第三十三話 妖精騎士アイギスさんと百合百合んな日常(6)
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――夕陽が暮れる頃。わたし、アイギスさんの家ではいつもよりちょっと遅めの晩御飯となった。
子供たちの前ではいつもの何気ない食卓をよそおい、わたしの恋人たちが笑顔溢れる食事を摂る。
何一つ違和感を感じさせてはならない、という共通認識のもといつもより笑顔増しで夕食を迎えたよぉ。
唯一なにかに気付いたのか、幼女アリーシャちゃんが赤飯を夕食の一品に加えたけど。
それも平然と珍しがりながら食べたよ。へぇ、めでたい日に食べるご飯なんだねぇ。
しれっとこちらの反応を伺って来る幼女からの試練よ。ボロなど一切出さないぞわたしは。
幼女の笑顔が憎たらしい。どうして気付いた。
そして、何事もなく夕食を終えたらセレスティナさんが微笑みながら、お話しが有りますって言うから自室に呼ばれたの。
もちろん、行くよ。アイリが先にお風呂入ってる時間にね。一体どんな用事かなぁ〜。
と、バタンと部屋のドアを閉めた瞬間に詰め寄られたわ。
夕食の時までの金髪エルフの少女の微笑みが消えてた。
代わりにムスっとした顔付きに……何があったの。
そのちょっとご機嫌斜めって表情も可愛いけど。
「アイギスさん……いくらなんでも寝込みはないんじゃないですかね?」
「い、いや、途中でセレスティナさん起きてたじゃん」
「起きましたけど、いきなり過ぎて解りませんよぉ。それに雰囲気だとか……。ぇ、わたしの初めてがこんなの……って思うじゃないですか」
「だいじょうぶ。そう思って自重したよ? 初めてじゃない」
「ぇ゙」
なんかセレスティナさんが理解不能って表情するの。
「いや、幾らわたしでもその点はね。野郎じゃないんだから勢いに任せてしないよぉ」
「えぇ! なんか物凄いことになってた気がするんですけどぉ……」
「物凄いことになってたよ?」
「え? それはどの程度で、ですかね? もう夢か解んなくて痙攣しまくってた気がするんですけどぉ」
「ヒ・ミ・ツ。今度のお楽しみにしなよ……それとも、今・か・ら?」
「……あ、アイギスさん……今からはマズいんじゃないでしょうかぁ」
「だいじょうぶ、少しだけなら、だいじょうぶよ……」
わたしはそっとセレスティナさんに近づいて耳元に囁くの。ほら、朝は雰囲気台無しだったからね。
もはや大人の階段を登ったわたしに怖い物はない。
そして、そっと手を彼女の身体に――
触れようとした瞬間にドアが開け放たれた。
「ふむ。どうやらお話は終わったようだ」
雰囲気をブチ壊されて振り返ったよ。
そこには金髪碧眼の幼女が居た。その背後には天然パーマの幼女と違ってストレートの金髪を結い上げた少女も。
「……終わってないよアリーシャちゃん、アスタロッテ」
「あら、では私はアリーシャさまと見守って居ますわ。――アリーシャさま、アイギスさまの成長の成果を御目に掛けることができますわ」
「すばらしい。……遂に夢見た百合の楽園を見ることができる」
と、ベッドの上に陣取りポップコーンとペットボトルを取り出す幼女。アスタロッテもそのベッドに一緒になって腰掛けるの。
アリーシャちゃんが先を促す。
「では、気にせず続けて」
「できるか! 観賞の用意を準備万端整えないでよ」
「そんな下世話な見世物と一緒に為さるなんて。……最高の娯楽ですわよ」
「ふむ……子供でも観賞できる安心安全のイチャイチャを魅せつけてくれるとこのアリーシャちゃんは信じているのだ。さ、続けるが良い」
……もう怒りを通り越して呆れるよね。
悪魔の最高位、魔大公アスタロッテと救世者級の聖者アリーシャちゃんにして見れば人の色恋沙汰も愉悦ものなんだもん。
「帰れ、って言っても帰る気ないんでしょ……。先にお話聞いてあげるからさぁ。――ゴメンね、セレスティナさん」
「いえ……さすがにこの状況でわたしも安心安全は無理ですから。ですが、わたしが居ても良いんですか? 席外します?」
「問題ない。じゃあ、イチャイチャしながらお話をすると良い。すべて良い感じになる」
「いや、それだと話に身が入らないって。セレスティナさんもね」
「ええ……ちょっとアリーシャちゃんに見られながらは恥ずかしいですねぇ」
幼女アリーシャちゃんの前は難易度高すぎだよ、できるなら特殊性癖を疑われるわ。
「あら、アリーシャさま。やはり駄目なようですわよ?」
「ふむ……実に困った者たち。ん〜これだとアイリちゃんは大丈夫だろうか……」
「……なに? 何の話? アイリがどうしたの」
「アイギスちゃん。イエスロリータノータッチの教えは魂に刻んでるだろうか?」
「…………もちろん。娘にはいくらなんでも手を出さないって。わたし、母親だよ?」
「手を出される可能性は考えてるだろうか?」
「どうして、ここに来たか。アイギスさん把握」
どうやらアイリの事でアリーシャちゃんがわざわざやって来たらしい。
いや、その可能性はもちろん考慮してるよ。でなけりゃ、今日の夕食を家族みんなで何気ない雰囲気にしないって。
でも、アスタロッテが物憂げな表情をするのね。
「ぁぁ、そこはやはり自重してしまうんですのね。禁断の恋に禁断の愛、その障害をブチ破っての強行突破、どろっどろになるのが見たかったのに……残念ですね」
「アリーシャちゃん、隣の悪魔を早くなんとかした方が良いよ。わたしのアイリに危険が及ぶ前に」
普段仲が良いアリーシャちゃんすらアスタロッテに困った表情してんの。やっぱり仕掛けそうなんだね。
余裕だろうね、このお節介悪魔なら。もしくは天使かな?
「アスタロッテよ、我慢するのだ。耐え難きを耐え忍び難きを忍んでこそ、最高に良い感じになるのだ。焦ってはいけない」
「解りましたわ……天使王聖下直々に諫言されては私も手出しする訳にはまいりませんし……アイギスさまもどうかご自愛ください。つい押し倒すこと無きよう」
「ねぇわ。わたしの感性と常識はノーマルなんよ。アイリの為なら何でもやるけど…………しまった。そういうことなのね」
アイリの"為"ならそれこそなんでもやるよ、わたしは。
けど……アイリは本能的にわたしを求めてるからね。
セレスティナさんもそれに気付いたようだった。
「ああ、そういうことなんですね。アイリちゃんが我慢できなくなったら……それはマズいですねぇ……」
「今だと、それこそ蕩っ蕩になりますわね。アイギスさまはまだまだ加減が解らないようですし……。情操教育の成果が後から理解できる感じになりますわよ?」
「……そんなにヤバいの? え? わたしのアイリが」
「今目覚めた場合ですよ。解りやすく言うなら、常にシルフィの母性全開状態を求める状態になりますわよ。なにせアイリちゃんが求めに求めてたものがそこに有るんですから。気付いて自覚してしまうと……」
想像以上に危険だった。
人は誰しもが母を求める生き物よ。あれを一度でも食らうともうそれなしでは生きられなくなる。まさか、あの状態を常に……
ちなみに一番、深刻そうにしてるのは隣のセレスティナさんだった。求めること、わたし以上だし。
「アイギスさん。それはマズいです。もう私、シルフィちゃん無しじゃ生きれません、もういつも蕩っ蕩です」
「セレスティナさんはもっと自重しなよ……。でもヤバい事になるのは解った。アイリを母性分中毒者にする訳にはいかないわ」
母性分のみならず恋愛成分も摂取するから更に危険なのよ。常に理性が溶けた状態になるアイリ。
セレスティナさんを見るまでもなく危険過ぎる。常日頃襲われる未来が見える。
「酷いです。って言いたいんですが、わたしがそんな状況なんで何も言えませんからねぇ……。あ、でもそれだと……」
「なに、他に何かあるの?」
「他の人も襲われるんじゃ……?」
「……?」
ちょっとセレスティナさんの言ってる意味が解らなかったのよね。どうしてアイリが……?
「いえ、アイギスさんが求めてる愛の形をなぞろうとしたりとか。……そうなったらアイリちゃんも一緒になって……」
この解答に幼女が満面の笑みを浮かべた。
「セレスティナちゃんは聡い子、正解」
「正解じゃないよ……母娘揃ってヤバいじゃん」
「家族でトンデモない事になること間違い無しですわね。……あぁその禁断の百合……見てみたいですわ」
わたしは一瞬脳裡を掠めたヤベェ想像図を掻き消したわ。アスタロッテ、悪魔か。わたしの想像の斜め上を行くヤバさだわ。
ヤバい、アイリはわたしの娘よ。
それこそわたしの為なら何でもして来るかも知れん。
「アイギスちゃん……危険性を理解してくれただろうか……? おそらく良い感じにならない」
「良く理解したわ……まだまだわたしの認識が甘かったのね。それでも良いじゃんと思う、わたしの邪念どもは去れ! 今後はもっと気を引き締めて取り繕ろうわ」
アイリの為なら血を滲ませるようにイチャイチャを控えるわ。でも、それはそれで違和感持たれそうじゃない。てかわたしが保たんな。……それに恋人たちとの生活を犠牲にして良いものじゃないし。
「で、どうしたら良いの? アリーシャちゃんならきっと策があると思うの。イチャイチャしつつ営みもしてアイリのことも良い感じにするそんな素敵な策が。天使王さまの叡智を授けて欲しいの」
「ふむ……。そこは計画的にイチャイチャするのだ、アイギスちゃん。どこまでの範囲が良い感じになるのかまずは家族内でルールを決めよう。アイリちゃんになるべく配慮する感じで」
以外にマトモな献策だった。てか、普通はそうだよねー。突発的にやり始めるなってことだよねー。
聞いたかわたしの中の邪念ども?
と、わたしは欲望に心を浮つかせる邪な己に言い聞かせるの。思考を分割して他人の責にするのはお手の物よ。
「わかったわ。ありがとうアリーシャちゃん……わたしのアイリの為に……コレからは健全にイチャイチャする。悪魔には負けない」
「あら、危険性を認識して性格を変えて来ましたね……。ですが、フフフ。いつまで保つでしょうかね」
アスタロッテが面白がってから碧眼の瞳を意味ありげにわたしに向けるの。色欲に濡れた視線でね。
見た目が少女とは思えぬ色気づいた表情をして。
「わたしを誘惑しないでよ……そりゃアスタロッテとはまだだけどさ。それにアステリアも連れて来て……」
「ですが、良い人でしょう? 如何ですか、私の推しは?」
「まぁ、悪くはないわね。性格に難有りだけど性根はね。あと肉体」
あの女、肉体良すぎよ。わたしの女子的感性すら誘惑される。このアイギス、欲望には嘘は付けない、純真な乙女なの。
「それは安心しましたわ。では、よろしくお願いいたしますね。いずれ私が堕としに掛かろうと思ってましたの、アイギスさまが堕とされても良いですし」
「いや、わたしじゃ無理でしょう……。向こうも相当ひねくれてるし……てかわたしは良くてもセレスティナさんとか他の家族との相性も……」
「それは問題有りませんよね、セレスティナ?」
「ま、まぁ……。でも愛し合えるかは当人の、アステリアさんの問題が有りますが……」
「逆に言うならその点だけ。後はアイギスさま次第だったのですが……、まぁアイリちゃんとは問題無さそうですし。これはイケますわね」
「いや、なんで行けるのよ。セレスティナさん以外にも居るでしょ。ゴモリーは置いといても」
ヴィリアさんは元から女の子好きだから行けそうだけど、シルフィちゃんとかティアエルとレティアさんは難易度高くないかな、って思うのよ。
積極的な方じゃないからさ。
「その辺りは問題有りませんわ、アイギスさま。もうリサーチ済みですわよ。初々しい遣り取りしてくれますわよ……フフフ。営んでしまえばコロリと」
「いや、それがなんで解るのかって訊いてるのよ。ティアエルとかレティアさんは恋人になってそんな日が経ってないんだし……」
ただ、ベッドに腰掛けた金髪碧眼の少女……アスタロッテが刺繍付きの白手袋に包まれた手を頬に当て、表情を赤らめるの。
「あらぁ。……それはですね。ベッドの上で確かめてしまえば……身を重ねれば相手の事は解ってしまうものですから。あら、私、なんて端ない。……アイギスさまともあろうお方に夜伽の話なんて」
「…………ぇ?」
今、こいつなんて言った?
わたしの頭脳、冷静になれ。シルフィちゃんとセレスティナさんは駄目だ、もうアスタロッテとしてる。
ま、ゴモリーは元からだよね。
でもヴィリアさんは……ぇ? 他の恋人は……? レティアさんとティアエルは恋人になってからそんなに日が経ってないんだよ。
「アイギスさま……いけませんわ。真の百合ハーレムの掟をお忘れに……? 早いもの勝ちですわよ。皆様方とは既に愛を確かめさせて貰いましたよ?」
「え……」
「ええ。それが我が家の掟ですし……ティアエルも隅に置けなかっでしょう? ふふふ。念の為、万全の状態にして置きました。お楽しみ頂けたようで……」
「……わたし頑張ったのに……」
あまりのショックに膝から崩れ落ちるわたし。
その様子にセレスティナさんとアリーシャちゃんが焦ってわたしに声を掛けてくれるの。
「あ、アイギスさん! 大丈夫ですか!」
「アイギスちゃん、気をしっかり保つのだ。真実とは時に残酷なもの。落ち着くが良い」
「……そんなアスタロッテが先回りして来ると思ってたから急いだのに……」
「先回りしましたよ?」
「…………」
だから、アイギス急いだの。
でないと恋人全員、寝取られかねないって。敗北感がわたしを襲う。
「フフフ。あ・と・は、わたくしとですね。これで百合ハーレムが完成っと。美味しく頂きましたわ」
「わたしにそっちの趣味嗜好はないのにぃ……。悔しい……」
「う〜ん。アイギスちゃん、みんなも大満足だから、気を取り直すのだ。悪魔に負けてはいけない」
「うん。そうだよね。アスタロッテもなんだかんだで恋人だもの……わたしの為にしてくれた事なんだよね。って納得できるか! レティアさんとティアエルは幾ら何でも早すぎでしょ!」
「魔女王の娘たるもの速攻を旨としますわ。レティアさんは……ティアエルと一緒に誘ったら誘惑に負けましたよ」
「レティアさん背徳物、好き過ぎだよぉ。てか、ティアエルもなの。ヴィリアさんは自然にイチャイチャしてたからもう遅かったと諦めつくけど。うわぁぁん」
セレスティナさんに抱きついたよぉ。
わたしの努力が何かもかも遅かったんだもの。
「あ、アイギスさん。その、顔を埋める場所が……」
「これも天使王の愛の試練なのだ……アイギスちゃん。負ける時もある、だからこそ立ち向かうのだ」
「アリーシャちゃん。良い感じにまとめないで、雑に慰めないで。それにきっとアスタロッテがこっそり家族を良い感じにしてるのよ。わたしが不甲斐ないのが際立つじゃん」
営みもなぁ、敗北感半端ないよおぉ!
そりゃ、助かってる面もあるけどまさかと思うじゃん。だから寝取られはわたしの趣味じゃないんだし。
これにはセレスティナさんも苦笑いだよぉ。
「ま、まぁ。アイギスさんも頑張ってくれてるのは解りますから……アスタロッテさんも大満足なのでは」
「私、アイギスさまと一生添い遂げようと思いますの。堪りませんね、このやってやった感は……何とも言えませんわ」
恍惚な笑みを浮かべてうっとりするのこの悪魔。
わたしアスタロッテの良い玩具だよぉ。
もう、そういう娘だって思ってるから本人には怒らないけどさぁ。
怒っても懲りないでしょ。このアイギス、無駄な事はせぬ。全てはこのわたしの不甲斐なさのせいよ。
「……で、今日はもうそれだけ? わたしはもう一杯一杯だから、もう立ち直れないから、早く帰ってね」
「あら、後はアステリアさまの事をお頼みしようかと……お手を付けるならお早めにしてくださいね。魔神王陛下ともセッティングする気ですので。それをお伝えに来たんですの」
「アステリアも大変だね……」
「堕とせる自信はアイギスさまでも有りませんか?」
「なるほどね……やれって言うんでしょう?」
「お気に召したのでしたら……。堪りませんわよ? 如何ですか?」
セレスティナさんの腰元に抱き着いてるわたしの横に来て、アスタロッテが焚き付けて来るの。
横目で見ると……わたしが内心ドキッとするくらい無邪気な笑みを浮かべてね。
偶に素の表情を出すのよね。しかも悪いこと企む時にさ。
「……頑張ってみるかな。でも、期待はしないでよね。自信はないよ?」
「フフフ。アプローチの仕方が重要ですからね。相手は相当の難物なので揺さぶるのが肝要ですよ」
「すばらしい。アステリアちゃんにも天使王の愛の試練が……良い。全力で応援しよう」
とアリーシャちゃんもご満悦。とんでもない悪戯の相談だよね。
然し、このアイギス。あわよくば悪くないと思ったの。上手くいけばアスタロッテの先を制する事ができるかも、寝取りたい、あの悪魔から。
それにほら、わたしが女の子も良いと思ってるから。そっちも含めばアステリアも守備範囲広がるでしょ、余計なお世話だけど。
なによりこのわたしの魅力が何処まで通じるかやって見たさも有る。あざとく行こうか。
そして……
天使王の愛の試練が至尊の聖女にして魔女アステリアに降りかかるの。
なに、コレがわたしの日常よ。色んなタスク抱えてる、わたしの家の普通のね。
神祖の妖精王からも試練を受け取れ。
悪くないぞぉ、女の子同士でも。
百合百合んな日常によって目覚めるが良い……
てか、わたしの日常で悶えてるなら素質は有るんでしょ? 気付かせてあげるよ、世界が広がるぞ。




