3.騎士と貴族と王子と旅人
王都ファティの騎士団はエリート集団だ。
平民でも力があれば入団できる実力主義だが、一方で貴族の子息は家督の継承権を放棄しなければ入団できない。
覚悟を持って厳しい訓練を絶えぬき、やっと一人前の騎士と認められるのだ。
「ユラです」
「チカーシュです」
隙のない身のこなしでキビキビと挨拶をしたのは、若い男女だ。
ユラはパーマがかった栗色の髪を後ろでひとつにまとめている。女性にしては背が高く、目線はクレイと同じくらいだ。
チカーシュは小柄で童顔の青年だが、引き締まった表情には軍人らしい精悍さを湛えている。
クレイとサブリナは二人で目を見合わせた後、
「えっと、クレイです」
「ああ、サブリナです」
と、ふにゃふにゃした挨拶を返した。
ユラとチカーシュは、オリービア伯爵が手配した騎士で、旅に同行してくれるらしい。
彼らは一礼で挨拶を済ませて、早速荷物を馬に乗せ始めた。
代わりにオリービア伯が補足してくれる。
「若いですが優秀な二人です。殿下やサブリナ嬢よりは少し年上ですかね。私も若いのに優秀だと言われてきましたが、ここでは年長者ですか。まあウォールートに行けば数百歳の竜人がゴロゴロいますから。ところで馬は平気ですか?山を越えるので途中で手放しますけど」
オリービア伯爵は質問をしておいて回答を聞いてくれないことも多い。クレイとサブリナは慌てて手を挙げた。
「はい!乗れません!」
「はい!私もです!」
クレイはおや、と首を傾げた。
「意外ですね」
彼女なら何でもできそうな気がしていた。サブリナはちょっと眉を下げた。
「平民はなかなか馬に乗る機会はないよ。農家で働いていたときは牛に乗ってた」
「へぇ、私は馬も牛も乗ったことないです」
「それこそ意外だ。王子なのに」
ぐい、とオリービア伯爵が身を乗り出した。
「もしや、ウォールートには馬はいないのですか?」
クレイは首を横に振った。
「いますよ。馬を競争させる祭りなんかもあります。荷物を運ばせることもあります。でもあまり乗る文化はないですね。自分で飛ぶ方が楽で」
へぇ、という声が重なる。サブリナとオリービア伯と、ユラだった。
視線に気づいた彼女は、ハッと口を押さえた。
「すみません、竜人の方とお会いするのは初めてで、気になってしまって」
人好きのする笑顔は親しみやすく、エリート騎士に身構えていたサブリナは安堵した。
和んだ空気に、もう一人の騎士チカーシュがあっさり水を差す。
「ユラ、紐はもう少し強く結べ。荷が落ちる」
「ご、ごめん!」
チカーシュの態度はトゲトゲしいわけではないが、ピンと伸びた背筋に、見ている方の身が引き締まる。
「仲良くなれるといいけど」
呟いたサブリナにクレイが微笑みかける。
「まあ、ぼちぼちやりましょう」
対人関係はきっとクレイの方が得意だ。サブリナが笑い返す前に、オリービア伯が口を挟んだ。
「いえ、とっとと仲良くなってくださいね。息が合わないチームは、旅では命取りになりますよ」
二人の間で胸を張る伯爵に、サブリナはそろりと手を挙げた。
「オリービア伯と我々は……」
「仲を深めるために、オーリウィルと呼んでくれてもいいですよ」
「では………オーリウィル、殿?」
「なんでしょう?クレイ殿下」
余計に気まずそうだ。
サブリナはやけくそで言った。
「では、ウィルさんで。私のこともサブリナと。ユラとチカーシュもね。平民は敬語なんて使わないですよ。旅の中で今みたいに丁寧に話していると怪しまれる」
「え。もしや私、これまで怪しまれてました?」
「まぁ、喋らなくてもクレイのお坊ちゃん感は隠せないからな。お忍びにしては衣類が貧相だから、没落貴族だと思われてたはずだよ」
「お、お坊ちゃん……!?」
「高貴さと言ってあげてください」
チカーシュがボソリとフォローしてくれた。クレイは年上の同性が味方についてくれて、かなり心が慰められた。
「ふむ。場面によっては敬語は禁止にしましょう。もちろんクレイ殿下に対してもです。ご容赦くださいね。ユラとチカーシュもですよ」
オリービア伯爵が言うと、ユラは戸惑いながらも承知した。チカーシュも、やはり真面目な顔で、
「クレイ殿下がお許しくださるなら」
と頷く。
「もちろん。私もなるべく敬語をやめま……やめるよ」
クレイはへにゃ、と頼りなく笑った。




