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12.兄弟

 通された部屋で、サリーは客人たちに向き直った。

「サブリナ嬢とチカーシュ殿ですね。で、そちらは恐らくノックスのぼうや」

 ソファに座った三人は腰を浮かせるほど驚いた。

「……ご存知でしたか」

 年長者としてチカーシュが答えた。サリーはゆったりと頭をもたげた。フードの下の眼光はどきっとするほど鋭い。

「もちろんユーグラスの王城から連絡を受けています。そうそう、オリービア伯爵とユラ殿には迎えを出しています。じきに到着するでしょう」

 周到な彼は、なるほど超有能官僚というのも頷ける。こちらの動きはお見通しだったようだ。

 確かにサブリナたちはウォールートとの連絡手段も知らないままに王城を出てしまったが、面倒見のいい姉弟子が先回りして世話を焼いてくれたのだろう。

「ノックスについては知らなかったですがね。まさか生きていたとは」

 サリーはカークをしげしげと見て言った。蔑む様子はなく、むしろ本当に生命力を褒められている気さえする言い方だった。

「……俺はクレイ殿下と従属契約を結んでいます」

 これ以上何かを言われる前に、カークは宣言した。挑むような表情に、サリーは器用に片眉だけをあげて笑った。

「ほう、あのクソガキ……いえ、クレイ殿下が?そんな王族らしいこともできるようになったんですね」

 彼はクレイの性格をよく理解しているようだ。

「クレイ…殿下と、仲がよろしいんですね」

 今度は観察の視線をサブリナに向けて、サリーが答えた。

「殿下たちとは兄弟のように育ったのでね」

 殿下「たち」とはどういうことだろう。疑問を口にしようとした時、扉が大きな音を立てた。

「サリー!クレイが帰ったって?」

 明朗な声と共に部屋に入ってきたのは、クレイと同じ銀髪の男だった。輝かんばかりのその色は、鈍く光るクレイのものよりも派手に見えた。

「殿下、お客人の前ですよ」

 いつだったかクレイが言っていた。兄が戴冠するまで遊学してこいと放り出された、と。

 つまりその人こそウォールート次期国王であり、クレイの兄の、

「コンラッドだ。よろしくな」

 第一王子は、快活に笑った。



「お待たせしました。サリー、皆はここですか……って、え?」

 王との面会を終えたクレイを待っていたのは、兄と自分の客人たちが優雅にお茶をしている姿だった。

「久しいな、クレイ。少し背が伸びたか」

 兄のコンラッドはつかつかと歩み寄り、クレイの頭を乱暴にかき混ぜた。この豪快さは間違いなく兄だ。少し歳が離れているせいで、ずっと子供扱いされている。

「兄上はお変わりなく」

「ははは。嫌味か?」

 サブリナは並んだ兄弟をまじまじと見比べていた。姿形は似ているようで、表情に表れる性格がまるで違う。けれどふとした仕草に既視感がある。なんだかんだで仲の良い兄弟なのだろう。

「私の友人たちの紹介はすんでいますか?」

 クレイが水を向けると、コンラッドは楽しげに頷いた。

「ああ。なかなかに楽しい時間だった。残りの二人が到着したら、夕食を共にしよう」

「しかし……」

「形式ばったものはいらない。今後のことは明日じっくり話そう。その脚のこともな」

 コンラッドは、じゃあな、と軽やかに手を振ってサリーと共に退室してしまった。

「嵐のようなお兄さんだね……」

「王族相手にお茶するとは……」

「ノックスにも触れないし。こわ……」

 三人はそれぞれ項垂れた。クレイは苦笑しつつ、サブリナの隣に腰を下ろした。あの兄のことなので、一方的な会話で三人を圧倒していたのだろう。表向きは社交的で奔放な人だ。

「やはり竜人は少し感覚が違うんでしょうね」

「クレイがそれを言うのか……」

「まあ、せっかくですから、少しゆっくりして私の母国を楽しんで行ってください」

 サブリナはクレイの微笑みに違和感を覚えて、じっと見つめた。それに気づいていないのか、彼は視線を合わせなかった。

「まあ、一番楽しみそうな人は、そろそろ到着するだろうしな」

 チカーシュの言葉に、全員があの伯爵を思い浮かべて笑った。それでサブリナの感じた違和感は有耶無耶になってしまったのだった。

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