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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
第二章 友達つくろう高校生活

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16話:試験

 午前中で学校が終わり、午後はダンジョンに潜る日々が続いた。

 しかしそれは金曜日まで。月曜日からは普通の授業が始まる。今までのようにダンジョンに潜ってばかりではいられない。


 たいして意味のない規則だが、上層に潜る許可を得るために試験を受けることにした。

 土曜日に丸一日ダンジョンに潜った後、上層に潜るための試験を受けたいと飯島に言った蒼は、その翌日にこうして試験を受けに来た。


 今日でダンジョンも潜り納めか。……潜り納めって表現合ってる?

 蒼は受付嬢の飯島の前、一人脳内で呟いていた。どうせ来週もダンジョンに入るのに。


「じゃあ、処理は終わったから、続きは帰ってきてからね。指導官の指示にちゃんと従うのよ」


 気をつけてね。そう繰り返す飯島に手を振り、指導官と共にダンジョンへ入っていく蒼。

 一緒にダンジョンに入る指導官は杉野斎。蒼が冒険者の資格試験を受けた時、実地試験を担当した職員だ。まだ二回目なので蒼は緊張気味。


「いいか嬢ちゃん。ダンジョンってのは思ってる以上に危険なところだ。まあ最上層は基本安全だが、上層より下となると話が変わる」


 杉野が前を歩きながら話しかけてくる。

 蒼は「わかります、弓持ちとか結構危ないですもんね」と返そうとも思ったが、杉野とはほとんど初対面みたいなものだし話を遮るだけのコミュ力が蒼には無かったので、無言で背中を追いかけた。


「飯島から聞いてるとは思うが、これから上層でモンスターと戦ってもらう。最初の時の実地試験となんら変わらん。リラックスしてけ」


 リラックスさせるために小粋なギャグでも、と思って振り向いた杉野は、興味津々といった様子で辺りを見回している蒼を見てため息をつく。


「流石にちょっとは緊張してこうぜ。上層からは遠距離攻撃持ちも出てくる。最上層とはダンジョンの見た目が急に変わって気になるのは分かるがな」


 俺も昔は同じような感じだったよ。と続きそうになった言葉を切り、代わりに立ち止まって別の言葉を続ける。


「ようこそゴブリンダンジョン上層へ。最上層の洞窟から打って変わって、王が不在の城だ」


 体を蒼に向け、両手を広げる。

 キマった! ニヒルな笑みを浮かべている杉野。その頭の中ではカッコいい先輩冒険者感を出せたと喜んでいる。


 ハードボイルドなポーズとトーク。芝居がかった言動に、普通であれば「なんだコイツ」と思うところ。しかし今の言動がどれだけ蒼に刺さったかは彼女の目を見れば分かる。「ふおぉ!!!」と声を上げ、過去一番の目の輝きよう。


 杉野斎と神楽坂蒼は、同じタイプの人間だった。



 §



 いくら元ベテラン冒険者といえど、モンスターに警戒しなくて大丈夫なのだろうか?

 そんな心配は必要ない。

 ダンジョンの階層間はモンスターの発生しない安全地帯。現在二人のいる2層と3層の間も言わずもがな。

 杉野はわざわざハードボイルドなポーズを取るために3層の安全地帯ギリギリまで歩いてきて、視界内にモンスターがいないことを確認してから実行に移した。これぞ計算されしハードボイルド。


 最上層と上層の間であるこの安全地帯は、最上層の洞窟の通路と上層の城の通路が融合したような見た目になっている。ようこそと両手を広げている杉野の向こう側には完全な城の通路が続いているが、蒼は多分気にしていない。杉野のハードボイルド系言動に心を引かれている。


「カッコいい!」

「そうかそうか、嬢ちゃんにはこのカッコ良さが分かるか」


 同士を見つけたとでも言いたげな杉野は腕を組んで上機嫌。

 飯島を筆頭とした受付嬢たちに「なんだコイツ」という視線を向けられた経験、それが一度や二度ではないのが影響しているのかもしれない。

 蒼が彼に懐いているのは、弟に「なんだコイツ」という視線を向けられたことがあるからかもしれない。


 上機嫌の杉野は、一周回って冷静になる。

 さっきノリで王不在とか言ったけれど、そういえばボスがゴブリンキングだわ。でもここで訂正したら凄い格好悪いよなあ。

 無理やり頭の隅に追いやり、指導官としての仕事をすることにした。目の前の少女がボスに辿り着く頃には自身の発言を忘れていることを祈って。



 ダンジョン上層に足を踏み入れた二人は、1分も歩かないうちにゴブリンと出会う。

 今まで蒼が倒してきたのと何ら変わらない見た目のゴブリンだ。唯一異なる点は、二人を警戒しているところだろう。今までのゴブリンは無策に突っ込んでくるだけだった。


 杉野の目を見ると、このゴブリンを倒せと言っている。まあ事前に説明を受けていたので目を見るまでも無いが。


 警戒しているゴブリンに対して、蒼は先手必勝と突っ込む。

 近づきつつも観察する。持っている武器は錆びたナイフ。最上層のゴブリンとその点はあまり変わらない。

 しかし蒼が近づくとゴブリンがナイフを構えたので、今までのように無闇矢鱈と振り回すことはなさそうだと予想する。


 格好つけたくなったので走りながら転移を発動してみる。

 特訓のおかげで、転移後も問題なく行動できる。


 間合いにゴブリンが入った瞬間に、右手に持ったナイフで切り付ける。

 錆びたナイフに弾かれたので、左手で目潰し。

 顔を抑えてうずくまろうとしたゴブリンの顔面に蒼の膝蹴りが直撃。顔面は陥没し、すぐに光になっていく。


 消えていくゴブリンを見ながら、カッコいいポーズを取るタイミングを逃したと落ち込む蒼。

 膝蹴りの直後になにかポーズ取るべきだったなあ。



 つっよ。

 杉野は驚いていた。

 戦いのセンスは抜群。一度の膝蹴りで顔面を陥没させるほどのパワー。そして何より、ゴブリンとはいえ二足歩行の生物を躊躇わずに殺せる容赦のなさ。


 走っている最中の違和感はおそらく転移スキルだろう。特に意味のない使用だろうが、まあ分かる。意味もなくスキルを使うのは誰しもが通る道。


 基本的に個人が直接ダンジョンから受ける恩恵は身体能力の向上とスキルの取得。身体能力の向上だけに偏っている人間もいれば、スキルの取得だけに偏っている人間もいる。もちろん満遍なく恩恵を受けている人間もいる。

 彼女の身体能力から考えて、スキルに偏っているとは思えない。今の戦闘は生来の運動神経とダンジョンによる身体能力の向上のおかげだろう。

 事前に申告されていたため転移スキルを持っていることが分かっているが、他に持っているスキルないし手に入れるスキル次第では中層に潜ることもできる。特に彼女は、中層以降に必要な『容赦のなさ』という才能を持っている。

 精力的にダンジョンに潜っていたことを考慮すると、まず間違いなく中層には潜るようになるだろうな。もしかしたら下層にまで進むかもしれない。さらには最下層まで……。


「いいか、嬢ちゃん。大事なのは数秒先の未来を予測しながら動くことだ。決めポーズを取れるタイミングを逃すな」


 杉野の助言を、蒼は強く頷いて聞いている。


「ただ決めポーズを取ることだけに集中するのはダメだ。ポーズを取った後に攻撃されたらダサいからな。相手を確実に倒したことと、周囲に敵がいないこと。この2つは常に注意するんだ」

「分かりました! 先生!」

「うむ、いい返事だ。これからは俺のことは師匠と呼べ」

「はい師匠!」


 杉野は弟子ができて嬉しそう。彼は弟子という存在に憧れがあった。

 蒼も師匠という存在に憧れがあった。

 要するに利害の一致である。


 蒼に変人仲間ができてしまったことを嘆くべきなのか、人見知りの克服に一歩近づいたであろうことを喜ぶべきか。

 少なくとも彼女自身は楽しそうだ。

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