表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/33

18話:気付けば自然と

 月曜日、慣れてきた通学路を通り登校。いつもの教室に入り、自分の机にリュックを置く。


 友達は欲しいが声をかける勇気はない。声をかけられるのを期待しつつ本を開く。表紙に躍る活字は『罪と罰』。蒼が持っている本ではなく、弟の翠の本だ。借りて学校に持ってきた。理由はなんかカッコいいから。内容はあまり理解できていない。

 本を開きつつも、視界の端で周囲の様子を伺う。


 ここに暇そうなクラスメイトがいますよ~。声をかけて~、友達になって~。

 受け取り手のいない念は、春風に吹かれて窓から何処かへ飛んで行った。

 結局誰からも声をかけられることがなく、ホームルームが始まり、授業が始まる。



 §



 ある人から見ればホラーチックな無感動な笑顔でも、ある人から見ればアンニュイで神秘的な笑顔である。

 ある人にとっては下手くそなナンパ的トークでも、ある人にとっては美少女によるあなたと仲良くなりたいです的トークである。


 蒼の隣の席の稲村きな子(いなむら きなこ)

 隣の席のアンニュイで神秘的な美少女によるあなたと仲良くなりたいです的トークは、彼女のハートにクリティカル。蒼への好感度が1上がった。


 目を隠す長い前髪が特徴的な稲村は、典型的な人見知りであった。

 もしも稲村が人見知りでなければ、蒼と上手く会話が続いたかもしれない。もしくは、蒼が外面を取り繕うことなく普通の人見知りとして接していたならば、後に稲村から声をかけて来たかもしれない。しかし現実はそのどちらでもない。

 互いに人見知りであり、蒼は取り繕うのが上手かった。


 人見知り同士の会話は長く続かない。その結果、蒼はナンパみたいな会話になったと落ち込んだし、稲村は蒼の本性を見極め損ねた。


 蒼がウッドゴーレムダンジョンで少女に声をかけられた時の『自分とは住む世界が違う』という感覚、それを稲村も感じた。蒼の場合は偽りの姿だが、稲村には分からない。

 住む世界が違うという思考の壁は、高く高く立ちはだかる。その壁を取り払うことができない限り、両者の距離が縮まることは無い。



 姿勢が良いので実際以上に高く見える169cmの身長。堂々とした(ように見える)立ち振る舞い。(中身はともかく)見た目は美少女。思春期の感受性豊かな精神に、クール系美少女は深々と突き刺さる。

 憧れるのと似た感情。稲村としては、新しく推しを見つけた気分だ。

 蒼が取り繕った外面がそうさせるのか、それとも冒険者として活動するうちに覇気のようなものを手に入れたのか、それは誰にも分からない。


 難しい本を読んでいるし頭もよさそう……。無理に周りに合わせようとしない姿勢、カッコいい……。

 これがクラス内での平均的な評価。蒼本人がどう思うかはともかく、クラス内では好印象。

 ぼっちではなく孤高、避けられているのではなく憧れられている、高嶺の花的存在になりつつあった。まあ実態はぼっちである。

 周囲に人がいないため高嶺の花。高嶺の花ゆえ近寄りがたい。ぼっちがぼっちを加速させる、その現状に未だ蒼は気付かず。



 蒼にとって不運だったのは、取り繕うのが上手すぎて誰も蒼の本質を見抜けなかったこと、意味も分からずに難しそうな本を読んでいるくせに学校の勉強は得意だったこと。欠点でもあれば距離を縮めやすかったのに欠点らしい欠点が外面にはないこと。


 ラノベの主人公に憧れる蒼だが、まさか自分がラノベによくいる運動もできて勉強もできる文武両道系高嶺の花ヒロインに近づいているとは思ってもいない。本当に運動も勉強もできることが事態に拍車をかける。


 蒼が勉強を得意なのは、他者が言ったことを細かく覚えれるという特技があるからだ。これは、人の言うことをちゃんと聞いて覚えておけば仲良くなるきっかけになるかもしれないと練習して手に入れた特技。

 授業で説明された問題の解き方は覚えている。そのため学校の勉強は得意だ。

 応用問題とか習っていない問題は苦手。それと本人がボーっとしていたら覚えていないし、聞き取れなかったら意味がない。今のところ英語の聞き取りが一番苦手。


 運動神経が良いのは生まれつき。弟の翠も運動が得意。

 ダンジョン関係なくスポーツ万能少女だったので、中学の頃は本当に高嶺の花だった。主観ではぼっち。

 弟なんかはスポーツ万能な上にコミュ力もあるので、めちゃくちゃモテる。友達も多いし。



 数学の授業中、蒼は当てられてもスラスラと答えられる。

 蒼が苦手なのは人とのコミュニケーションである。クラスメイトに注目されると厳しいが、授業中なのでクラスメイトは板書と計算に忙しい。教師も答え以外のコミュニケーションを蒼には求めない。蒼的にはやりやすい。

 そんな姿が、蒼を高嶺の花に一歩近づける。


 元から運動が得意で、今となってはダンジョンの恩恵を受けている。体育の授業では敵無しだ。

 と言ってもまだ体育の授業は軽いものばかり。ストレッチやラジオ体操、授業のイメージを掴むための内容が多い。従って蒼が目立つようなことは無かったのだが、本日の内容はトラックでランニング。

 真面目に授業を受けるいい子ちゃん蒼は、ちゃんと走る。そうなればトップを独走。ダンジョンの恩恵によって、身体能力はスポーツ推薦の学生を優に超えるレベルになっている。


 文武両道高嶺の花、そんな少女には様々な感情が向けられる。尊敬だったり嫉妬だったり、ポジティブネガティブ両方だ。中学の時と同じように、高嶺の花に近づいていく。



 §



 学校に慣れてきて――ダンジョンの恩恵もあるのかもしれない――学校が終わっても元気が有り余っていた。普通の学生であれば放課後に友達と遊んだりするところ。ぼっちの蒼は一人でダンジョンに向かうことにした。


 放課後にダンジョンに潜るのは初めて。せいぜい二、三時間くらいしか入れないのに、わざわざダンジョンまで行かなければならないのは蒼にとって非常に手間だったからだ。

 出不精にとっては、徒歩10分の距離は十分な手間なのである。


 いつも通りの冒険者組合の建物に入り、いつも通りに受付嬢のお姉さんに挨拶し、いつも以上に心配してくる受付嬢のお姉さんに手を振ってダンジョンに入場。

 どうやら受付嬢のお姉さんは早くパーティを組んで欲しい様子。結婚相手を見つけてきて早く結婚しろと言う親戚のように、パーティメンバー募集中の冒険者の資料を見せてきた。蒼にはそんな親戚はいないので新鮮だった。

 高校生の結婚相手を見つけてきて早く結婚しろと言ってくる親戚はそりゃいないか。洞窟の中で独り言が反響する。


 一度ダンジョンから出たら、次に入るときは最初から始めないといけない。

 漫画やラノベにありがちな前回攻略した場所から始められるような、セーブポイントのような便利なものは存在しない。あったとしても発見されていない。

 魔法みたいな事象はあっても魔法は無いし、あまりファンタジーできてないんだよな、ダンジョンって。

 魔法使いてぇと冒険者になり、後から調べたら魔法らしいものが無いと知ってガッカリした蒼は、今しがた倒したゴブリンの死体が光になって消えていくというファンタジーな現象は無視してダンジョンに文句を垂れる。


 蒼が未だにスキルを一つしか持っていないのも不満の理由かもしれない。ファンタジーを感じたくて冒険者になったのに、転移しかスキルがなくてファンタジー感が不足しているのだ。

 転移も十分ファンタジーじゃないかと、宥めることはできない。蒼の転移はMAXで1cm、普段使いできるのは1mmだ。ファンタジーなんて残り香ぐらいしかない。


 ゴブリンを見つけたので、一緒に左へ1mm転移する。

 案の定たたらを踏んでそのまま転んだので、蹴り殺す。水風船が割れるような感触がして、しばらくして光になって消えた。

 もはや最上層のゴブリン相手にはナイフが無くても問題なくなった蒼。これは舐めプではない。この前のように武器を失っても戦えるように練習しているのだ。



 冒険者組合の公式サイトでは、スキルの説明以外にもモンスターの情報やダンジョンの地図を見ることができる。

 今まで攻略サイトを見るみたいで気が進まなかった蒼だったが、1週間ほどダンジョンに潜っていなかった間に少し見てみた。その時に気づいたのだ。これ便利じゃん……と。


 ダンジョンに入ってから適当に歩いてゴブリンを倒していた蒼。今まではそれでもよかった。どうせ1層と2層以外に行かないし、何よりゴブリンダンジョンは遭難するほど大きくはないからだ。

 ところが今となっては、最上層のゴブリンでは蒼の敵にはならない。早く上層に行きたいと考える蒼にとって、次の層への最短ルートを知ることができる公式サイトの地図はちょうどよかった。ゴブリンダンジョンの4層までの地図を数枚の紙に印刷してきた。


 1層から2層に続く階段を下りて、すれ違ったゴブリンをボコしながら3層へ続く階段へ向かう。

 ダンジョンにもよるが、基本的には階層間を階段が繋いでいる。1層と2層の間のは階段というよりいい感じに凹凸の付いた坂道といった感じだが、お城の内装風の見た目になっている上層は普通に階段。

 ほら目の前に見えてきた。


 攻略サイトにマジ感謝。

 組合の公式サイトのお陰ですぐにダンジョン最上層を抜けた蒼は、戦う相手を求めて歩き出す。



 上層のゴブリンは安易に近付いてこない。武器を構えてこちらを警戒している。


 ゴブリンが適当な距離に入ったところで転移を発動。転移に巻き込まれバランスを崩すゴブリン。すかさず脳天直下踵落とし。


 さすが上層のゴブリン。耐久力が高いようで、先ほどのゴブリンのように破裂したりはしなかった。それどころか、すぐに意識を取り戻して蒼を睨みつける。

 反撃をされても面倒なので、頭を掴んで壁に叩きつける。何度も。


 やがて手足を震わせ、ゴブリンは光となって消えていった。


「これは……なかなか良い成長スピードなのでは!」


 蒼は独り言で自画自賛を始める。

 気付けば冒険者になって3週間が経っている。この3週間であっという間に強くなった。戦いのセンスも磨かれてきた気がするし、ゴブリンを水風船のように弾けさせるだけの膂力も得た。他の冒険者の強くなるスピードなんて蒼は知らないが、それでも自分の成長は早いと思う。

 ダンジョンから出たときに受付の飯島さんに聞いてみよう。そう決めて、次の標的を探すべく駆け出した蒼だった。



 §



「中の上……。中の……上」


 たった二時間半だったがそれなりのゴブリンを倒して出てきた蒼は、現在の自分の強さがどれくらいのものかを聞いてみた。飯島は少し悩んだあと、満面の笑みで「中の上ってところかしら」と答えた。

 それが、蒼が呆然とした表情でのそのそと帰路についている理由だった。


「私に直接的な強さは分からないけれど、攻略のペース的にはそれくらいはある。すごい良いペースよ。試験もちゃんと受けてたし」


 飯島の詳細な説明は、「上の上……いや、過去に前例がないくらいすごいわ!」とでも言われるかと期待していた蒼のショックで聞き流されていた。


「ちゃんと最上層で慣れるまで活動してたものね。えらいわ。アオイちゃんみたいな偉い子が増えたらダンジョンでの死亡率もさらに下がるのにねー。ところでさ、さらにパーティを組めば安全に――」

「また来ます」

「――ばいばい、アオイちゃん」


 パーティについて言おうとしたら、帰っちゃった。でも今日はいつもより会話ができた! 懐かれてるってことで良いのかしら!

 一人テンションを上げる飯島であった。



 中の上ってことは、だいたいの人と同じような程度ってことだ。会話のきっかけには弱い!

 ダンジョンに関する話題は人気。冒険者になってダンジョンについて詳しくなり、共通の話題でクラスの子と仲良くできたらなという考えも蒼をダンジョンへ向かわせた大きな理由だ。もちろんファンタジーへの憧れもあった。

 蒼は自分は会話が苦手であるということを自覚している。共通点をきっかけに会話を始めても、その会話を長く続けられる自信がない。もし自分が冒険者として他の人よりも突出しているのであれば、相手からの質問や自分からのアドバイスを交えることで、それなりに会話を続けられるのではないかと思った。ダンジョン攻略を手伝うという名目で一緒にダンジョンへ潜れるかもと考えていた。もちろんチヤホヤされたかったというのもある。


 すごーい。偉い! さすが。

 クラスメイトにそうチヤホヤされる妄想は打ち砕かれ、一人さみしく帰る蒼。蒼の冒険者カミングアウトはしばらく先になりそうだ。

 どうせならチヤホヤされたい。蒼はそういうタイプの少女だった。

 チヤホヤされながら一緒に冒険とか行きたい。一度打ち砕かれた妄想が息を吹き返し膨らみ始める。


 いい感じに妄想の二次発酵が進んだタイミングでただいま。



 §



 夕食後の神楽坂家のリビング。長女の蒼を家族総出で励ましている。

 事の発端は、夕食中に蒼が洩らした一言に反応した天然母、その一言がクリティカル。


「今年中に友達作りたいよぉ」

「友達は作るものじゃなくて、気づいたらできてるものなのよ」


 良いこと言った! そう満足気の母親とは異なり、長女はさらに落ち込む。


「気づいたら中学三年間ひとりぼっちだぁったよぉ」


 彼女の心を深く抉った母親、それを見ていた父親と弟が慌てて宥める。


「中途半端に強くなって、友達はゼロの悲しきモンスタぁ」


 悲しきモンスター娘蒼は友達を作れない自分を恨み、勇気を出してパーティとやらを組んでみるかと勇気を出す。


 ……。足を引っ張ったら申し訳ないのでもうちょっと鍛えてからにする。

 そうやって後回しにするのが得意な蒼であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ