第三十五話 妖精騎士アイギスさんと夜のお仕事浄化作戦と盗賊の意地(4)
†
†
†
ヴェルスタム王国との国境となってる山脈に近いとある村。
村の名前? んなモン知るかっての。
仕事で脱出先って指定されたから来てんのよ。
地理関係はほぼ解らんってな。まぁ仕事柄、一度くれば大体の位置は解るけどね。
で……私はその村の倉庫に仕事果たして待機中よ。
そして日を超えてやっと依頼人がやって来て面通しってことになった。
「待たせたな剣千の嬢ちゃんよ。相変わらずの腕だ。惚れ惚れするな」
「女拐かして惚れられてもな、ボロック。ほれ、金」
と、さっさと寄越せと半妖精の盗賊に手を差し出す。結構、前からの知り合いで金払いは悪くない。
久々に依頼が来たから、どんな難儀な依頼かと思ったけど、盗られた娼館の嬢さんを奪い返して来いってね。楽な仕事だわ、影世界をまとめて連れ歩くってのが面倒だけどね。
で、それを七回続けて……お膳立ては済んでても忙しくはあったな。楽でも夜から朝にかけての半日でやるモンじゃないわね。
そして袋づめにされた金を受け取り、もちろんきっちり数えるわ。贋金だとか、報酬と違う金額入ってるとか有り得ないことが偶にあんのよ。
「相変わらず貴重面なこったな。鑑定の魔法でまとめて調べれるだろう、おまえさんなら」
「所がその鑑定の魔法をすり抜ける偽装をされたことあんのよ……世の中抜け目ないヤツが多いわ。金受け取る時にやんないと因縁つけたみたいになるしね」
「世の中広いな……うな事は聞いたこともねぇ。百年以上も生きてよ……それに比べてアンタは相変わらず切符が良くて余計に歳食ったと感じちまうよ」
「そう? やってる仕事に刺激が有るから健康に良いんじゃない? こっちは相変わらず愉しませてもらってるわ……はい、お代はきっちり、それじゃあね」
「まぁ、待ちな。刺激が欲しいってならまだ仕事が有るんだがな」
後ろに振り返ろうとして声を掛けられる、長年やってるとデジャヴを感じるのよ。似たようなことを似たようなシチュエーションで言われたことが有るから。
「このタイミングでねぇ……聞いてない依頼を話されるのは大概、厄介事、って決まってんのよねぇ」
「だろうな。オレも厄介な仕事だと思うぜ」
「正直者は馬鹿を見る……って良く言うわよね。……〈鮮血妖精〉と揉めてんのは知ってんだけど?」
当然、仕事の背景、理由ってのは調べるのは裏稼業の鉄則。自分が何してるか解らなければそもそも依頼料が適正か解んないじゃない。
で、今回は危険と報酬が釣り合ったから受けた訳よ。〈鮮血妖精〉を敵に回してるなんて今更だからね。
「なに、アンタもヤツ相手に一度しくじってると聞いてな。それで誘ってんのさ。オレなんぞあの小娘に煮え湯を飲まされっぱなしよ。遂にはおまんまの食い上げとくらぁ」
「今までしこたま貯めてんでしょうが……」
「貯めた所で銭はあの世には持っていけねぇな。倅も、おっ死んでもう居ねぇ。身軽なモンだ……」
「…………昔のアンタはもう少しギラついてたわね。で、今となっては神祖の妖精王さまとなったあの〈鮮血妖精〉相手に仕掛けてる……。もしかして盗賊ギルドは絡んでない?」
ニヤリとボロックの皺がれた半妖精の顔が相好を崩すの。やられたわね。盗賊ギルドの仕切り人だから当然絡んでると思ってたわ。
まぁ、大した落ち度じゃないけど。
「なに聞かれなかったからな。コイツはオレ様の一世一代の最後の大仕事だ。盗賊ってのをあの小娘に思い知らせてやらなきゃならねぇってな。オレの儘にとてもギルドを巻き込めねぇからな」
「それは良いけど……勝算が有るんでしょうね? 聖魔帝国が背後に居て、盗賊ギルドも頼れない。しかも妖精連盟だとかいう連中が相手よ……どう考えても勝ち目があるとは思えないんだけど?」
「そいつは何に勝つかに依るぜ、剣千の嬢ちゃん。オレは何より意地を見せてぇんだ、調子乗ったあのクソ生意気な小娘によ。こいつはあの小娘との勝負よ、昔のオレなら馬鹿みたいな仕事だと思うが老い先短い身になれば、馬鹿の一つもしたくなるからな。もう栄達はオレの人生では済んだから悔いがねぇや」
「思いっきり私怨じゃない……正直、他所を当たれって言いたいけど……まぁ、お金次第?」
「さすが、金次第の玄人中の玄人だ」
「世の中、金よ。とは行かないけどそれを金でなんとかするのが私の仕事だからね、ただ金次第だけど仕事の内容にも依るわよ? できる事とできない事、したくない事とかは有るんだから」
「まぁ好き嫌いはあらぁな。寧ろ金の為には何でもやる、ってヤツらの方が信用に置けねぇな。……で仕事の話をして良いか剣千の魔女さま」
私は腰に手を当て、もう片方の手を差し出した。
「聞きましょう。但し、受けるかどうかはともかく金貨の一枚くらいは出しなさい。予め聞いてない話を聞くのも仕事よ。口止め料も込みでね」
「そいつはごもっとも。凄腕相手にタダより高い物はねぇや――」
そして私は金貨を一枚頂戴して計画を拝聴したわ。
まぁ、悪くはないんじゃない? 成功するかはそれこそ賭けだけど。
必要なのは私の仕事の成否だけだしね。それなりに危険は有るんだけど報酬は悪くない。
「まあ、乗りましょ。あの〈鮮血妖精〉に一泡吹かせるのも悪くないしね」
「そいつは助かる、正直断られたらどうしようかと頭抱えちまうよ。あんちくしょう相手にできるのはそうは居ねぇからな」
そりゃ化物みたいに強い……いや硬いからな。
アレは倒せんわ。ただ、倒すだけが能じゃないからね。
なにより、〈鮮血妖精〉を相手にして唯一生き残った女、って看板が癪に触るわ。
宣伝にはなるんだけど毎回アイツを引き合いに出されんのよ、ここは痛い目見せて格の違いを解らせんのも悪くないでしょ。
「じゃ、仕事人のやり方を教えてあげましょうか。
調子乗ったヤツをヘコます為に、ね。ボロック」
「ちげぇねぇ。クックック面白いことになりやがるぜぇ……」
†
†
†
さて、犯人は誰か確定した。盗賊ギルドならコイツが出てくるだろうな、と思ってたボロックだ。
ただ、問題なのはやっぱり嬢ちゃんらの安否と安全よ。冒険者どもに任せてたら一杯食わされたので最早ヤツらは頼れん。所詮はクズだったの。
夜の内に各施設から嬢ちゃんらが連れ去られたんだけどアイツら酒入れるわ、睡眠薬盛られるわ、でまったく役に立たってないのよ。注意しとけってわざわざ言ったのにだよ。
果ては賄賂もらってわざと目離したヤツらまで居るんだよね。クズ過ぎるよ。
熟練の冒険者とは思えない不手際、信用ならねぇ。
そこでわたしはもう冒険者どもには見切りをつけ、頼れる奴らに召集を掛けたの。
そして〈妖精連盟〉の面々に冒険者ギルド2階の作戦本部で今後の方針を伝えて居た。
「……兎を狩るにも獅子は全力を出すって言うよね。実際、兎は逃げ上手だ。ただ単に追って行ったんじゃ逃げられる。……わたしが言いたいことが何となく解ってくれると思う、お前ら」
まず妖精連盟の主力悪の妖精部隊を率いる吸血妖精の姫フリュギア。
一見そこらの綺麗なエルフの少女と変わらない容姿だけど真竜すら弓矢で射殺す一騎当千どころ万軍に匹敵する射手よ。そして悪たれの部隊を如何なく指揮するうちの軍の部隊長よ。
次に緑色のイソギンチャクみたいな胴体に大口を空け、緑色の触手を2本いきり立たせる化け物、緑触妖精。とても妖精とは思えないけど妖精族の範疇に入る。
その王にして戦い続けて神の領域に至った緑触妖精王ザランバル。
本体は大怪獣サイズの化け物だからここに居るのはそのクローン体のヤツ。
そしてコイツの手下のオチュッグ達は数だけは軍隊並みに居るの。銃火器すら2本の触手で器用に扱えるので、妖精連盟の近代歩兵軍にする予定よ。まさしくうちの兵隊どもよ。
そしてそんな妖精連盟軍の参謀、妖魔の不死魔導師のゼルドラス。
悪魔だけど元はエルフで不屍の魔術師リッチャーからさらに妖魔に転生した異色の経歴の持ち主。
多分、わたしのゲーム時代の話だから転職代わりに転生したと思うんだげど。未だわたしを主と慕ってくれる有能な臣下よ。
悪魔使いでもあるのでザランバルが使役してる悪魔たちを任せてるの。
さらに悪の妖精と仲の悪い善の妖精たちも。
ゼルドラスは、昔キレてこの大陸の魔法文明滅ぼしたザランバルの相棒だから困りものの連中の手綱握らせたら右に出るヤツ居ないくらい優秀なのよね。
そして、この三名がうちの兵隊、〈妖精連盟〉の軍事力、暴力組織を束ねるカチコミ部隊のリーダー達よ。他にも困りものヤツらが居るけど、呼ぶと本当にわたしが困りそうなので現状、実働部隊はコイツらのみなの。
そしてザランバルのヤツが緑の触手をいきり立たせて来たわ。
"……なるほど。その攫われた嬢とやらを取り戻し、不埒者を始末するのが聖下の仕事ですな"
「そうだ、ザランバル。但し、また嬢を狙われると厄介だ。守りを固めるから、探し出すのにお前の兵隊を使えるか」
"フハハハは。お任せあれ、鍛えに鍛えたオチュッグたちで索敵しますぞ。使えそうな空飛ぶ軍艦とかも配置しますかな?"
「なんでおまえ軍艦持ってんの。初耳だわ」
"魔法文明時代に暴れ回りましたからな。軍艦ごと飲み込みましたぞ。丸呑みにしたので何隻か我輩の胃袋、異次元空間にそのまま残ってたり"
「扱えんのぉ? 保存状態は良さそうだけど二千年前のヤツを」
するとザランバルのクローン体が緑の触手の先を、隣の顔に仮面を付けたゼルドラスに向けるの。
"戦艦一隻に駆逐艦四隻、遊撃艦六隻が稼働可能な状態です。乗員は元いた者たちをアンデッドにするなどで使役しておりますが……"
"此奴。我輩の胃袋に籠って修復ばかりしておりましたからな"
"なに、次に騒ぎが起これば多少は役に立つかと……実体弾の備蓄が心許有りませんが熱核兵器も有ります、お役に立てれば幸いです"
"良いぞ。曲者を見つけ次第焼き払うのも一興よな。我らがアイギス聖下に楯突いた愚か者には相応しい末路よ。フハハハはははは"
「盗賊相手に熱核兵器の出番はないわ。オーバーキルにも程があるだろ。やっぱりお前らが本気出すと文明単位で滅ぼしに掛かるから自重しろ。獅子が本気出すどころじゃ無かったわ」
無敵の大怪獣とそれを使役する冷徹な悪の大幹部みたいコンビだからな。大陸一つの魔法文明を灰燼に帰した実績があるヤツらだ。軽く核兵器使うとか余裕でやりやがる。
「アステリアぁ。お前のご先祖よくコイツらを止めてくれたよ。代わりに子孫のお前に礼を言うわ」
「止めたは良いですけど結局、この大陸の魔法文明が滅んでますからねぇ……。まぁ、お礼は受け取っておきますね」
その聖者の子孫に、聖ロクスと戦った事もあるというゼルドラスが畏まるの。
"私からも賛辞を送らせていただきたい。ロクス殿は真に世界を救った聖者です。貴女のご先祖のおかげで後一歩の所で魔法文明の崩壊を食い止められましたから。ロクス殿が居なければ千年は魔法文明の崩壊が早まったでしょうな"
「あの……何しようとしたんです?」
"なに、この大陸中にあったその手の大量破壊兵器の制御を手中に収めようかと画策していたのですが聖ロクス殿に突き止められてしまいましたので……僅差で敗れましたね。私たちが戦った理由はそれが原因です。その頃にはこの大陸の文明自体は滅ぼしていましたから、大陸の文明が滅んた事についてはロクス殿に落ち度は有りませんよ"
アステリアの顔が微妙に引き攣る。正確に当時のことを伝えられてないようだから、事情をゼルドリスが真面目に打ち明けたんだろうけど内容が身も蓋もないので戸惑ってんな。わたしもだわ。
ただ、そんなわたし達をフリュギアが見かねてか、話を進め始めるの。
「アイギスさま。親交を深めるのはよろしいのですが……」
「ああ、ごめん。余りな連中に本題を置いてきぼりにしちゃったよ。フリュギア、まずは現場の状況を。わたしの予想が当たりかどうだったかを」
「やはりアイギスさまの予想通りでした。娼館のお嬢さんたちは影世界側から侵入、連れ去られてるようです」
「だろうね、やっぱり一番有り得そうな推測が当たりか」
このアイギス、もちろん狙われるなら嬢ちゃんらと解って居たよ。そもそも嬢ちゃん達が居なけりゃ今回の騒動の話が進まないんだもの。
当然、警戒してたんだよね。娼館のある街に〈次元封鎖〉の魔法を常駐させて転移魔法を封じたりしてさ。
だと言うのに最も警戒してた人気嬢達が連れ去られてしまった……しかも外から侵入された形跡がなく、内部だけで犯行が終結してしまっている。
と、なるとやり方が限られるの。その方法も有るには有ると思ってたけど、本当にやられるとは思わなかったわ。
そしてその方法が……
"ふむ……影世界とはなんですかな?"
「知らないんかい、ザランバル。要は影の世界だけど……ゼルドラス詳しく」
"この世界とは表裏の世界。実体がある事に対する反証の概念世界、この世界の近接次元の一つです。生身の人間が侵入でき、基底現実世界と対応するもう一つの世界で、色彩以外はこの世界と常に同じ構造、こちらの物質的構造が変わればあちらの世界の構造も変わる、まさに影の世界です、陛下"
"ほぉ、そういえば何処かで聞いたことが有るな。……ん? 普通の生命体には行き来できんかったような……?"
「確かに、普通は無理よ。忍者だとかが潜ったりできるけどね。ただ、自分以外の生身の人間が通れるようにするのは相当の使い手、専門家じゃないと無理らしいのよ。……しかも影の魔物の巣窟。普通の人間を連れて移動するには手間が掛かる」
「複数人ではなくおそらく使い手は一人かと……現場での痕跡を調べましたが、どの拉致現場でも同一と思われる人物の足跡が発見されてます」
「わたしの心当たりにはマスティマ以外でそんなことができるヤツは一人しか居ないな……女か?」
「足跡などからの痕跡から推測すると、そうですね。年の頃はおそらく人間で言うなら該当するのは10代半ばからの背丈かと」
「……この業界も狭いらしいし。まぁそいつの想定で行くのが当たりな気がするんだよね。女、ってのがまず少ないんだし」
過去にこのわたしと殺しあって、生きてるヤツなんざそうは居ないんだけど、その中でアステリア以外に手強かったのが女がそいつなんだよ。
わたしも若かったからよ、技量の不足ってのが否め無かったけど……影の世界にゲートを付くって逃げやがったからな。
「で、その心当たりの方は誰なんですかね?」
「アステリア、おまえと同じ魔女だよ。どんな血筋か知らないけどね。やたら剣を召喚して投げつけて来るゴスロリだよ……狙ってやってんじゃないかな、と思うくらい厨二入ってんの」
「中等教育過程二年目特有の思春期に有りがちな心理状態に響く言動や行動をしたがる病気、と言われても良く解らないんですが……」
「そう翻訳されんのね。まぁ大体合ってる……大体そんな性格の女だよ。ねぇ――〈剣千の魔女〉さんよぉ」
しかもこんな仕事に乗りそうなヤツだからな。
わたし相手に痛い目見たクセにやりやがる。
「あの女がわたし相手にやる気が有るかは知らないがな。それなりに手強い、油断はするなよ」
「まだ国内に居るんです? 逃げられた可能性はありません?」
「転移魔法は使われた形跡がないよ。聖魔帝国からの情報だけどね。影世界での移動は跳躍とか出来ないし――で、逃走方が解れば嬢ちゃんら含めてまだ国内に居るのはほぼ確定……なら、狩りの時間だな。探し出せ野郎ども、手当たり次第にな」
そして作戦会議が終わったその日から、このわたし、アイギスと〈妖精連盟〉の総力を挙げての嬢ちゃん達と誘拐犯探しが始まった。
シルヴェスター公国を総ざらいするような、国土一斉捜索よ。街という街、村という村。人里を片っ端から軒並みに虱潰しに探しまくる大捜索作戦よ。
地元の冒険者どもを案内役に、懸賞金まで掛けてね。まず、犯行場所の近くの一番可能性が高そうな村から当たり、捜索とともに嬢ちゃんらや怪しいヤツらの情報提供を呼びかけたの。
さらに物理的にも空飛ぶ艦隊の魔法探知で個体単位で探しまくる荒業。古代の魔法文明の軍事技術は軍艦のセンサーで人物判定すらできる超技術の代物よ。
そのおかげで捜索開始、四日目までには襲われた六ヶ所の嬢ちゃん達を無事発見、保護することができたの。
〈魅了〉の魔法で全員が意識を奪われてただけで特に外傷だとかは無かったのは幸いよ。
そして五日目……
最後に残った嬢ちゃん達の発見も時間の問題だと思われたその時、公国の主ヴィリア姫からこのアイギスさんは呼び出しを食らっていたのだった……




