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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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19話:何故か一人だけ違う場所

 ふんすと意気込む少女。彼女は蒼。

 対人能力が致命的なことを除いて、それなりに人間としてのスペックは高い。スペックは高いが精神は残念な中二病。総合してプラスマイナスぎりマイナスといったところ。

 そんな彼女が意気込んでいる理由は、今日の体力測定で友達を作るためだ。


 体力測定、長い待機時間、隣の生徒との会話、育まれる友情、からのぼっち卒業。

 線で繋がっていない点と点。繋げ方は分からないが、行動あるのみ。


 ぼっちを卒業してやるぜー!

 静かに着替えているように見えて、脳内ではテンション高め。約束されし将来の残念美人っぷりが滲み出る。


 体操服の上にジャージをまとう。

 春の暖か陽気に照らされても長袖長ズボンを好む。寒いわけでも肌を出したくない理由があるわけでもない。しかしそれでも夏が始まるまではジャージを手放さない。それが陰キャの在り方。


 着替えを終えていつも通り難しい本を内容も分からず眺めていると、教師が入ってきていよいよ体力測定へ。

 頑張るぞ!――そう自身を鼓舞しているところに教師からの声がかかる。


「神楽坂は体育館の和倉先生のとこに行きな」

「ッ!? はい……」

「他のやつはグラウンド集合な」



 §



 何故か一人だけ違う場所に移されての体力測定。

 さっきまでの意気込みは無に帰する。しなしなと落ち込んだ蒼に待ち受けるは担当の和倉。


 和倉は筋骨隆々の逆三角形レディ。髪は首元で綺麗に切り揃えられている。

 教師というよりもスポーツ選手のような彼女は、他に誰もいない体育館でひとり蒼を待っていた。


「……失礼しまーす」


 一人呼び出される理由が分からない蒼は、不安を感じながら体育館へ入っていく。

 数年前に施設が一新されたこの学校は体育館も新しいので、扉を開けてもほとんど音がしない。

 中学の頃のガラガラと音のなる扉が懐かしい。そう過去の記憶に思いを馳せて目の前の現実から逃げたくなる。蒼は体育は得意だが体育会系の人は苦手だ。その大半が陽の者故に、そして距離感が近いが故に、人見知りにとって苦手な人種なのである。


 扉が開く音で、これから担当する生徒がやって来たことを知る。

 体育館の入り口から顔を覗かせる少女は、自信なさげに近づいてくる。


「初めまして、担当教員の和倉智代(わくらともよ)だ。よろしく」

「神楽坂蒼です……」


 マッスルな彼女のマッシブな手を恐る恐る握り返す蒼。


 握り潰されそう……。


 そして始まる体力測定――とはいかない。

 なぜ自分だけひとりにされたのかを分かっていない蒼は、勇気を出して質問してみる。


「なぜ私だけひとりなんでしょうか……」

「それは決まっているだろう。神楽坂が冒険者だからだ」

「……???」


 蒼の脳内に疑問符が浮かぶ。

 冒険者だから何なのか。他の冒険者はどうしたのか。満足して話を終えないでもらいたい。


 蒼の疑問が伝わったのか、説明を続けてくれた。


「冒険者は普通の人間よりも身体能力が優れているから、他の生徒と同じ事をしても意味ないんだ。危ないしな。だから他の生徒とは別で体力測定をするんだ」

「これまでの授業は一緒だったのに」

「まあ身体能力と共にコントロール能力も向上するからな。全力を出したりしない限り怪我をさせることはさ。間違っても喧嘩で全力を出すなよ。体力測定では存分に頑張ってくれたまえ」

「……ぼっちかぁ」

「安心しろ私がいる。それに明日は他クラスの子と合同だ」


 今日の種目は長座体前屈、握力測定、立ち幅跳び、垂直跳び、上体起こし、反復横とび。それと普段の冒険者としての活動に関する面談だという。

 別にそれくらい他の生徒と一緒にやらせてくれても良いじゃない。そう思わなくもなかったが、シンプルに和倉先生が強そうだったので反発しないことにした。体格からして強そうだけれど、それだけじゃない雰囲気を持っているんよな。もしかしてダンジョンに潜っている人なのだろうか。


「特別技能教員として派遣されているダンジョン指導官だ。現役の冒険者でもある」


 ダンジョンに潜ってる人なんですか? そう聞こうとすると、答えが帰ってきた。


 師匠と同じダンジョン指導官。仕事内容は異なるっぽい。

 

「普段は少し離れたところにあるドラゴンダンジョンの下層で主に活動している」


 最後の一言は少し自慢げに見えた。

 私としてはかなり会話ができている。なぜだろう? 目の前にいる人とクラスメイトたち、その違いを考えてみても、筋肉量の違いくらいしか思いつかない。意外と私は筋肉に対する適応力があるということだろうか。後はこの人が冒険者で……!!! 冒険者ってクラスに私しかいないのか。

 なんで? ダンジョンってホットな話題じゃないの?


「話題としてホットなのはダンジョン系の動画投稿者とかダンジョンで手に入るアイテムや素材だろう。実際にダンジョンに入って活動する人間は少ないんじゃないか?」


 事務職じゃないからそこら辺分からないな。そう言って用意していた椅子に腰を掛けた和倉先生は、もう一つの椅子に座るよう勧める。


 私の冒険者になって友達いっぱい作戦はどうなるのか。

 共通点をきっかけに会話を始める。その作戦が失敗したことに落ち込む蒼。共通点でなくとも会話のきっかけになるんじゃないかとは考えもしない。


「それじゃあ始めようか。まずは面談だな」


 それが最初なんだ。一番体力測定っぽくないやつだ。



 普段活動しているダンジョン、どのくらいの期間冒険者として活動しているのか、成長の傾向。そういう内容について質問され、回答し、さらに質問される。


 これは意味あるのだろうか。組合の方で調べればすぐに分かりそうだ。

 成長の傾向が身体能力に偏っているという話をすると、和倉先生は少し嬉しそうにした。おそらく和倉先生も身体能力に偏っているタイプの冒険者なのだろう。あの笑顔は同類を見かけたときのものだと思う。


 柔軟体操を終えた後、蒼は言われるがままに長座体前屈、握力測定、立ち幅跳びとこなしていく。

 長座体前屈は普通。平均より少し柔軟といったところ。

 握力は右が48kg、左が45kg。平均よりも上とはいえ、飛び抜けているわけではない。

 一言で言うと、パッとしない結果だった。

 もっと数値的に分かりやすい成長を期待していた蒼にとって、あまりテンションの上がる内容ではなかった。


 ダンジョンの恩恵が目に見えて分かるようになったのは立ち幅跳びからだ。

 記録は289cm。15歳の少女の記録としては破格だろう。

 93cmの垂直跳び。頑張ればダンクシュートできるかも。

 立ち幅跳びの記録と合わせて、身体能力の中でも脚力が優れているのではないかと和倉の見解。


 上体起こしは68回。薄っすらと割れた腹筋、触るとぷにぷに。けれど意外と高性能。

 シュバシュバ動く反復横とび。85回の好記録。

 好成績の裏には犠牲あり。蒼のジャージは限界を迎えていた。上体起こしで引き伸ばされた背中側、各種跳び運動で酷使されるズボンの縫い目。しかしもう大丈夫。今日の種目は全部終わったのだから。


「じゃあ次は反射神経とスキルを見ていこうか」


 ――!?

 まだまだ続くよ体力測定。最初に言ってなかったじゃん!


 反射神経とスキルのテストが追加され、特段疲れていない身体と限界を迎えそうになっているジャージに負荷をかける。

 反射神経はボタンとランプを3つずつ使ったのもので、右のランプが光ったら右のボタンを押し、真ん中のランプが光ったら真ん中のランプを押す。飛んでくるボールを避けるとかのテストを期待していた蒼はガッカリ。もっとカッコいいのがよかった。

 平均91ms。これがどのくらいの結果なのかは蒼には分からぬ。普段計ったりすることなどないゆえ。


 続きましてスキルのテスト。危険なスキルや未知のスキル以外のものを担当教員に従って使って見せる。

 世間一般のそのスキルを使っている人と比べて、どれくらいスキルを使いこなせているかを記録する。教員の主観に引っ張られてしまったり、そもそもこの記録の使い道が決まっていなかったりする点はあるが、担当教員としては楽しい項目だった。


「持っているスキルは転移だけだったよな? ここで使っても問題ないスキルだから、発動させてみてくれないか」


 蒼の持っている転移は準備が必要なスキルでもないし、使うと危ないスキルでもない。転移以外にスキルも持っていないのだから、和倉の目の前で数回転移して終わりだった。


 普段使いしている1mmとMAXの1cm。その二つを見せたところで十分だったが、何か質問はあるかと問われたので、スキルが連続で発動する事について聞いた。

 実際にやって見せようと思い、目の前で10mほど連続移動を繰り返して和倉の方へ振り向く。

 和倉の方を向きながら盛大に転んだ蒼。ドヤ顔は地面とぶつかり無に帰る。

 何故こんなに連続でスキルが使用できているのかという蒼の質問に対して、和倉はあごを撫でながら答える。


「私の仲間に腕力強化のスキルを持っている奴がいる。そいつの得意技に、連続で腕力強化を発動してゴリラ並みの力でごり押すってのがある」


 あんたが言うのか。そう思ったが、口には出さなかった。

 女性に対してゴリラと言うのは失礼だと思ったからだ。ゴリラ並みの腕力を発揮しそうな太い腕が怖かったからではない。


「脳みそに筋肉が詰まっているような奴だ、多分スキルの発動回数なんかは考えないで使ってる」


 あんたが言うのか。そう思ったが口には出さなかった。

 脳筋って言ったら失礼だと思ったからだ。決して、脳筋を怒らせると恐そうだったからではない。


「私は任意で発動するようなスキルを持っていないから分からないが、スキルってそういうもんなんじゃないか?」


 結局謎は解けてない。

 相談した相手が悪かった可能性もあるが、そもそも多くの人はスキルについてあまり深く考えていないのかもしれない。完全に物理法則を無視しているし。



 ひとり体力測定を終えた蒼は、とぼとぼと教室に帰る。クラスメイトよりも早く終わったらしく、教室には誰もいなかった。


 着替えようとジャージを脱ぐと、ズボンの縫い目がボロボロになっている。普通のジャージは冒険者の身体能力について来れなかったようだ。

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