第三十五話 妖精騎士アイギスさんと夜のお仕事浄化作戦と盗賊の意地(3)
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次々とシルヴェスター公国各地で冒険者たちに踏み荒らされる娼館や売春宿。
何せこのアイギスさん自ら、それまでバラバラに依って集ってたクズな冒険者たちを恐怖と畏怖と圧倒的なパワーに依って纏め上げ、冒険者どもに規律と秩序を与え、計画的に、即座に制圧作戦を実施したの。
チキンレースだけど時間は掛けられない。
戦いは速攻を旨として可及的速やかにこの戦いに決着を付けるのよ。
公国における絶対権力をこれ見よがしに振るって、売春業界の奴隷制疑惑と公都テロ容疑者との繋がりの疑いで場末の酒場にすら冒険者を差し向けたの。
結果、次々と逮捕される界隈の経営者たち。
各地の高級娼館にはこのアイギスさん自らが踏み込み、公国の秩序安寧の為、厳しく犯罪者どもを取り締まっていた。
「あ、あんまりだ! 私どもが一体なにをしたって言うんです。奴隷だなんてとんでない。見てください、あの綺麗に着飾った嬢たちを。あの娘たちを見て奴隷だとでも言うんですか」
「もうネタは上がってるんだよ、このクズども。嬢を金融商品にするとかトンデモねぇクソシステムを考案しやがって。奴隷制より酷いわ! 公共道徳秩序に反する、引っ立てい!」
「お、お待ちを! そ、その債権は金融ギルドが発行したもので我々には関係有りません。私どもは嬢たちをお預かりしているまでで――」
「実際に運営して嬢たちの売り上げを諸経費と取り分差っ引いて債権主に還元してる以上、関係ないなぞ通るか! しかもその債権を嬢の借金と同じ扱いにしやがって」
「さ、債権の価値が下がれば借金の金額も下がります。考えられた良いシステムでは有りませんか」
「肝心の嬢への売り上げの取り分が無きに等しいだろうが。何よりそんな商習慣認めた覚えがねぇ! 構わん連れて行け、地獄へな」
「い、イヤだあああ! 止めてくれぇ! 私を捕らえた所で嬢たちは手に入らないぞおお」
「契約無効で嬢ちゃんらの借金も帳消しに決まってんじゃん。で、覚えてろ。お前ら含めて利害関係者どもには上がりの不当利益の返還を要求してやるぜ」
そして連行されて行く高級娼館の経営者。
なんて野郎どもだ。嬢ちゃんらを端金で働かせて上前をはね捲ってるからな。
そりゃ高級娼館だからそれなりの小遣い貰ってるらしいけど、売り上げからしたら微々たるものよ。
「良し、野郎ども。現金から何まですべてを抑えろ。くれぐれも言うがネコババに関しては死の制裁を与える。嬢ちゃんらをお触りしてもな……掛かれぃ!」
そして冒険者たちが手慣れた感じに娼館の何から何まですべての財産を押さえる。
体よく理屈を付けてこちらも金を巻き上げていたの。てか、何から何まで犯罪行為じゃん、今までコレを黙認してたのがオカシイのよね。
そして、わたしはこのまま公国中の娼館だとか押さえ、首尾よく盗賊ギルドとの交渉に臨もうと、その時までは考えていたのだった。
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――作戦本部となった公都ヴェスタ冒険者ギルド2階会議室。
わたしは各地からの報告を聞いて作戦の成功を確信して居たの。
「直接指揮しだして三日でほぼ制圧完了か……。勝ったな」
アイギスさん、ご満悦。
懸念していた嬢ちゃん達への安全を確保し、最早何も恐れることはない状況にわたしは満足する。
今回の作戦はなにを置いても嬢ちゃん達の安全確保が最優先よ。悪党どもがこちらの動きを知って、嬢ちゃんらを隠し立てされると追跡が困難になるもの。
貴重な商品なんだから危害を加える可能性は少ないと思うけど、証拠隠滅の為に殺られる可能性も無きにあらずだったの。
依って正義を全力で希求し、法の則をブッちぎって非常事大権を行使したわ。権力者って楽しいよね。やっぱり持つべき物は絶対権力よ。
ただ、そんなご満悦のわたしにいつも背後で微妙な顔した聖女さまが浮かない顔してるの。
今日はヤケに心配顔だよねー。
「で、アステリア。何か言いたげだけど」
「まぁ持たれ掛かるアイリちゃんは良いんですけど……」
娘のアイリはお母さんのわたしに密着してるよ。
席が広いとアイリってわたしと一緒に座るんよ。
女侍らせてる見たいだな、とか言うツッコミは要らないぞ。
「…………盗賊ギルドに連絡を付けた方が良く有りません? ここのギルドって聖魔帝国の傘下なんですよね?」
「向こうから泣き寝入りしてくるっしょ。この状態でどう起死回生を図るのさ。ヤツらは動くのが遅過ぎたんだよ、時既に遅しってね」
「むしろ、こちらが動くのが早すぎたかも知れませんよね? 利害関係が複雑なのに全部ブッ飛ばして……報復に動かれる可能性は考えてたりするんです?」
「……王国の連中は動けないでしょ? 手出して来たら聖魔帝国の方で話付けると思うしさ」
ヴェルスタム王国とは揉めるな、って念押しされてるんだよね。逆に言えば向こうから吹っ掛けて来たら聖魔帝国が出てくるのよ。……つまりより厄介な連中が出てくるからそう簡単に手出せないと思うんだよね、王国系は。
「いや……私が言ってるのは盗賊ギルドなんですけど……上から強引に話も通さずに動いたら……とか思いますからねぇ……」
「まっさかぁ。ヘタしたら聖魔帝国に介入されるじゃん。その聖魔帝国が奴隷禁止条約なんて持ち出して来るんだよ。裁定されたら盗賊ギルドが不利過ぎるでしょ」
「そうだと言いですけどねぇ……」
考え過ぎじゃないかなぁ? とその時は思ってたのよ。でも、待てど暮らせでど盗賊ギルドから詫び入れが来ないの……
その間にも場末の酒場や村のその手の営業もさせる連中を見つけては冒険者たちが引っ捕らえていたわ。
そして冒険者ギルドへの苦情がわんさか押し寄せ、あろう事かギルマスからの泣きが入り込む始末だったの。
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「おい、有り得ないよギルマス。何故おまえが泣き入れる」
「苦情の原因がそれ言うなよ……それにこっちも想定外でな。……多分おまえさんもだが」
「あ〜ん? どう言うこと? こっちは順調そのものなんだけど、わたしが夜の女王になるのも時間の問題だぜ」
「なんでおまえが業界を制した見たいになってんだ。……いや、それがな。苦情が多いんだがオレもオカシイと思って詳しく訊いて見たんだよ、ココだけの話ってな」
「だよねー冒険者ギルドの依頼はもたついてるけど消化率はいつもぐらいに戻ったよね?」
「ああ、そっちは問題ない。今有るのは表向きは店主が居なくなったせいで商品の債権回収が不可能になったとか、嬢の営業に支障が出て酒場の売り上げが上がらないだとか、だが……。実はどうも一部の金持ちだとかが首吊りそうになっててな。けど、おまえに文句言えねぇだろ。冒険者ギルドに直接でもな。で苦情という形で圧力掛けられてんだわ」
「意味が解らん。ただの嫌がらせは圧力にならねぇぞ」
「掛けれる圧力がなさ過ぎて涙すら誘うぜ。……でこっから真相なんだが……あの聞いた嬢の債権システムに商人やら地主やら、貴族もそうだが一口噛んでんだよこの国の地元の皆さんが」
「……なるほど馬鹿どもが居たな。本当に泣きっ面じゃん。ざまぁ」
何を言いたいかアイギスさん把握。
メスガキとなって罵るよ、自業自得の極みだよぉ。人様安値で働かせて利益得ようって目論んでたら、全部おじゃんになるの。これほど愉快痛快なことは無い。
「バーカ、バーカ。雑魚過ぎるよねぇ」
「いや、必ずしもそうじゃなくてだなぁ……嬢からそういう営業されて乗ったとか、そういうのが有るんだとよ。ほれ利益上げなきゃ話ならねぇだろ」
「バーカ、バーカ。騙されてやんの。それに、その嬢も売り上げあがらなきゃ最悪捨てられるじゃん。寝所の言葉をまともに信じる方がこの業界じゃ悪いってね。良い経験になったな」
「経験どころか首吊りそうになってるのが居るんだよ。ド安定な投資先だと思ってた債権がいきなり不良債権化しちまったならな。しかも商売の付き合いで仕方なくとかもあったらしくてな。そうでなくても大損失……で、それを何とかして欲しい見たいな?」
「安心して逝くが良い、お前らの仇は取ってやったぜ。なにより投資ってそんなもんよ、自己責任過ぎるわ。こんなんで救済されるならこの世に首吊るヤツは居ないな」
「まぁ……そうなるよなぁ。コレが結構多くてなぁ……おまえに直接言うと何されるか解らんし」
「で、その不当利益を貪ってたヤツらは? 嬢の代わりに訴訟起こさんとダメだからな」
「泣きっ面に蜂を刺してやるなよ、せめて。……どのみち詳しくは知らねぇよ、ここだけの話とか言われるしよ」
まったく論外の連中だよね。
馬鹿な話聞いたから今日は解散かな、と思ってたらギルドのカウンターの奥から、受付嬢のレイナさんがやって来んの。
しかも慌ててね。早速冒険者ギルドに導入した聖魔帝国制魔法通信機を手に持ってたよ。
「今、魔法通信機で連絡あったんですが……アクシデントが起こったそうですよ」
「大物が出たの?」
「いえ……娼館の嬢さんが攫われただとか。一報なんで詳細はわからないんですが複数人が居なくなったらしいと」
わたしはカウンター越しにギルマスと顔を見合わせる。詳細聞かなくても、大体は解るよ。
「……やられたな」
「………………」
迂闊だった……まさかそんな事してくるとは思わなかったのよ。相手が盗賊ギルドならこっちと遣り合う事は無いよね、って。
このアイギスさん最大の不覚よ。相手は名うての盗賊の集団。予想外のことして来やがる、と後悔先に立たずだった。
「で、どうするアイギス。少しばかりマズい気がするが」
「……少しじゃなくてかなりマズいわ。詳細を調べつつ盗賊ギルドに話伺うしかねぇな……。冒険者どもを集めろ」
ギルマスと受付嬢のレイナさんも深刻な表情になった。そりゃそうでしょ……
場合に依っては戦争だ。ブチ殺すぞ、クソども。
人様の顔にクソみたいな泥塗るようなことしやがって、生きて帰れると思うなよ……
ニコニコ笑顔の上機嫌が吹っ飛んだわ。答え次第でこのシルヴェスターから一層してくれるぞ、クズどもめっ。
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そして次の日。冒険者ギルドの2階に機嫌が真っ逆さまに落ちたわたしに会いに、盗賊ギルドの長デロス老の使いで、盗賊のディックと長の孫娘、女盗賊ベロアの二人がやって来た。
もちろん、昨日からわたしの表情からご満悦だった笑顔は消えてるよ。代わりに戦場に立つ戦士の気迫と眼つきで連中を迎えたの。
「わたしの機嫌はすこぶる悪い。当然理由が解ってくれてるとは思うんだけど?」
デロス老の孫娘、魔術師でもあるベロアが話し出そうとするんだけど、一歩足を進めようとした彼女の前に手を出して制止させ、ディックが話し始めた。
「……それはそうだろうな。嬢ちゃんらを盗まれちまったらな。他でもやられてると聞いたが?」
「全部で公都以外の都市の4カ所、高級娼館がやられちまったな。他にも3個所……よりにもよって人気嬢の居る娼館をな」
「それは災難だったな。……で、盗賊ギルドに心当たりがないかとのお問い合わせだな?」
「人様の物盗むんだものぉ。真っ先に疑うよね……」
「それが盗賊という職業でな。盗む掠めるがオレたちの領分。人攫いは本分とはまぁ少し違う気もするが……盗めるのなら何でも有りだったりするしな」
「仲良く会話を楽しみたいんじゃないんだよ。で、もう一度言うぞ、心・当たり・は?」
「軽口も叩けないな。もちろん有るとも」
「返答にまでお代が必要か?」
「いや、そこまで盗賊ギルドはケチじゃない。別に答えても盗賊ギルドは困らん。ただ、最初に言っておくがギルドは関与してない、この点に付いてはしっかり明言しとかないとな。要らぬ誤解を招きたくはないからな」
本当か? とわたしは疑惑の念が尽きないけど飲み込む。手を振って先を促した。
「で、心当たりなんだが……実行犯は外部の人間でな、コイツは確たる情報をまだ掴んでない。だが仕掛けたヤツなら解っている」
「……ボロックか?」
少しばかり驚いたという顔をするディック。
冒険者ギルドも裏の事情を知らないって訳じゃない。盗賊ギルドの内部事情は前に内輪でやり合ってるのを加勢した時に取っ捕まえて吐かせてるしな。
「知ってるなら話が早いな。……だがボロックの旦那が仕掛けたとどうして当たりを付けれた?」
「盗賊ギルドが遣り合うなら出てくるだろうからな。縄張分捕られて泣き寝入りするようなヤツじゃないんだろう?」
「似たようなこと言ってたぜ。盗賊ギルドに絶縁状まで書いてな。だが、さっきも言った通り……いや、言う前にボロックの旦那とか言ってたな」
「絶縁状な。その前にはギルドとは関係ないともね」
「言葉通り受け取ってくれてるとはご理解頂けてなによりだな」
「そうで無ければ当然、ブチ殺すぜ盗賊ギルド。関与の証拠があれば消しておくんだな。調べるからな……で、そちらの不手際の始末は付けるつもりはある?」
「…………こいつを言うと怒られそうだからオレが言うんだが……無い。盗賊ギルドに何か落ち度があれば別だがギルドと関係ないヤツが仕出かした事だ。タダでこき使われる気もないとな」
「…………まぁ、良いだろう。わざわざ来てもらってご苦労だったな。また必要だったら連絡を付けるよ」
「…………何か解ればこちらからもな。――ベロア、話は終わりだ」
最後に、デロス老の孫娘がディックに何か言おうとしてたけどそのまま帰ったよ。ここでわたしが交渉だとか言い出したらしてたんだろうね。
ねぇな……先に言い出した方が負けみたいなモンだ。まだ、勝負は決まっちゃ居ねぇぞ。
わざわざ絶縁状まで書いてよくやるじゃねぇか。
確かにその手があったなと感心したぜ、ボロック。
だったら確かにやり合えるな。盗賊の流儀でな。
「ダンケスの時の意趣返しか。嬢を盗みやがって……。だが舐めるなよ、このわたしを、なぁ」
怒りが沸々と込みあげて来るよ。
羊じゃねえんだよ、羊じゃよぉ。嬢ちゃんらは人間だぞぉ、コレだから本業の方の盗賊はクズなんだ。
女を物扱いか、許せねぇな。
ヤツに人としての道理を教えてやるぜ。
そしてこのアイギスさんを舐めきったことを地獄の底から後悔させてやろう。
お前ら悪党に下げる頭はこの妖精騎士さんは持ち合わせがねぇ! 必ずブッ殺してやるぞ、ボロック!




