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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第4章 愛を紡ぎ捧げるアドヴェンチャラーズ
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第三十六話 妖精騎士アイギスさんと盗賊の半妖精との仁義なき戦い(3)









マズい事になっている。


と、帰国の途についた我輩バーレア・デル・ドリテッサ・バーゼウは馬車の車中に於いても考え込まざるを得なかった。



今回の件でヴェルスタム王国から独立したシルヴェスター公国の内情を探って居たのは実は我輩の独断であった。

つまり、実際にはこの使節団は王家が経営に参画していた娼館の年若い娼婦、男娼の返還を迫るよう圧力を掛けるのが与えられた任務であったのだ。


実際には外交交渉がそう簡単に成立する筈はないと王家も考えては居るのだ。聖魔帝国が出てくるようなら退散の指示さえ使節団の外交官吏に命が降っていた。


つまり適当な所で引くのは既定路線、わざわざ使節団として来たのはそれだけ問題視しているぞ、というアピールだったのが……



もはやそんなやり方が子供の児戯に思える。

未だに独立したシルヴェスターをかつての小国と侮ってるのだ、こんな実情はとても神祖の妖精王に披瀝できる筈がないではないか。


と、言っても太古の伝承にある妖精族の創造神がこの世界に舞い戻って来て、隣国とも言えるシルヴェスターを独立させて傘下に納めている……


などと言う降って湧いた話を王家がそう簡単には信じてはおらず聖魔帝国の何らかの欺瞞だと思うのは無理からぬこと……この我輩もこの目で見るまではそう思っていた。


道行く道にオチュッグと呼ばれる緑色のイソギンチャクのような姿の妖精たちが銃器を装備してそこら中を歩き回ってる現状を見るまでは。


他にも公国では手乗りサイズの甲冑を着た羽妖精だとかが公国の城に詰め、ヴィリア姫の馬車を引く死神のようなユニコーンだとかを見れば虚言というには真実味が溢れて居る。


森の妖精に間違いない麗しいエルフの狩人姿の少女たちすら街中に見掛けるのだ。

これでは凶悪凶刃で知られる〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉が、実は神祖の妖精王の再来だと言う話も信じるしか無いのではかと我輩は確信に至る。



我輩だけではなく外交官吏たちも、だ。

一応公国がどういう状況か探れと言われてた彼らもこの状況には驚愕し、公国の煮え切らない態度も相まって王家の状況認識の甘さを痛感したに違いない。


なにせ我輩が神祖の妖精王に会い、バーゼウ王国に対して聖魔帝国が謀略を仕掛ける可能性があると警告されたことに関しては、さもありなんと意見の一致を見るくらいだ。


つまり、外交的な駆け引きに寄る虚勢フェイクと見るには状況が悪過ぎて考慮せざるを得ないのだ。

特に空に〈妖精連盟〉の旗印――赤地に妖精の羽がペイントされた巨大な軍艦が浮かんでるのを見上げてしまうと。


訊けば妖精連盟の軍隊だとか……

魔法文明の遺産を受け継ぐ列強諸国と同じ技術力の軍隊を保有してるだとかまるで聞いてない。


そんな国がいきなり国境を接する隣国である。

この軍事的脅威を前にしては、神祖の妖精王の警告を作り話だと捨て置くことなど不可能であるぞ。


攻め込まれればどれほどの抵抗が出来ようか。

この軍事力差だけは覆せず、名分さえあれば出兵して来るとなれば我らバーゼウ王国はそれこそ風前の灯であろう、今度は物理的に。



「やはり、公国――妖精連盟を相手にするのはが悪い。諸島内で内乱を起こされ出兵される可能性を示唆されては交渉どころではない……しかも、時間は有るのか……」


つい馬車で独り言を漏らしながら我輩、今後どうするかとバーゼウ王国の未来に思いを馳せざるを得ず……最悪なのは聖魔帝国の陰謀に既に嵌ってしまってる可能性であった。


神祖の妖精王に、本当に陰謀の担当者なりが我がバーゼウへの謀略を示唆したならそれはその可能性が有ることをあらかじめ言い含めて居る事に他ならない。


もしや……今回の使節団の派遣そのものが罠なのでは……と我輩が思った瞬間であった。

大体、悪いことは想像の斜め上から来ることを我輩は思い知らされましたぞ。


帰路を急ぐ使節団の馬車が急に止まり何事かと窓を覗くと……護衛の為の精鋭が声も上げずに剣で串刺しにされ倒れておりました。


「馬鹿なっ?! ここで我々を襲うだと、何がどうなって居るのだ!」


これが聖魔帝国の陰謀の類なら有り得ざること、妖精連盟とバーゼウ王国の関係を悪化させる必要がなぜ有るのかと云うことになりますからな。

いや、まさか……と別の思案が我輩の脳裡を掠めようとした時、馬車のドアが開け放たれた。


我輩の眼の前に現れたのは見目麗しき黒髪の少女……ただ、その表情には妙齢の女の余裕とも言うべきものが有りましたがな。



「……わざわざ御足労頂き、ご苦労さん。で……アンタが使節団の代表だと思うけど間違いじゃないわよね?」

「左様、我輩がバーレア・デル・ドリテッサ・バーゼウ。どちら様ですかな……殺されるにしても誰にられたのかは知りたい所」


「この状況でその台詞せりふを吐けるヤツってなかなか居ないわよ? ……取り敢えずは生かしたままで連れて来いって言われてるの、種明かしは黒幕に聞くことね。……で、抵抗せずに付いて来てくれると痛い目見ないで済むわよね」

「……ご遠慮したいが我輩に選択の余地は無さそうですな……お手柔らかに頼みますぞ」


馬車の外に出てみると、随行が躊躇なく皆殺しの憂き目に遭っておりました。本当にお手柔らかに頼みますぞ。

誰一人動いておりませぬ、道端に流れでる血の量で致命傷だと解るほどですからな。


個人的な従者など連れて来ずに正解でしたな。何分、いきなり王家に行って来いと言われて嫌な予感がしましたからな。


さて……何がどうなってるやら。

責めて真相を知りたい所ですなぁ、でなければ死んでも死にきれませぬから、な。









このアイギスさん、マズい事になったと思った。


自分で呼んだ使節団を殺して、その不手際をこっちに擦り付けようとか外道過ぎない?

完全に不意を打たれた。まさかボロックがこんな手で来るとは予想外だったの。


報告を受けて冒険者ギルド2階の作戦本部でわたしが悩んでると黒髪残念美人が口出しして来るし。



「で……どうするんです? これ人質に捕られてますよね」

「アステリアぁ……言われなくても解ってるんだよ。欲しいのは対策だよぉ、批判だけなら誰にも出来るんだよ? 対応策とセットで物申すのが優れた部下だよ」


「そんな有能な部下になった覚えないんですよ、何より居住環境の是正をして下さいよ。セクハラが酷くてこっちは毎回気が狂いそうなんですよ」

「ちゃんと捕虜として待遇してるじゃん。手は出してないでしょう、手は。口もさぁ。……てか言い合ってる場合じゃないんだよね」


シルヴェスター公国に抗議に来た使節団が代表以外は皆殺しだよ。当然バーゼウ王国から責任を追及されるに決まってんだよね。


勝手に押し掛けて来ておいてだけど……

外交使節が自国内で殺られるとか外聞が悪過ぎだよ。

しかも、一般的には外交団の安全は受け入れた側の責任になるらしいしさぁ。


対応を間違えれば国境封鎖くらいして来るってヴィリアさんが言うのよね……向こうにも面子メンツが有るから。


「……そうですねぇ少しだけ有能な所を見せますかね……手をこまねいているとバーゼウが交易を止める事を言ってきて、商業ギルド辺りが騒ぎだすとかそんな所じゃないですかね。独立したばかりでコレですから中々に効きそうですよね」

「で、公城に抗議よろしく民衆が押し掛ける訳ね……」


「他にも民衆の不安を煽る煽ると、まぁ教国でもそんな悪党居ましたから」

「座して待つとロクなこと無いな……打てる対策は?」

「そこは自分で考えてくださいよ……ただ、やり過ぎると向こうもマズいので早々に手打ちに持って来ると思いますけど? それが狙いですし」



……最悪だぜ、ボロック。まったく盗賊らしいやり方だな。人の金を掠め取ろうとする意図しか見当たらないぞ。


結局、人質を解放する条件に娼館の嬢ちゃんらの債権を買い取れと言って来る気なんだろう? てかそれしかわたしが"妥協"できる点が無いもんな。


公国の売春業界ののりを戻すなど論外。

結局は金の話で解決するしかない。

――余りにも高く売り付けられる予感にわたしは身震いする。公国の借金と財政を支える為に既に借金まみれのその上に、だよ。


で、しかもわたしの手持ちにそんな金がないとくれば……


「……アイギスの嬢ちゃん中々に困った事になってるようだなぁ」

コレ見よがしにわざわざ冒険者ギルドに足を運んで来る顔が皺まみれの御老体。しかもめっちゃ笑顔で。

金の話となればこのおっちゃん、金融ギルドのおさバルガスだよねー。


「おっちゃんが全ての元凶じゃないかな……で、ボロックと組んでわたしを嵌めたの?」

「おいおい、そいつは言い掛かりってもんだぜぇ。おいちゃんはこの公国の財政アドバイザーだぜぇ、流石さすがに仇なす真似しちゃ嬢ちゃんにしばかれちまうだろ」


「おっちゃんよぉ……じゃあここに来たのはなんでかなー? しかもその笑顔」

皺くちゃな顔にご機嫌な顔が張り付いてるよぉ。


「当然、嬢ちゃんらの債権買取の件でよ。いや、ボロックのヤツにいきなり仲介しろってこんなもん送りつけられてよ。まぁ知らねえ仲じゃねぇし正確に債権を把握してるのはうちらしか居ないしな」


と机の席に座ってるわたしに手紙が渡され、汚い字で書かれた汚ねえ内容を一読するよ。そこにはわたしが確保した嬢ちゃんらの債権買取と引き換えにバーレアを解放する旨が書かれてあった。


わたしは手紙から目線を恨めしにバルガスのおっちゃんに向けるよ。


「おっちゃんよぉ。わたしがこんな脅迫に乗ると思ってんの。人質に捕られてんのは美少女じゃなくて髭面のおっさんだぞ」

「おう、そいつは困ったもんだな。折角、債権価格をまとめて来たのに。……まぁ、乗るかるかは嬢ちゃん次第だ」


「……その髭面助けても、他の使節団が皆殺しにされてんのはどうする気なのさ。金払ってもバーゼウに、更に分捕られるとか話になんねぇぞ」


するとバルガスのおっちゃんが書類をまた渡して来るの、そこには公国の年間予算を上回る債権買取価格が書いてあった。


「なに、このおいちゃんがその価格込み込みで何とかしてやらぁな。アイギスの嬢ちゃんはお得意さまだぜぇ、一肌もふた肌も脱がせて貰うぜぇ」

「目ん玉飛び出るくらいの価格が書いてるじゃんかよ。払えると思ってんの! てか高すぎだろ。嬢ちゃんたちの一生分の稼ぎより多くない?!」


「別に盛ってはないぜぃ、暴落前の価格ではあるがよ。あの嬢ちゃんらには投機的な目的もあったんでい。実際の適正と思える価格より高くなるのはその為なんだぜぃ。これが嬢ちゃんらを金融商品に見立てた理由だぜぇぃ……言わば所有する事で男の箔が付く付加価値商品よ。なかなか考えられたものだろう?」


クソ、だからか。バーゼウ王国の王家だとかが手を出す訳だ。人間牧場なんて経営しても採算取れるか疑問だったけど、実際の嬢ちゃんらの収入以上を稼げるのかよ。

そして金融ギルドはその取引の手数料で儲ける絡繰り、売るのは裏側の連中ってな。


「良くまぁボロックと組んでやりやがったもんだ。バルガスのおっちゃんも片棒を担いだって聞いてるけど」


「そりぁな。しかし実際考案はしたんだが最初は上手く行くかは解らなかったんだぜぇ。一つのビジネスモデルとしてこの辺境シルヴェスターで試してみたのさ。実際の所はほぼボロックが上手く取り仕切って成功させたようなもんだ、おいちゃんも良くやれたなと感心したくらいだぜぇ。まぁ金融ギルドへの収入は特許料みたいなモンだなぁ」


「褒め讃える要素が一切ねぇよ……どれだけの嬢ちゃんらを苦しめて来たよ」


「おいおい。このシステムで価格が高騰するのはそれなりの綺麗どころや人気嬢くらいだぜぃ。そうでなくても、債権の細分化で嬢ちゃんらの身の安全は確保されるだろぉ。こういう商売だ。幾分かは昔よりマシになったんだぜぃ。無理矢理客取らせて上がりをはねまくる訳にもいかねぇからな。……少しばかりおいちゃんも良い仕事したなぁ、と思ってたんだがなぁ……」


バルガスのおっちゃんの笑顔が鳴りをひそめて顔が沈むの。いくら悪党のおっちゃんでも少しばかりは反省してるのかな。


「まさか、牧場だとかまでやっちまうとはなぁ。水商売の女は今まで生きていた身の上が何よりも魅力を引き立たせるものなんだぜぃ。……それをよぉ。まぁこの商売の引き上げ時だな。もう時代にもあわねぇしなぁ」

「後悔有るのかと黙って聞いてた、わたしをガッカリさせないでよね……おっちゃんの趣味嗜好を聞かされただけじゃない」


「アイギスの嬢ちゃん。おいちゃんくらいになると女には拘りが有るんだがなぁ……まぁ、どっちにしろ畳時だから良いか。ヴェルスタムの方じゃまだやってるが文明国家のやるモンじゃねぇしな」

「で、最後に一稼ぎね、おっちゃんには負けるよ……。などど、このアイギスさんが悪党どもと黙って取引すると思うの?」


するとバルガスのおっちゃんがニタァって笑みを浮かべるの。解りづらいけど期待の笑顔をよ。


「それだ。それを待っていたぜぃ。ここでアイギスの嬢ちゃんがすんなり承諾する訳はないからよぉ。だが、どうするんでぃ? 取引できないと知ったらボロックの野郎は確実に殺るぜぃ」

「嬢ちゃんらと違って、あの髭面を殺った所で盗賊の流儀には反しない、か……」


一般人カタギを殺すのは裏社会でもルールが有るの。それをたがえると、裏でも暗黙の掟破りの外道って思われるの。ま、裏だから警戒されるだけで済むんだけど信用されなくなるのは今後を考えると痛いよね。


ただ、政府関係者は通常カタギとは見做されない。表と裏を取違えただけのご同業だから、殺った所で掟破りでもないのよね。


つまり、テロられたら仕切りが悪いなと他の同業から見做されるだけの話なのよ。つまり責任はこのアイギスさんに全て擦り付けられる訳よ。裏の統制も出来てねぇ締まりのねぇ権力者ってね。


当然、バルガスのおっちゃんもこの業界長いんだから察しが付いてるの、ニヤニヤ笑顔を張り付けてるよぉ。


「それで示しって物を付けようとな。なかなかに馬鹿なことするな、とは思うがよ。ヤツも老い先短い、最後に一華咲かせる気だぜ。侠気、ってヤツに憧れを持ったヤツだからな」

「だろうな。正真正銘、盗賊だぜ。但し一流じゃないな……なにか抜かりがある気がする」


だけど、それが何なのか。

読み切れないと負けるのよね……まったく頭を使うのは疲れちゃうよね。

アイギスさんは頭脳派じゃないんだよ。



すると黙って聞いてたアステリアがまた口出ししてくんの。人が一生懸命、頭使ってるのに。


「いっそあの魔大公に聞いて見たらどうです? それはもう悪辣な対応策を用意してくれると思いますけど」


「アステリアぁ……それこそ甘いよ。あのアスタロッテがこの状況になるのを読んでない訳ないじゃない。……どっちに転んでも良いと思ってるに決まってるじゃん。わたしが白旗揚げても、借金返済でお金稼いで奥様振っても良いし、髭面ひげづら殺られてバーゼウと揉めても問題ないんだよ……で、手貸してもらってみ? より良い感じに差配して来るわ。わたしが困る感じにね。選択肢が与えられてる事が優しさよ」


「アスタロッテの嬢ちゃんへの理解度が高いなぁ。これは良い夫婦めおとになるぜぃ」

「手助けされたら、もっと悪い状況になるとかそれどんな関係なんですかね……」

「ちょっと他に手がないか考えてるから、口出ししないで……。いや、待てよ」


ボロック相手になにか付け込める隙がないかと考えてたけど一つあったの。



「アステリアぁ。おまえのおかげで何とかなりそうだよぉ……てかコレしか無いな。ボロックの唯一のミスを小突く……」


但し、このアイギスさんにもそれなりの覚悟が必要になる。今までの対悪党、冒険者経験を踏まえ、気付いたこの起死回生の一手の為に。


ここまで追い込まれたのは久々……

いや結構有るな。このアイギス、最強の筈なのにこんなのいつもよ。だからこそ受け取れ、ボロック。

おまえの唯一の敗因をな。


そしてバルガスのおっちゃんにまた借金の仮契約をさせられるわたし……失敗したらまた借金が増えるの。これがわたしの覚悟よ。


……やはりバルガスのおっちゃんが諸悪の根源じゃないかな。ボロックと連絡取れるらしいし……おっちゃんのみが頼りだよぉ。


後はこっちの予想が外れないかどうかが分かれ目。出たとこ勝負でなんとかするぜぃ。一発勝負だ。

格の違いを見せ付けてやるぜ。



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