなのかな?


 続きまして最後の種目、ハンドボール投げ。

 和倉の「最後だから頑張れよー」という言葉を受けて、ふんすとやる気を出す蒼。その隣では伊波もやる気だ。


 交代で投げて、3周したところで終わり。計測を終えた和倉が二人の元に帰ってきた。

 3回投げて最も良かった記録は55m。好記録に沸き立つ脳内のオーディエンス。蒼は元からボールを使ったスポーツが得意なのだ。コミュニケーション能力がカスなので球技自体は苦手だけれども。


「先生は……投げたらどれくらい飛ぶんですか?」


 中々に良い記録だったので調子に乗った蒼は、私の55mを超えてみろよとの意思を込めて和倉に聞いた。そういうとこあるよね。

 調子に乗り過ぎて人見知りという属性が消滅してしまったようだ。もしかしたら人見知り克服に良いことなのかもしれない。そして調子に乗り過ぎて考えるということを放棄したらしい。これは悪いことかも。

 考えるまでもなく蒼と目の前の女では腕の太さが倍近く違う。考えれば分かることだが、蒼よりも目の前の女の方がパワー型だ。

 それは適当に投げたボールが101mを記録したことで証明された。


 蒼は落ち込んだ。これ以上ないほど落ち込んだ。


 めっちゃ私強いじゃんw 中の上とは言いつつも、実力は結構あるんだよなあ。

 昨日今日の体力測定でそう調子に乗っているところがあったが、きれいに叩き直されてしまった。

 調子に乗らないでこれからもがんばろ。


 和倉智代は冒険者歴四年のベテランだ。同じ身体能力に特化したタイプなのだから、ダンジョンに入って一か月も経っていない蒼が勝てるわけがないのだ。



 §



 姉の様子がおかしいと訝しむ翠。

 いや姉は元からおかしな人間ではあるが、今日は一段と様子がおかしい。

 両手でスマホを抱え、ソファで転がりながら変な声を出してニヤニヤしている。ドヤ顔というかニヤニヤとした笑みというか、だいぶムカつく顔だ。

 本気でストレスを感じるわけではないが、それはそれとして一発くらい叩いても良いんじゃないかと思わせる顔。天賦の才だろうか。


 こういった表情の姉はたいてい調子に乗っている。そして、調子に乗った姉はロクなことをしない。

 関わらないのが吉と見た。


 それはそれとして珍獣を眺める気持ちで見ているとなかなか面白い。

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