4.旅は道連れ
鱗が陽の光をはじいて輝いている。
「我々はどうやって殿下をお守りすればいいんでしょうか……」
目を細めて頭上を見ていたユラは嘆いた。
チカーシュは、上ばかり見ていると馬から落ちるぞ、と注意しようとしてやめた。同じ任務についている彼には、彼女の気持ちもよく分かるからだ。
今の自分たちは他国の要人を送り届ける護衛騎士なのに、肝心の護衛対象が空を飛んでいては守りようがない。
「クレイ殿下はいいなあ。羨ましい。私も竜の翼が欲しい。ああ、また竜の姿も見せてくれないかな」
オリービア伯爵は騎士たちの後方で馬を走らせている。独り言もうるさいらしい。
馬に乗れないクレイは自らの翼で空を飛んでいた。時に遠方の情報を伝えては道を先導し、斥候のような動きすらしている。騎士たちはやきもきしながらも、身分の差から強くは言えないでいた。
同じく馬に乗れず空も飛べないサブリナは、大人しくチカーシュの馬に同乗させてもらっている。
「サブリナ、馬の揺れは大丈夫か?」
チカーシュが背後に向かって呼びかける。
「サブリナ、町に着いたら昼食にしようね!」
ユラは隣の馬上から笑顔を向けた。
騎士ふたりはなにくれとサブリナに世話を焼きたがった。クレイにする代わりだろうか。
「ありがとう。揺れは大丈夫。お腹はすいた」
素直に答えるサブリナを見て、オリービア伯はくすり、と笑った。
「サブリナは末っ子かな?」
「兄弟はいないけど、たしかに昔からいつも一番年下だったな。弟子の中でも」
「ユラとチカーシュは?」
「私は弟がいるよ」
「俺は兄と妹がいる」
「ウィルさんは一人っ子?」
「竜のよさが分からない愚兄ならいる」
「クレイはどうだろう」
和気あいあいとした雰囲気だった。敬語をやめたからか、ユラとチカーシュはすっかり堅苦しさがなくなった。オリービア伯爵は竜のことになると暴走しがちだが、普通にしていれば意外にも朗らかで理知的な人だった。
上空から楽し気な四人を見下ろしたクレイは、少し寂しくなった。大人しくオリービア伯の馬に乗せてもらえばよかったかもしれない。途中から馬では行けない道になるそうなので、それまでの辛抱だ。
今さら言っても仕方がないので、ひとりで気軽に空を飛ぶ。
久々に長い距離を飛んだが、疲れはない。やはりこの翼は空を飛ぶためにあるのだと、しみじみと思う。サブリナが与えてくれた自由を噛み締めた。
晴れ渡る空は見通しが良い。草原を抜けた先に町が見えた。
立ち寄った町は旅人が多く訪れるらしく、見慣れない一行がいても目立ちにくかった。竜人族の王子と愉快な仲間たちは、大衆食堂にて昼食をとることにした。
「おう、サブリナじゃねえか」
「やけに綺麗な連れがいるな」
「そこのいい女、紹介してくれよ」
店に入るなり、サブリナは屈強な男たちに囲まれた。ユラとチカーシュが間に入ろうとするのを、サブリナは手で制した。
「うちの師匠がらみだよ。それより、調子がいいなら一杯奢れよ」
と、気軽な調子で男たちの肩を叩く。
「なるほど、あのお師匠さんか」
「調子はよくねえよ。この辺の魔物は随分減ってるみたいだな」
「商売あがったりで、こっちが奢ってほしいよ」
気安く言葉を交わすと、彼らはあっさり去って行った。
サブリナは護衛騎士たちを振り返り、安心させるように笑いかける。
「大丈夫。彼らはギルド所属の冒険者たちだから、身元は保証されてるよ」
騎士たちが戸惑っているなかで、クレイは頷いた。サブリナとの旅の中で、クレイはすでに似たような場面に遭遇したことがあったのだ。
「サブリナが『師匠』って言うと、相手がそれ以上踏み込まないんですよね。何者なんですか?」
クレイの疑問に、サブリナは困ったように笑った。
「前にも言ったけど、魔女で冒険者。それ以上は私もよく知らないんだ」
オリービア伯爵は、何かを思い出すように顎に手を当てた。
「魔女で冒険者?心当たりはあるが、いや……。なにせ伝説級の人物だ」
ユラはハッとしたように声を明るくした。
「まさか建国物語の魔女様のこと?」
チカーシュがすぐさま否定する。
「あれは作り話だ。実在しないだろ」
と、あきれ顔だ。
他国出身のクレイは知らないが、ユーグラス国で子どもに語って聞かせる昔話には、建国にまつわる話がある。かつて魔物がはびこっていたこの土地を、たぐいまれな魔力で浄化した魔女がいた、というものだ。初代国王の冒険者仲間でもあり、共に巨悪を打ち滅ぼしたのだとか。
どこまで真実かは知らないが、サブリナは師匠ならありえると思っている。本人がはぐらかすので詳細は知らない。
「まあ、気を取り直して。旅のはじまりを祝福しよう」
サブリナがそう言ってグラスを掲げると、新たな旅の仲間たちも照れ臭そうにグラスを合わせた。




